第15話 言葉合戦
カラミティの居る屋敷まで進軍したオーガ決起部隊は門の前で展開して守備兵と睨み合っていた。
守備兵は決起部隊が来るのを察知して門を閉じ、塀の上にはクロスボウ兵を配置して徹底抗戦の構えを見せている。
今にも戦端が開かれそうな中、三郎は敵を見詰めながら脱力して呟いた。
「あんま集まらなかったなあ〜」
「あんまりではない! 6人だ! 加勢に来たのはたった6人だぞ!? おいチョウソ殿、100人は集まるんじゃなかったのか!?」
「目論見が外れたわい」
当初、自分達に呼応して他の里のオーガ達も決起してくれるだろうと見込んでいた予想は大きく外れ、兵力差はちっとも縮まらなかった。
よっぽど日和見のオーガ達が多かったらしい。
「どうするんだ!? これではこっちが圧倒的に不利だぞ!」
こんな事だったら最初の作戦通り裏道を通って奇襲した方が良かったとシャルディは後悔する。
そんな彼を年長で実戦経験豊富な三郎が宥めた。
「慌てんな。こういう時はそれなりの戦い方があるんだよ」
「何か考えがあるのか?」
「敵を屋敷から誘き出して打ち破る。細い間道を使えば数の利も消えて五分の戦いに持ち込めるだろ」
「路地は使わないって言ったのは君だろうが!」
「うるせえな! 事情が変わったんだよ事情が! とにかく奴等を誘き出す!」
「そんな簡単に行くものか!」
そもそも防御側という有利な状態を相手が捨てる筈がない。何せ向こうは攻めるこちらを狙い撃ち出来る場所に居るのだ。
しかも塀に身体の大半を隠している。全身を曝露させながら突っ込まなければいけない味方とはえらい違いだ。
防御側とはそれだけのアドバンテージがあるのだ。
「おいチョウソ。何とかあいつ等を挑発して屋敷から誘き出してくれ」
「ヘヘ、挑発なら任せてくれ」
何でこんなに前向きなのかとシャルディは頭が痛くなる。そんな単純な方法で敵が有利な守りを捨ててくれる訳が無い。
チョウソが馬を進めると、塀の上から波ノ里の頭領と思わしきオーガが叫んだ。
「やいチョウソ!! これは何の真似だ!? 誰の御座所に兵を向けているか分かっているのか!?」
その怒号に怯む事なくチョウソは返す。
「おうおう海無し里の波ノ里~!! 儂等はアラッシュ様の仇討ちに参った!! お前達も族長からの恩を受けたオーガなら魔王なんぞに角を垂れてないでこの門を開けやがれ!!」
「馬鹿を言え!! 強者に従うのがオーガではないか!! 族長が亡くなった今、波ノ里は更に力ある魔王様に仕えるだけの事!!」
「同胞達が無惨に殺されたのにまだそんな事が言えるか!?」
互いに自分達の正当性を言い合う。
強さに従うか義に従うか。
両里の者達はこの言葉合戦を見守りつつ、野次を飛ばしあって威嚇し合った。
「ふん。大体何だその兵の数は!? その程度の兵で何が出来る!? しかも馬鹿正直に大通りを行進して来るとは、誰が考えた策だ!?」
ここで呼ばれたような気がした三郎は那古を進ませて前に出た。
「俺だ!! この朝比奈三郎が考えた!!」
「はぁ!? 人間だと!?」
敵方のオーガ達は突然現れた人間に驚くもすぐになんて事ない様に笑い飛ばした。
「フフフ、ハハハハハハ!! おいチョウソ!! お前それは無いぞ!! 事もあろうに人間に頼るとは情けない!! まあ所詮、仁ノ里などオーガ連合の中では最弱!! 人間ごときの力を借りるとはオーガの面汚しよなぁ!!」
他のオーガ達も頭領につられて大きく笑い出す。
その罵倒に仁ノ里のオーガ達は悔しそうに唸った。
何が最弱だ。族長も同胞も殺されたのに未だ魔王に尻尾を振る奴等こそ腰抜けではないか。だが波の里のオーガ達は人間を頼った情けない奴等とこちらを嘲笑った。
「人間の俺から見て面汚してんのはテメェ等の方だぜ!!」
その嘲笑を吹き飛ばすくらいの大音声を三郎は発した。
「オーガって奴は武を尊ぶ誇り高い者達と聞いたぞ!! なのにテメェ等は大恩ある主君や同胞達の無念も晴らさず、あまつさえその仇に媚び諂ってるたあ情けねえ情けねえ!! 勇を示したこいつ等こそ真のオーガと言うものである!!」
その言葉に仁ノ里側は勢いを大いに盛り返し、腰抜け、弱虫と逆に敵を罵る。更に鎧を叩き、槍の石突きで地を叩き、音という音を発して波ノ里を威嚇した。
遂に頭に血が上った敵の頭領が顔を真っ赤にして吐き捨てた。
「人間ごときがオーガを語るな!!」
これはもしかしたら三郎の策が上手くいくかもしれない。あと一押しであちらは悔しさのあまり屋敷から飛び出して来るかもとシャルディが期待した時だった。
「うるせえ腰抜け!! テメェ等に小細工なんざ不要だ!! それ行けぇ!! やっちまえぇ!!」
だがオーガ達より三郎の方がずっと気が短かったようだ。
その号令と共にいきり立ったオーガ達が怒涛の勢いで突撃を開始する。
「え!? おい!? おい!!」
突然の出来事にシャルディは混乱するも、後ろからオーガ達に押されて仕方なく駆け出した。
「おい!! 誘き出して戦うんじゃなかったのか!?」
「こんな腰抜け共に臆してられっか!! 一気に叩き潰ーすッ!!」
「バカがぁー!!」
馬鹿正直に突っ込む仁ノ里勢にクロスボウが向けられる。もうこうなっては進むしかない。
弓と違って素人でも狙いを付けやすいクロスボウに狙われたら、後は当たらない事を祈るか、上手く武器か防具で防ぐしかないのだ。
しかも三郎とシャルディはオーガ達の先頭を走っていた。
「放てぇ!!」
頭領の号令で一斉にクロスボウが放たれる。
だが発射された矢のほとんどが、オーガ達の手前か頭を飛び越えて後方に飛んで行った。
一体何が――?
「やっぱりな! 奴等内心この戦に乗り気じゃねえのよ!」
戦場では危機的状況であっても相手を攻撃するのを躊躇う兵士が居る。それが今の敵だ。
里同士の仲が悪いとは言え、今日まで仲間だった同胞をいきなり痛め付けるのに気持ちが追い付いていないのだ。
まあその分、人間である三郎とシャルディに攻撃が集中したのだが、それは那古が展開した防御魔法によって防がれた。そしてそれも思惑の内。
矢を突破した三郎は底無袋からあの砲身金砕棒を取り出し、その重々しい黒鉄を片手でぶん回して門を粉砕した。
「開いたぞぉ!! 我に続けぇ!!」
後に続くオーガ達に檄を飛ばし、三郎は果敢に屋敷へと討ち入った。




