第13話 獣人の魔人
カラミティに攫われたアルケーはモンティアルシュタットの中心にある旧領主の屋敷に囚われていた。
ベッドの上で目覚めたアルケーは辺りを見回し、今の状況を確認する。
どのくらい気を失っていたのか外はすっかり暗くなり満月が街を照らしていた。
すると突然、部屋が明るくなり1人の神官装束の女性が現れる。
「お目覚めになられましたか? アルケー様」
大きなもっふりとした尻尾に、頭から飛び出た狐耳を持った彼女は優しげな顔でアルケーに微笑んだ。
獣人――。
オーガと同じく亜人の一種だ。
本来ならもっと獣寄りの容姿をしているのだが、獣人よっては人間に近い容姿まで変化出来る者もいる。
彼女もその一人なのだろう。要するに人間に狐耳と尻尾を付けた様な容姿となっている。
「貴方は?」
「わたくしはシラモと申します。カラミティ様より貴方様のお世話を仰せ付かっております」
にっこりとした優しい微笑みが向けられる。
「お世話? 正直に見張りって言いなさいよ」
だがそんな笑顔にアルケーは騙されない。
獣人族は極めて身体能力が高く、素早さや身のこなしなら人間はもちろん亜人で追いつける者は居ない種族だ。
運動音痴なアルケーでは速攻で捕まってしまうだろう。
「貴方、昼間あいつが何をやったか知らないわけじゃないでしょう?」
「存じております。オーガの方々はお気の毒でした」
シラモは姿勢を正したまま涼やかな顔で言う。
気の毒とは言っても、殺されたオーガ達の事をまるで気に掛けていないように感じられた。
「他人事の様に言ってるけど、次は我が身と思わないわけ? あいつは貴方達の事なんて毛程にも思ってないのよ? そこら辺の塵を掃く様に生命を奪うわ」
「例えそうだったとしても強き者には逆らえません。逆らってどうにかなるとお思いですか? 人が地震や嵐と言った天災を恐れ、それでも自然と共に生きる様に、わたくしもカラミティ様の強さに従うだけです」
細く美しい目の奥から妖艶な瞳が覗かせる。
アルケーはその眼光に寒気を覚えた。
(この女ただの獣人じゃない。きっとカラミティから力を与えられた魔人なのね)
警戒するアルケーをシラモは面白がる様に笑みを浮かべる。
まるでいつでも貴方を手に掛けれますよと言っているかの様だ。
事実、今のアルケーに戦う力は無い。武器のアーリーライフルは山での戦闘で失くしてしまった。今ここで彼女に襲われれば何の抵抗も出来ない。
奥の手と言うものがあるにはあるが、まだその時ではないのだ。
「さあ、カラミティ様がお待ちです。あちらのドレスに着替えて下さいまし」
そう言ってシラモは部屋に用意された純白のドレスを示した。
「嫌よ。あいつと顔を合わせる気は無いわ。反吐が出る」
カラミティが自分の苦しむ姿を見て優越感に浸り楽しんでいる事は分かっている。
このドレスも、自分が用意した衣装に着替えさせたと言う支配欲を満たす為の物に違いない。そんな奴の元になんて誰が行くもんか。
「拒否できるお立場ですか?」
だが拒む彼女にシラモはにたりと脅しの笑みを浮かべた。
「先程、貴方は仰いましたね? 確かにカラミティ様は生命などに何の興味もございません。なら貴方に袖に振られた怒りがどこに向かうとお思いですか?」
「ッ!」
その答えは明白だった。
奴はあの殺戮の時、ありとあらゆる場所に住む者達を殺し尽くすと言ったのだ。
カラミティを怒らせるとまた昼の様な惨事になる。
今は下手な事は出来ないのだ。今は……。
「わかったわよ……」
アルケーは怒りで手を震わせながら、この屈辱に耐えた。




