第4話 魔王カラミティ
アルケーと笑亜はもう少しで坂を登り切るといった所で、天地を揺るがす衝撃波に襲われ馬ごとひっくり返った。
笑亜とアルケーは転げながらも近くにあった岩にしがみついて爆風に耐える。
爆風が収まるとアルケーはすぐに自分と笑亜に超回復を掛けてダメージを癒した。
「一体何が……!?」
頂上からは大きなキノコ雲が立ち上り、さっきまで聞こえていた戦いの喧騒がピタリと止んだ。
ガンッと空から落ちて来た騎士の盾に寒気が走る。
2人は砂塵舞う中、坂を駆け上がった。
坂を登り切るとそこは土砂と岩石に覆われた荒れ地だった。爆発によって崩れたのか一部は地滑りを起こし真新しい岩肌を見せている。
「騎士の皆さん、師匠はどこへ……?」
見渡しても彼等の姿はどこにも無い。
辺りは炎と黒煙に覆われていた。
「笑亜気を付けて。嫌な気配よ」
アルケーが険しい顔で前方を睨む。
そして立ち昇る黒煙から灰色の巨体が姿を現した。
「何ですかあの《《ロボット》》は!?」
笑亜は灰色の装甲を持ったその半人半虫の物体をそう呼んだ。
「ヴァナリウス……! 上位の神々が纏う戦闘外殻よ!」
「え!? と言う事はあれが!」
「カラミティよ!」
アルケーと笑亜はすぐさま戦闘の構えを取る。
騎士隊は全滅。先に行った三郎も恐らく同じ運命を辿ったのだろう。今ここで戦えるのは自分達しかいない。
ヴァナリウスの頭がこちらに向き、目にあたるでだろう顔の単眼が光った。
「フフフ、フハハハハハッ!!」
マイク越しの高笑いが響き、巨体がやって来る。
そしてヴァナリウスの人型胴の装甲は開き中から白髪混じりの男が現れた。
その風貌はくたびれた若い男と言った感じで、白髪混じりの髪は干乾びた雑草の様によれており、顔の血色も良くない。
それでも女神を前にした彼の目はそれらには不釣り合いなくらいギラギラと輝いていた。
「アルケー!! あぁ、我が愛しのアルケー!! 会いたかったぞアルケー!!」
「射撃魔法!!」
アルケーは容赦の無い銃撃を浴びせた。
だが放った魔弾はヴァナリウスの腕によって防がれる。
「フフフ。久し振りの再会なのにいきなりだな」
「アンタと話す事なんて無いわ! とっととくたばりなさい!」
そう言ってさらなる魔弾を撃ち込む。
「相変わらず烈火の如き女神だ。でもそこがお前の魅力でもある。ああ、覚えているか? お前が我を天界より追放した時に言った言葉を……。ザコが身の程を知れとお前は言った。どうだ今の我は強いだろ?」
「私から奪ったマナで強くなっただけでしょ! 盗っ人のくせに威張ってんじゃないわよ!」
「だが我は巨大な力を手に入れ、お前は力を失った。さあ今度こそお前を我が妻にしてやろう!」
カラミティは今の自分を見せ付ける様に両腕を広げ、自身の魔力を解き放つ。
その圧は魔力感知能力の無い笑亜ですらぞわりと鳥肌を立たせるほど強大なものだ。
あの魔力も、彼が乗るヴァナリウスも、かつてのカラミティには無かった。
アルケーから見れば不相応な力を得てはしゃいでいる愚か者。しかし今の彼女とカラミティの差は決定的だ。
「アルケー様。カラミティを追放した原因ってまさか……」
「ええそうよ。アイツは私を妻にしたいとか言って来たの。それで振ってやったら逆上して私を連れ去ろうとしたから天界から追い出してやったの」
アルケーは忌々しい過去を笑亜に教える。
「《《それ》》が話しに聞くお前の勇者か?」
その笑亜にカラミティのゴミを見る様な目が向けられた。
ただしこの「ゴミを見る様な」という表現は蔑むという意味ではない。無駄なもの、不要なもの、価値の無いもの、といった全くの無関心から来る冷めた視線だ。
そうカラミティは笑亜という存在を全く問題視していないのだ。
向けられた視線に応える様に笑亜は名乗りを上げる。
「ええそうです。私はアルケー様の勇者、志――」
「こんなものに頼るなんてお前も愚かになったものだ」
だがカラミティは笑亜を無視し、アルケーとだけ言葉を交わす。まるで彼女に価値を見出していない。
「愚かなのはどちらかしら? 下界で暴れて弱い者いじめをしてるアンタの方がよっぽど愚かよ! 笑亜はたった1人でもアンタを倒すために戦ってくれた紛れもない私の、女神の勇者よ!」
「アルケー様……!」
女神の言葉に笑亜は胸が熱くなる。まだ強化魔法も発動していないのに力がみなぎり、何にだって負ける気がしなくなった。
(そう。私はこの時のために今まで戦って来たの!)
アルケーと胸に下げた仲間達の思いを燃やし笑亜は進み出る。
「私は女神アルケー様の勇者、志藤笑亜! 魔王カラミティ! この世界を荒らし、人々を傷付けた報いを受けなさい!」
勇ましく可憐な口上が辺りに木霊した。




