第2話 騎士隊VSゴーレム
偵察隊からの報告を受けてシャルディは馬を走らせていた。
坂を駆け上がると、そこには緑が美しい高原が広がっており、先にある丘に偵察にやった部下が手を上げていた。
「モンスターはどこだ!?」
彼が受けた報告は、大型の未確認モンスターがこちらに向かっているという情報だった。いや正しくは「生き物なのか分からない大型の未確認モンスター」だ。
シャルディは部下に指し示された方向に目をやる。そしてそこには見たこともないモンスターがいた。
「何だあれは……?」
確かにソレは動いていた。
だがそれが生き物なのか分からない。
先ずその姿に一番近いのはアラクネという人間の上半身に蜘蛛の身体を持ったモンスターだ。
本来は洞窟や森などで巣を張り獲物を待ち受けるモンスターで、こんな開けた場所に出て来る事はない。
通常のアラクネが精々馬くらいの大きさなのに、目の前のモンスターは家ほどの大きさがある。
更に全身を灰色の鎧で覆われており、頭には生意気な一角があしらわれていた。
「あれはアラクネ……なのか?」
「もしやゴーレムなのでは?」
「バカな。アラクネ型のゴーレムなんて聞いたことがありませんよ」
部下達も困惑して各々で推測を述べる。
だが見た限り奴からは生き物の様な躍動感が無い。動かす脚もワンパターンだし、歩けば必ず上下するであろう身体も浮いている様に一定の高さを維持している。
生き物の形をしているが生き物らしくないのだ。
「隊長。如何しましょう?」
騎士達は隊長であるシャルディの判断を仰ぐ。
あれが魔王軍側の何かである事は確実なのだが正体が分からない。だがだからと言ってこのまま素通りする訳にも行かない。
シャルディもそんな部下達の気持ちを分かってか勇ましい顔で言った。
「たかが1体のゴーレムなんて恐るに足りん! 先ずはヤツを仕留めるぞ! フレデリクの隊は丘を迂回しあれの側面を突け!」
隊長の指揮の元、騎士達がすぐさま部隊展開を始める。
ゴーレムは頑丈な体と重量を活かした攻撃が厄介なモンスターだ。
だがその動きは遅く、また頑丈とは言っても自分達が放つ魔法で倒す事は十分可能だ。現に彼等はこれまでゴーレム討伐を何回も成功させている。
統率の取れた血気盛んな騎士達が突撃陣形を整え、それぞれの配置に着く。
その間もゴーレムはこちらに向かって前進を続けていた。
「配置完了しました」
「よし、ゴーレムが丘の下に来たタイミングで突撃を開始する」
騎士達は丘の稜線に隠れてその時を待つ。
彼等は魔王軍と戦う為にこの地にやって来た。
だが急いで来てみればどこの馬の骨とも分からない者達が終わらせてしまっていたのだ。
(その悔しさをあのゴーレムで晴らす!)
馬の嘶ぎと共にフレデリクの別働隊が動いた。
「フレデリク、早ったな!」
まだ予定地よりずっと手前なのにもう飛び出してしまった。
だが特に問題はない。シャルディも遅れじと剣を掲げ号令を発しった。
「突撃開始! 早駆けに前へぇ!」
待ってましたと言うように騎士達は馬を蹴って突撃を開始する。
ここに来てようやく彼等に気が付いたのか、ゴーレムは足を止めた。
体から黒い円柱状の何かがせり出し右手に装着される。
そして、その幾本の筒が束ねられた物体の先が、早って飛び出したフレデリク隊に向けられた。
ダッダッダッダッダッ――!!
ゴーレムに装着された《《ガトリング砲》》から無数の魔法弾が放たれる。
その弾丸の雨を何の防御も無く受けた部隊は、先ず先頭のフレデリクが人馬諸共砕けた。
雨は止まず、更に後続の騎士達を襲う。
顔を撃たれてもんどり打って落馬する者、愛馬とと共に大地に沈む者、主の死を知らず死体を引きずって駆ける馬、圧倒的で無情の雨が騎士達から赤い血煙を昇らせて行く。
(何だ……あれは!?)
シャルディはその光景に絶句しつつも味方へ叱咤する。
「止まるな止まるな! 奴に飛び込め!」
彼我との距離200m。
(あれほど巨大な武器だ! 懐に入ってしまえば使えまい!)
駈歩から襲歩へ。
抜剣し鬨を上げて、目の前の影に刃を突き立てんと疾駆する。
だがそれがどうしたと言わんばかりに、ゴーレムは別働隊を塵肉にした兵器を次なる目標に狙いを定めた。
「ッ!! 散れ!! 散るんだ!!」
剣を振って叫ぶ。
見た所あれは弓やボウガンと同じ正面の敵を攻撃する物だ。その手の武器の対処法は分かっている。ただ、
(逃げ切れるか!? あれほどの魔弾から! 今から!)
やがてガトリング砲が彼等を殲滅すべく起動する。
騎士達は何とかあの暴風雨から逃れようと、自らの愛馬を死ぬ気で走らせた。
ヒュッ――、ガンッ!!
その時、どこからか飛翔して来た矢がゴーレムの砲身を弾く。そのまま魔弾が空に向けて流星の様な尾を引きながら放たれた。
命拾いしたシャルディは呆然とし、その流星群に目を奪われる。
その刹那、天に響く大音声が辺りに木霊した。
「朝比奈三郎義秀!! 推参!!」
恐れを知らぬ坂東武者がただ一騎。
死地に馳せ参じた。