表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神のさぶらい 〜逃げた勇者共に代わり武士を召喚してやった〜  作者: サムハラ
第四章 魔王襲来編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/209

第1話 怖い人

 荒れた岩山の坂道を人馬の列が行く。

 周囲は見晴らしの良い岩山だらけで、快晴ということもあり、その雄大な大自然がどこまでも見通す事が出来た。

 欲を言えばこの景色を眺めながらシートを広げて飯を摂りたい所ではあるが、今はそんな場合ではない。

 ここはモンテドルフから最短距離でモンティアルシュタットに向かう為の峠道だ。


 出発から4時間くらい経っただろうか。途中、何度か小休止を挟みながら、騎士達は順調に北上していた。

 騎馬と行っても常時走れる訳ではない。むしろほとんど並足、人間で言うただ歩いている状態である。

 これはアルケーにとっては嬉しかった。何せ速歩以上だと馬の上下運動について行けず、お尻をハンマーで殴られる様に突き上げられるからだ。


「なあ、カラミチは今どの辺りに居るんだ?」


 馬に揺られながら三郎がアルケーに問い掛ける。


「それがあいつ今、自分の気配を消してるのよ。昨日はあんなにはっきりと自分の存在を伝えて来たくせに、本当嫌らしい奴」

「って事は騎士共の物見頼りか。まあこれだけ見通しが良いんだ。魔王軍が来てもすぐに見つかるだろ」


 日本の鬱蒼とした峠道とは違い、木の一本もないこんな高所は陣を張るのにぴったりな場所だ。

 もし魔王軍が近付いているならここで迎え撃つのも良いと思っていた。

 次に笑亜の様子を見る。ようやく訪れた魔王との戦いを前に、いつもの明るい顔が消えて些か固くなっている様子だ。

 そんな彼女に声を掛ける。


「ようやく弔い合戦が出来るな」

「はい。必ずカラミティを倒してみせます」


 気合いが入ったと言うより気負った顔で笑亜は返した。

 思いの他、解れなかった緊張に三郎は坂東武者(俺達)とは違うなと思いつつさらに声を掛ける。


「気負うな気負うな。そんなんじゃ戦えねえぞ」

「そう言われましても……」

「こういう時は勝った後の褒美でも考えとくんだ。そうすれば、ぜってぇ手柄上げてやろうって、気合も入らぁ」

「そうですか? う~ん、やっぱり思い浮かばないですね。私的には、私を頼ってくれたアルケー様やこの世界の人達に喜んで欲しいだけなので」

「良い子! やっぱり貴方は良い子だわ!」


 殊勝な言葉に後ろのアルケーが嬉しそうに笑亜を撫でる。ただし手が放せないので彼女の腹をだ。


「ちょっとアルケー様、変な撫で方しないで下さいよ~」


 わずかだが笑亜にいつもの調子が戻った。

 この少女は呆れる程に人が良いのだろう。

 ここ数日、一緒に過ごしていたが、彼女の行動は全て他人の為に動いていると言って良い。

 誰かを助けたい、誰かの役に立ちたい、期待に応えたい、そんな健気な思いが伝わって来るのだ。

 特に元の世界で死にそうになった所を救い、勇者として異世界に送ってくれたアルケーの期待には是が非でも応えたいのだろう。

 それ故に気になっている事が一つあった。


「前から思ってたんだけどよ。逃げた勇者共をとっ捕まえて連れ戻そうとはしなかったのか?」


 女神から力を与えられたと言われる勇者達。

 笑亜ほど責任感が強ければ引き止めようとした筈だと三郎は思った。


「魔王軍との戦いは本当に過酷で、皆さん疲れ切っておられました。そんな人達に戦いを無理強いする事なんて私には出来ませんよ」


 その答えに三郎は鼻で笑う。


「甘えな。俺ん家なんか逃げた甥を駿河まで追いかけて連れ戻したぜ」

「えぇ、可哀想……」

「可哀想もクソもあるか。一族の危機に加勢しない奴なんか斬られても仕方ねえんだぞ。現に俺は敵方に着いた従弟をこの手で討ち取った。お前さんもそいつ等を殺す気で引き止めときゃ良かったんだ」


 三郎も笑亜の健気さは気に入っていた。むしろよくぞ1人で頑張ったと敬意すら抱いている。

 だからこんな少女を置いて逃げた他の勇者達の事がどうも気に食わなかった。

 だが笑亜からしてみれば、三郎の言葉は暴論に聞こえる。


「私達の時代は師匠の居た時代とは違います。戦争なんか無い平和な時代なんです。そんな乱暴な事は出来ません」

「なら教えといてやる。戦ってのはな勝たなきゃ滅びる。だから勝つためならどんな事でもすんだ」

「嫌がる人を無理矢理引っ張ってでもですか?」

「おうよ」


 三郎は何の迷いも戸惑いもなく答える。

 笑亜は息を呑んで武者を見詰めた。

 今まで接して来てこの人は決して悪い人ではないのだろう。ただやはり生きた時代が違うからなのか、自分達現代人とは全く違う考え方を持っている。

 特に戦いに対しては恐ろしく無茶苦茶だ。

 武士とはこうあるべきという潔さを示す事もあれば、どんな事をしても勝つなんて言う暴論を述べる事もある。

 それはその場その時で自分に都合の良い解釈を言っている様に感じた。


「師匠。私はたまに師匠が怖くなる事があります」

「ほう。俺が怖いか? はは」

「何で笑ってるんですか?」

「武士は恐れられてなんぼだからな! 舐められちゃ坂東武者の名が廃るぜ!」


 そう言って誇らしげに笑う。

 こういうところだ。


「怖い人」


 その時、前方を行く騎士隊がにわかに騒がしくなった。

 怒号の様な叫び声がいくつかしたかと思うと、やがて堰を切った水の様に駆け出して行く。


「お、魔王軍でもおいでなすったか?」


 いよいよかと三郎もこれに続こうとした時、


「待ってください! これ以上速度を上げるとアルケー様が落っこちちゃいます!」


 見れば叫ぶ笑亜の後ろに居るアルケーが顔を強張らせて、これ以上は無理と目で訴えていた。

 せっかく敵が来たのにその鈍臭さに三郎はイライラし始める。


「何やってんだよ! こんなんじゃあいつらに先越されるぞ!」

「いやこれ以上は無理。今でもお尻ガンガン突かれて精一杯なのに……」

「仕方ないのでゆっくり行きましょう師匠。ほら、主役は遅れてくるって言いますし」

「はぁ!? 誰がそんな事言ってんだ!」

「わ、私達の時代ではそう言われています」


 師を説得させるために言った言葉で逆に機嫌を悪くしてしまった。


「そんなのはな、どうせ先陣争いも出来ねえザコが言い訳してるだけだ! 武者なら抜け駆けしてでも一番に敵陣に突っ込まなきゃ手柄取れねえだろ!」


 武士にとって一番手柄とは敵将を討ち取る事ではない。一番手柄とは誰よりも速く敵陣に一番乗りする事。そのためなら味方を出し抜いたり、軍規に反して抜け駆けする事も多々あった。

 だから遅れて参戦しようなんて三郎からしたら言語道断、臆病者の言い訳にしか聞こえなかった。


「もういい先に行く!!」


 そう言い残し、唖然とする2人を置いて、ピューッと自分だけ騎士達を追って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ