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第15話 不屈VS親衡

 アルケー達の嫌な予感は当たっていた。

 ドラゴン退治でカーシェの森にやって来たドラコフォンズは突然不屈の襲撃を受けて大混乱に陥り、そしてまんまとラミは連れ去られてしまったのだ。


「は、ははは! やった! やったぞぉ! ラミを取り返した!」


 彼女の身体を抱えながら不屈はこの上ない喜びの声を上げた。

 薄暗い森の中を駆けて傭兵達から距離を取る。この森で暮らしている不屈にとってここはホームグラウンド。どこに行けば逃げやすいかなんて分かりきっていた。

 やがて追手の気配が消えたところで不屈はラミを下ろして思わず抱き着き押し倒す。

 それに対してラミは眉間にシワを寄せて不満気な顔をした。


「こんな事をしてちぃ様が黙っていると思う? アンタ殺されるわよ?」

「望む所だ! オレとお前の仲を裂こうとする奴なんてぶっ殺してやるよ!」

「なら何でさっきそうしなかったの?」

「さっきのは最終警告さ! これでもまだ来るようなら本気でやってやる!」


 不屈は目をカッぴらいて威勢良くうそぶくが、喋ってないと歯がカチカチと鳴り手も震えている。明らかに虚勢だ。

 ラミは小さな声で「まだ足りないわね」と独り呟く。そして人差し指を空に向けた。


「アレ」

「あ? あっ!」


 示された方を向いて不屈が思わず声を上げた。

 上空に翼の生えた人影がこちらを伺っている。

 更にラミがすぐそこの地面を指差すと、そこには中心に目を持った花が咲いていた。


「クソッ! バレてるのか!?」


 ラミの様子から察するにこの花は親衡と一緒にいた精霊の物だ。そして空からも監視されている。

 いつ攻撃が飛んで来るか分からない状況に不屈は飛ぶように立ち上がった。

 すぐに立ち去らねばとスキルを発動しスピードフォルムになった時だった。


 ヒュンッ――!


 風切り音と共に木の影から何かが飛んで来たかと思うと、こちらを狙って来る様にカーブして肩に直撃した。


「ぎゃぁ!? 矢が、曲がった!?」


 ズンっと強い衝撃と痛みに不屈は堪らず転げる。

 飛んで来たのは何の変哲もない矢だ。それが追尾ミサイルのようにカーブして飛んで来たのだ。


「隠れておらず出て来なされ! 獣狩は大の得意ですぞ!」


 親衡の声が響く。

 そう、この矢は彼が放った物。

 通常、矢の軌道は直線ではあるが、弓を傾けて矢を斜めに番えて放つ事で空気抵抗によりカーブショットを放つ事が出来る。

 だがこの場合、矢の威力は格段に落ちてしまうので武士はまずやらない曲芸射撃だ。

 それでも「お前は逃げられない」と不屈を追い詰めるのには十分過ぎる一手だった。


「う、うあぁぁぁーー!!」


 不屈は進退窮まり声を裏返らせて躍り出る。

 既にアタックフォルムの姿となっている彼は両掌に魔力を集めると高圧縮した魔弾を放った。

 この魔法は竜の鱗さえも貫く一撃だ。邪魔な木々など砕きながら武者を狙い飛んで行く。

 だが狙いが甘かった。

 親衡は少し身をかがめてこれを回避するとお返しとばかりに矢を射返す。しかも今度は曲芸射撃ではない真の一射だ。

 八人張りの強弓から放たれた矢は草を薙ぎ倒し、既の所で躱した不屈の鼻先をかすめたのだが、その衝撃波だけで不屈の身体はぐるりと回転して地面に叩き付けられた。


「クッソォー!!」


 それでも立ち上がり今度はディフェンスフォルムとなって吶喊する。

 このフォルムならあの程度の矢は防ぐ事が出来る。懐に飛び込んでしまえば弓は使えないだろう。


「マリリン!! 長刀!!」


 親衡はすぐに不屈の狙いに気付くと、横に控えるマリリンに弓を預けて長刀に持ち替える。

 すると不屈はマント状の魔力をマフラーに変化させてスピードフォルムとなって斬撃を躱した。

 あの長刀はどういう訳か魔力を切り裂く刃だ。

 だが高速で動けるこのフォルムなら躱すことは容易い。

 躱した隙を狙って蹴りを見舞う。

 しかし鎧を纏った親衡は微動だにせず鼻で笑って柄で殴打を加えた。


「その姿はただ速いだけと分かっている!」

「クソッ!」


 不屈は一旦距離を取る。だからと言って他のフォルムにチェンジする事も出来ない。

 アタックフォルムでは防御力と速度が、ディフェンスフォルムでは攻撃力と速度が、スピードフォルムでは攻撃力と防御力が弱点となってしまう。

 魔王討伐の旅ではそう言った弱点を武具やアイテムで補っていたが、それがない今はスピードで回避しつつ隙を見て攻撃するのが最適解だ。


「舐めるなよ。オレは諦めない!」


 今一度、獣の如き俊敏さで親衡の周囲を駆け巡る。

 対して長刀を構えてその時を待ち構える泉親衡。

 不屈は彼の背後から襲い掛かったが、親衡はすぐさま察知して長刀を振るう。

 しかしここで不屈は地面を蹴ってそれを躱した。それどころか空中に跳ね上がると、足を揃えて全体重が乗った飛び蹴りを食らわせ、初めて武者を怯ませたのだ。


「はん! 見たか! 力は速度と質量だ!」


 例え攻撃力がなくともスピードさえあれば突進である程度の威力は出る。まだまだこれからだ。

 もう一撃を入れるべく不屈は駆け出す。

 だが意外な一撃を貰った親衡はもう同じ手は食わないと長刀を巧みに扱い牽制した。

 背後から飛び込もうとすれば石突きが突き出され、横に飛び出れば刃で薙がれる。

 身体能力では不屈が上回っているが、武の直感や技術は親衡の方が上だ。

 その死闘にラミは木の影から笑みを浮かべている。


(ふふふ、そう、そうよ不屈。ちぃ様と戦いなさい。アナタは一線を越えれば次のステージに行ける人間。アタシという女を欲してギラギラを取り戻すのよ!)


 この状況はまさに彼女の計画通りだった。

 ヴァンパイア一族に伝わる誘引の魔法でカーシェの森にドラゴンを呼び寄せる。そしてそれを討伐する為に親衡を案内し不屈と戦わせるのがラミの狙いだったのだ。


 ではそこまでして何を望むか?


 それは不屈のギラギラだ。

 自分を取り返そうとしときながら、不屈は今まで中途半端な嫌がらせで終わらせていた。それが一度は親衡を殺そうとまで思い立ったのだ。

 これはチャンスだと、そんな今ギラギラしている不屈に一線を越えさせ、新しい未知のステージに至らせようと企んだのだ。

 ここまで来たらもう言うしかあるまい。


 彼女は悪女だ。


 自分の望みの為ならどれだけ周りを振り回そうと構わない。そんなたった1人の女の企みによって不屈と親衡は激突を繰り広げた。

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