第14話 傷心の不屈
「はっ、オレはどうなって?」
割りとすぐに不屈は目覚めた。
すぐに斬られたと思った個所をペタペタと触るが当然傷なんてない。それを確認してフッと一安心するが、すぐに目をひん剥いてまた喚き始めた。
「よ、よくもやってくれたなクソが! オレを怒らせたらどうな――痛ッ!?」
だが台詞の途中で三郎に打たれてしまう。
「ならお前さんが壊した家ん中のもんはどうしてくれるんだ? えぇ!?」
「はぁ? なに被害者面してんだよ!? それで暴力振るって良い理由にはなら、ない……でしょぉ……」
どんどん殺気立っていく三郎の眼光に不屈の勢いは見る見る失速して行く。最後の方なんかビビりまくって敬語になるほどだ。遂には口をアンコウの様に広げて泣き出してしまった。
これはもう心が折れたなと見たアルケーは優しい調子で諭すように言った。
「不屈。今日は帰って頭を冷やしなさい。このままラミに固執して両方ぎくしゃくしたまま暮らすか、諦めてゼロから始めるか、よくよく考えなさい」
不屈は口元を歪めて低く唸りながら睨み付ける。
しかしやがて諦めたのか、さよならも言わずにとぼとぼと泣きながら帰って行った。
彼の姿が遠くなってからアルケーはようやく溜め息を吐いた。
「はぁ~、やっと帰ったぁ。アンジェ、ミュンネイ、後を着けて街の外へ出たか見て来てちょうだい」
一応また変な気を起こさないとも限らないので2人を尾行させる。
いつもならこんな面白そうな事、ノリノリで受けてくれそうなアンジェリカだが、不屈の事で相当キテたのか、彼女もまた大きな溜め息を吐いて後を追った。
「これでラミさんの事を諦めてくれるでしょうか?」
「分からないけど、相当こたえたみたいだし明日にでもカーシェの森に行って様子を見ましょう」
「めんどくせえなぁ。放っといても良いんじゃねえのか?」
「ダメよ。ああいうのは変な気を起こす可能性大なんだから。周りに被害が出ないようにちゃんと処理しないと勇者にした私の沽券に関わるわ」
まるで不屈を爆弾のような扱いでものを言うアルケー。
そうこうしていると先ほど出発したばかりのアンジェリカとミュンネイが帰って来た。
「戻ったよ~。あいつちゃんとカーシェの森の方に帰ってったから問題なーし」
報告するアンジェリカだが何故か妙にテンションが高い。さっきはめんどくさそうだったのに。
気になったアルケーはまさかと思い聞いた。
「えらく速かったけど、めんどくさくなって途中で切り上げて来たんじゃないわよね?」
「え……」
アンジェリカの顔が凍り付き間が生まれる。
そしてあわあわとしながら慌てて取り繕い始めた。
「や、やっだなぁアルち。そんな訳ないじゃーん。え~アタシらそんな風に見られてたのぉ? ピエンなんだけど~?」
「あの男、いきなり例のスピードフォルムになって街の外に駆けて行ったんです。傭兵団の村とは逆の方角だったのでカーシェの森に帰ったんでしょ」
「そー! それな! あのフォルムになったらアタシらで追い付ける訳ないじゃん! だからバックリした方角だけ確認して帰って来たんよ!」
「ふ~ん、そうなのね。ごめんなさい疑って」
なお本当の事を言えば、めんどくさくて適当に切り上げようとアンジェリカが企んだその矢先、不屈がスキルを発動した感じだ。
ともあれ不屈は傷心して帰って行った。
このままラミを諦めてくれれば良し。そうでなければまた手を考えなければならない。
今日は色々と精神的に疲れたので心を休ませ、不屈の様子を見に行くのは明日にする事にした。
したのだが翌日、出発の直前になって菊子からの呼び出しがあり、アルケー達は指定の場所へと向かった。
そこは元々カラミティの屋敷があった場所で、周辺のハリボテ同然のバラック屋と違い王国軍が代官庁舎として建設した石造りの立派な建物だ。
そして現在、ここは街を解放したシャルディが一応の主となって使っている。
兵士に案内されて代官執務室へと通される。部屋では既にシャルディと菊子が机に地図を広げて待っていた。
「あぁようやっと来はった。急な呼び出し堪忍なぁ」
「ご足労感謝する」
見ればシャルディは武装している。明らかに戦いに赴く前の姿だ。
「一体何の用なしら? 武装して来いって言うからして来たけど。ただのモンスター討伐って訳ではないわよね?」
「前に言うとった3体の一級ドラゴンのこと覚えてはる? 1体はアルケーさんらが、もう1体はドラコフォンズさんらが倒して、最後の1体が残っとったんやけど、それが近くに姿を現してん。せやからこれを討伐して来てもらいたいんや」
「あー、なるほど。そんなバケモノが出たなんて大っぴらには言えないわよね」
一級ドラゴンは災害とも呼ばれる凶暴なモンスターだ。そんなのが街の近くに現れたなんて知れれば大パニックになる。
おそらく自分達を呼びに来たギルド職員も詳しい事は知らなかったのではなかろうか。
正直、今日は不屈の様子を見に行きたかったのだがドラゴンが出たのなら仕方ない。後回しねと小声で三郎と笑亜に伝え2人は頷いた。
「それでそのドラゴンは何処にいるの?」
「カーシェの森いう所です」
「「「え?」」」
まさか、
「既にドラコフォンズも向かっている」
「「「え!?」」」
まさかのぉ!?
「何でも泉さんのお連れがカーシェの森に詳しいようで、一緒に行きはったわ」
「「「えーーーーーーーーーーーーーー!?!?」」」
だーい誤算!!
「うるっさい!! 何なんださっきから、え、え、え、え、騒がしいな!!」
「いえ! ななな何でもないわ!」
「早速行って来るので地図下さい! 地図!」
「え? えらい張り切ってはるなぁ。はい地図――」
「「「行ってきます!!」」」
菊子から地図を引ったくり3人は慌てて飛び出して行った。
「何やあれ?」
「あの3人、以前より息が合ってるな」
庁舎を飛び出た3人は馬に飛び乗り猛ダッシュでカーシェの森に急ぐ。
不味い。これは不味い。
傷心中の不屈の前に親衡とラミが現れたら何を仕出かすか分からない。
「どうすんだ!? 奴らが出くわしたら厄介だぞ!」
「あだだだだ! いだ、いだだっだ!」
「あーダメだこいつ! 喋れねえわ!」
「アルケー様! 落ちないようにギュッと掴まってて下さいよ!」
疾走する馬の振動に尻をガンガン突き上げられて、必死に笑亜にしがみつくアルケー。
でも今は仕方ない。一刻を争う事態なのでしばらく耐えてもらおう。




