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第16話 不屈敗北

 その頃、カーシェの森へ急行していたアルケー達は前方から向かって来る傭兵達と出会していた。

 見たところ数人が怪我をしているが、ほとんどがまだ元気な状態だ。

 その中に先日芋粥を食べて喜んでいた傭兵の顔もあったので、この団体がドラコフォンズである事と見た三郎は、彼らの前に那古を寄せて事情を聞いた。


「お前らどうした!?」

「例のストーカー野郎が仕掛けて来たんだ! そんでボスが退けって……!」

「親衡が戦っているの!?」


 アルケーの質問に傭兵は頷く。

 遅かった。既に恐れていた事が起きてしまっている。


「三郎! 先に行って2人の戦いを止めなさい!」

「心得た!」


 アルケーはすぐに三郎を先行させた。

 自分達が乗る馬よりバイコーンの方がずっと速い。

 那古の腹を蹴って土煙を上げながら三郎が駆けていく。

 笑亜も遅れながら、アルケーを気にしつつ出来るだけ急いで後を追った。


 一方、親衡と不屈の決闘は徐々に親衡へと傾き始めていた。

 スピードフォルムの高速戦闘で圧倒するつもりだった不屈だが、親衡の粘り強さに疲労が溜まってしまい次第にその動きに粗さが出て来ている。

 対して親衡は重装の大鎧を纏って居るのにも関わらず全く疲れた様子を見せない。まるでまだウォーミングアップとでも言うような余裕の顔をしている。


「情けない。鎧を纏う私より先に息が上がってるではありませんか」

「うるさい……! 一体何なんだよアンタ……!」


 不屈は背後から仕掛けるが、親衡は鎧の袖で受け止め、ズンッと踏み込み弾き飛ばす。すると何か思い出したかのようにハッとした顔を見せた。


「あぁ、そう言えば、まだ名乗っておりませなんだな」

「はぁ? 名乗り?」

「左様です。如何に貴方が曲者と言えどこれは一騎討ち。ならばお互いに名乗りを上げて臨むのが戦の作法というもの」


 何を言ってるんだと不屈は呆れ返るが、当の本人は大真面目だ。

 現代人から見れば殺し合いに名乗りなんてあり得ない。馬鹿馬鹿しいし余計な手間、ただのカッコつけのように感じるだろう。

 だが武士にとって戦場(いくさば)は生死を賭けた大舞台。勝てば栄光、負ければ死。ならば今生の総仕上げに己が名を発するのは当然だ。


「我こそは!! 清和天皇(せいわてんのう)が第六の御子(みこ)貞純親王(さだずみしんのう)御子(おこ)たる六孫王ろくそんのうより4代の後胤(こういん)信濃守(しなののかみ)にして伊奈真人(いなのまひと)と呼ばれし武士(もののふ)源為公(みなもとのためとも)様より7代の孫、信濃は小泉の住人!! 名を泉小次郎親衡いずみのこじろうちかひらと申す!!」


 低音ながら轟きのある声が森に響き渡った。

 

「さぁ、貴方も堂々と名乗られよ!」

「ハッ! 誰がやるか! 名乗りとかダセェんだよ!」


 不屈は無視して真正面から仕掛ける。

 だが無策ではない。今、親衡は長刀の構えを解いてる状態だ。なら真正面の最短コースで飛び込んでやれと言うのが狙いだ。


「愚かな」


 が、親衡は半歩引き下がり腰を落とすと、そのまま長刀の柄を跳ね上げ――、


「自分の名すら堂々と名乗れぬ者が!!」


 向かって来た不屈の顎を打ち上げる。

 そのまま――、


「何を望み!!」


 よろける彼の頭を掴み――、


「何を成すことが出来ようものか!!」

「ングギィュウゥゥ!?」


 プレスされ潰される鉄クズのような悲鳴を上げて不屈は顔面から叩き付けられた。

 それでも気絶はせず何とか逃れようとするが、親衡はしっかり身体を抑えつけ逃さない。遂には首を掻っ切るべく短刀を抜く。

 野太い声が轟いたのはそんな時だった。


「待て待て待てぇぇい!!」


 土煙を上げて那古を駆る三郎が駆け込んで来た。突然の騎馬突進に親衡は弾き飛ばされまいと飛び退いて回避する。

 三郎は那古を不屈の身体を跨がせるようにして停止させた。


「うぼぉぉぉ!! 遅いぞざぶろーさぁん!! アイツ、アイツ!! アイツごろすの手伝って!!」

「お前さんは黙っとけ!」


 ゴンッと那古に蹴られる不屈。

 今の三郎は戦いを止めに来ただけで親衡をどうにかしに来たのではない。不屈を那古の馬体で守り、自身は弓矢で牽制する。

 水を差された親衡はにこやかながらも不満の籠もった声で問うた。


「何用です三郎殿?」

「アルケーからの命により、このいざこざを止めに来た! この男を死なす訳にはいかねえ! テメェもさっさと刀をしまいやがれ!」

「生憎と、私は一度口にした事を容易に取り消す事はしません。その者は我が警告を無視して攻めて来ました。なので首を刎ねます」


 こればっかりはさすがに鎌倉時代の武士という他あるまい。


「どうしても殺るってなら、俺は力尽くで止めるぞ?」

「その方が好都合では?」


 その返答に三郎の目が一気に殺気立った。

 確かに不屈を守って親衡と戦ったならばどうとでも言い訳が立つだろう。何なら三郎自身それを期待していた節があった。

 だがそれは別として自分の心を見透かしたような態度が坂東武者の気に触った。

 親衡の周りにマリリン、ネイル、ローズの三精霊達が集う。3人共に明らかに三郎の殺気を警戒していた。中々いい勘をしている。

 親衡は彼の愛馬である角の折れたユニコーン――、千曲を呼び寄せると、長刀と弓を交換して馬上の人となった。


「私も貴方に射抜かれた(もとどり)の借りを返したかった所です。立ちはだかると言うのならこれ幸い! 泉小次郎親衡!! いざ参る!!」

「上等だ!! 朝比奈三郎義秀!! 受けて立つ!!」


 互いの意地と誇りを賭けて武者共の一騎討ちが始まった。

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― 新着の感想 ―
これ異世界でなければ歌舞伎になるやつだ
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