第10話 ギラギラ
昨日に引き続いてアルケー達はドラコフォンズの村を訪れた。
今日も村では傭兵達が訓練や土木作業に勤しんでおり村中に快音が響いている。
親衡は街周辺のモンスター討伐についてシャルディとの打ち合わせで留守、あの精霊3人衆も周辺の森や川や山に出掛けて、家にはラミだけが残っていた。
アルケー達を出迎えたラミは昨日の和室とは別の洋式部屋に彼女達を通す。やっぱり自分が応対するなら慣れた様式の部屋の方が良いらしい。
ラミはレモンの香りがする水を出すと閉じた目をアルケー達に向けて聞いた。
「昨日の夜、不屈がまたこの村に来ました。説得はダメだったみたいですね」
「やっぱり迷惑をかけてたみたいね。ごめんなさい。あいつ中々の捻くれ者で私達も手を焼いてるの。しかもどうやら、今度は本気で親衡を殺して貴方を連れ帰る気でいるようよ」
「え!? 不屈が!?」
ラミは驚いて口をぽかんと空ける。そしてすぐに気を落ち着けるのだが、その時、彼女の口角がわずかに上がった気がした。
(あれ? 今、笑った?)
一瞬の事だったのでそう見えただけなのかもしれないとアルケーは特に気にせず本題に入る。
「そこで貴方が何で不屈から逃げたのか事情を詳しく聞きたいのよ。ほらあいつを止めるからには事情を知っておきたいし」
「言いたくないかもしれませんけど教えて下さい」
「アタシらラミっち絶対守るから」
「あのクズに何をされたか全部女神様に言っちゃいなさい」
4人はラミに同情するように全てを打ち明けるよう諭す。
あのクズ野郎の事だ。ラミにも理不尽に当たっていたに違いない。暴力を振るっててもおかしくない。とにかく第三者から見ても不屈が悪いと分かる証言が欲しかった。まあおそらく、そんなものは山ほど出てくるだろうが。
「別に不屈から何もされてませんよ」
「「え?」」
だが期待とは裏腹に信じられない言葉が返って来た。
「いや、理不尽に怒鳴られたりは?」
「してません」
「暴力は?」
「一度も」
「じゃ、じゃあギャンブルとか酒とか女遊びとか!」
「まったく。むしろ何もしなかった事が不満なんです」
「何もしなかったって……。働かずにプーだったってこと?」
「いえ、家の畑で野菜とか森で狩りはしてくれてました」
「じゃあどういう事よ? 何が不満だったの?」
今聞いた限りだと何か決定的な欠点があった訳では無さそうだ。いや行動に問題なくてもあの性格だけでキツいものがありそうだが、どうもそういう感じでもない。
するとラミは一呼吸おいて胸の内の不満を訴えた。
「アイツ全然ギラギラしなくなったんです」
「は? ギラギラ?」
言葉の意味が分からず聞き返す。そんな中、笑亜だけが心当たりあるように、まさかという顔をしていた。
「アタシは野心と可能性を持ったギラギラしている男が好きなんです。魔王討伐をしていた頃の不屈はとてもギラギラしてた。でも森でスローライフするようになってから、段々ギラギラが弱くなって今じゃ全然面白みのない男になってしまったんです。何とか煽ってやろうとしたけど全部無駄、もう不屈に何の魅力も感じないんです」
ラミは言い切ると水で喉を潤す。まるでやけ酒のような飲みっぷりだ。
彼女が言うギラギラとは昨日言っていた目が見えない代わりに見えるという、人の可能性の光の事だろう。要するに出世する可能性を持つ人間が分かると言うものだ。
「あの人にそんな偉くなる可能性ってあります?」
どう見てもクズ人間だしそんな見込みはないと思った笑亜が聞いた。
するとラミは分かってないとでも言うように笑い語り出す。
「不屈のギラギラは他の誰よりも強いんですよ? 彼がその気になれば世界中にその名が知れ渡り歴史に名を刻む。アタシはそう確信してます」
やっぱりこの人、見る目がないかもと師匠と同じ事を思ってしまう笑亜。
次にアルケーが聞いた。
「でもあの性格キツくない?」
「わがままと言うことは裏を返せば意志が強いという事。その意志の強さが彼の可能性の光を最大限に輝かせるのです」
何だか見限ったとは思えないくらい彼を弁護するラミ。
アルケー達はこのやり取りで何となく彼女の好みの男が分かってしまった。要するにラミは出世して偉くなる男が好きなのだ。
だから不屈の事が嫌いと言う訳ではなく、魅力を感じなくなってしまったと言うのが正解だろう。
どうしたものかと4人は顔を見合わせる。
てっきり不屈に原因があると思っていたが、実際はラミの心変わりだったのだ。
いやまあラミも心ある生き物なのだから心変わりくらいして当たり前……かもしれない。
「さてアタシが何故、不屈を見限ったかという話しですよね? 少し長くなりますけど良いですか?」
「こんな状況で昔話するの!?」
「だってその為にいらしたのでしょう?」
むしろ聞いて欲しそうにラミは自分と不屈の話を始めた。




