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第7話 酔いの勢い

「三郎! 貴方なに言ってんの!?」


 突然の物騒な発言にアルケーも驚いて問い詰める。何でいきなり親衡を殺す事になるのか?

 いや、そう言えばこの坂東武者はずっとこの調子だった。

 そしてこれには不屈も唖然として返した。


「殺すなんてそんな……。そこまでは……」


 元々彼にそこまでする気概なんてない。そこそこ親衡達を怖がらせ、後悔させてやり返せればと思っていた程度だ。

 だがそんな常識はこの武士には通じない。やると決めたからには殺るそれが鎌倉時代の武士だ。

 アンジェが持って来た水を一気飲みし三郎は酒臭い吐息を吐き続ける。


「お前しゃんも親衡も女を譲りたくねえってならもう戦だろ~。俺の時代じゃあそれが普通だったぜ?」

「アンジェそうなの?」

「あー……まあ、足達景盛(あだちかげもり)の妻寝取られ事件とかあったし……。その他、江戸時代までちょくちょく……」


 アンジェリカは遠い目をしながら一例を上げる。


 足達景盛(あだちかげもり)の妻寝取られ事件とは、2代目鎌倉殿である源頼家(みなもとのよりいえ)が御家人である足達景盛に賊徒討伐を命じておいて、彼が家を留守にしている間に、彼の妻を攫って寝取った事件であり、終いには「足達景盛を討て」と危うく鎌倉で戦が勃発しかけた割と洒落にならない事件である。


 三郎に迫られた不屈は顔を俯けて目を動揺させた。だがいま一歩の踏ん切りがつかない。


「でもラミにもう来るなって言われたし……ブェッ!?」


 そんな怖気づいてる不屈に三郎は平手打ちを入れた。


「怖気づいてんじゃねえぞぉ。来るなって言われたら家に押し入って力尽くで言う事聞かすんだよぉ」

「むちゃくちゃ言うこのおっさん!」

「女なんてのは結局強ぇ男に惚れるんだ。だからお前さんも男見せろよ~。親衡の野郎をむっころしてぇラミを奪い返せ~」


 酒臭い吐息に不屈は顔をしかめる。いつもならこのまま説教うぜぇとか精神論ダセェとなるのだが、そんな反骨心が起きないくらいに彼は参っていた。


 どうやったらラミを取り戻せるか?


 村から逃げてからどうしようどうしようと泣きながら考えたが、結局賢い方法は見つからなかった。

 だからか三郎の単純で短絡的な方法が一番の最適解に感じられた。

 親衡に斬られた腕が何故かずきずきする。

 スキルで回復出来たから良いものの、もしスキルが無かったら今頃……。

 そう思うと自分は何をしても良いような気がして来た。


(先に手を出して来たのはあっちなんだ。ならオレがやり返しても許されるはず。撃って良いのは撃たれる覚悟のある奴だけだ! 今までは殺さないように手加減してやってたが、あっちがその気ならこっちもやってやる! 悪いのはオレを怒らせたあいつらだ!)


 不屈は目に力を取り戻すと髭面に向かって問う。


「じゃあ、どうすればいい? どうやってあいつを殺る?」

「寝ている時、風呂に入ってる時、とにかく油断してる時を狙え」

「分かった。やってみる!」


 早速飛び出そうとした不屈だったが、それを三郎は止めた。


「あー待て待てぇ。今日はあっちも警戒してるだろ。数日待っておいて、その間に奴が隙を見せる時を見極めるんだよ~」

「なるほど……。何つーかアンタこういうの慣れてるな」

「そりゃあお前、こちとら坂東武者だぜ? 殺し合いなら任せとけ」

「坂東武者? え? ネットでよくネタにされてた蛮族武士!? あぁ何かそれっぽい格好だなって思ってたけどマジで日本の武士!? 勝った! 第3部完だわ!」


 どうやら三郎を武士と知ってますます信頼したらしい。さっきまで情緒不安になって泣き喚いていたのに、日本史における殺し殺されの時代を生きた荒事のプロの助力にもう勝った気でいる。

 2人はそのまま景気づけだと酒盛りを始めて夜遅くまで酒場に入り浸った。



 ――翌朝。

 と言うかほぼ昼前、三郎は見事に二日酔いになって起床した。

 くらくらする頭と重苦しい身体を揺らして宿舎のリビングにやって来る。

 すると既に起きていたアルケー達が軽蔑する様な眼差しを向けた。


「ん~? 何? どうかしたか?」


 その視線に何だか背中に冷たいものを感じた三郎は何があったか問う。

 するとアイテム整理をしていた笑亜がそっぽ向きながら答えた。


「前々から乱暴な人だとは思ってましたけど、昨日の事で師匠が嫌いになりました」

「昨日?」

「親衡を殺してラミを奪えって話よ。不屈ったらすっかりやる気になってるわよ」


 三郎と不屈はやる気になっていたが、アルケー達はそんな無法なこと承知できる筈がない。

 昨日も何度か考えを改めるよう言ったが2人は全く取り合わなかった。だから三郎に対する当たりがこんなに冷たいのだ。

 もはや三郎は不屈と並んで軽蔑の対象となっていた。

 冷たい視線に晒され三郎はどうしたら良いか分からない様に目を泳がせる。

 酔いが覚めて多少は昨日の発言を反省したのかも知れないと思った時、


「……え? 俺そんな事言ったの!?」


 まさかまさかの覚えてなかったパターンだった。

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