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第6話 面倒くさい勇者

 まるでこの世の全てがうざったいとでも言うように不屈は頬杖を付いて貧乏揺すりをしている。

 正直、こんな奴には近付きたくないのだが、カラミティを倒す為に勇者を仲間にする事の方が先決だ。だからどうにかこの面倒くさい風船を割らない様に気を付けて話しかけた。


「不機嫌そうね。何かあったの?」

「あん? チッ、不機嫌の原因その3が来ちゃったよ」


 一層顔をムッとさせて目を逸らす。

 アルケーはそんな不屈の向かいに座り、彼の両隣には笑亜とアンジェリカ達が逃げられないように座った。


「おい何勝手に座ってんですか?」

「良いじゃん。美女に囲まれてうれしいっしょ?」

「別に嬉しくねえし」

「てかボロボロじゃないですか。ホント何があったんです?」

「アンタらに関係ないだろ。もー、どっか行ってくれませんかね? オレ今1人になりたいだよ!」


 不屈は寄るなと腕を振る。だが彼の右腕はまだ不自由な状態だった。その不自由な腕が意図せずしてアンジェリカの胸に落ちた。


「あ……」


 俗に言うラッキースケベに不屈は固まる。いや感覚がないから胸に触れたところで、その柔らかさを感じる事が出来ないのだが。


「アンジェ、こいつ処そう。このぷらぷらとだらしない腕を斬り落としてやるわ」


 不屈の後ろを取ったミュンネイが手刀を構える。間違いなく斬撃系の魔法を放つつもりだ。


「ちょ、ちょっと待て! そんなつもりじゃ――!」


 このままじゃヤバいと不屈は右手を引く。引くと言っても腕が動かないから身体全体を仰け反らせ胸から右手を離したのだが、バランスを崩して笑亜の膝を枕に倒れてしまった。

 当然、笑亜は悲鳴を上げて逃げる。

 頭の支えを失った不屈はまたバランスを崩し最後は床に転げ落ちた。


「痛てぇ。クソったれが!」


 起き上がろうとつい右手を支えにしようとするが、力が入らず倒れる。

 それを見ていたアルケーはようやく彼の右手の不自由に気が付いた。


「貴方、その腕どうしたの? 動かせないの?」

「再生魔法の反動ですよ。明日の朝には治る」

「再生魔法って……、一体この数時間で何があったの?」

「アンタらには関係ないだろ!」


 不屈は意地になって話したがらない。そりゃあ、また村に嫌がらせをしに行って、今度は親衡にボコボコにされた挙句、ラミからもこっぴどく別れを告げられたなんて恥ずかしくて言えない。

 この酒場に来る前だって人気のない路地で散々八つ当たりと涙を流して、ようやく気を落ち着かせてから来たのだ。


「ん~? またチカチュウの所に行って、今度はボッコボコにされたとか?」


 だがアンジェリカに見事に言い当てられた。

 不屈はうんとも違うとも言わず、目を泳がせて黙り込むが、それが正解である証明となった。


「ウソ!? マジで当たった!? マジかチカチュウ! もうやり返すとかヤバたんワロタ!」

「うあぁ~~ん!!」


 突然、不屈は声を上げて泣き始める。


「えぇ? 何? いきなりどうしたの!?」


 あまりにもみっともなく泣き喚く不屈の姿にアルケー達は思わずドン引きしてしまうくらいだ。

 何せお前は泣き方を知らないのかと思うくらい、身体の大きさに対して見せてる姿が幼稚なのだ。

 手足をバタバタと暴れさせてテーブルに八つ当たり、さらに顔をぐちゃぐちゃに歪ませて大口を開けて子供の様に泣き喚く。

 そんな大人げない姿を見てしまったら不思議とスンっと冷静になってしまった。


「これは……どうしたらいいのかしら?」

「何か……話せる感じじゃ無さそうだし、そっとしておく?」

「ぶっちゃけ絡まれると面倒くさいです」

「よし。そっとしときましょう」


 ちょっと今は関わり合いたくないなと4人はその場を離れようとする。

 すると不屈は泣き腫れた顔を持ち上げて引き留めた。


「ちょっと待てよぉ! アンタら人がこんなに泣いてるのに知らんぷりか!? 酷い奴らだ! 女神様なのに慈愛の心とか無いんですか!?」

「1人になりたいって言ったのは貴方でしょ!?」

「でもこう何かあるだろ! それくらい気を使えよな!」

「そんな気遣い貴方にする義理は無いわ!」

「な!? なんて薄情な女神様だ! あ~あ、どうせオレ達勇者の事なんてどうでも良いと思ってるんだろ!? 魔王と戦わせる体の良い駒としか見てないんだ!」

「アンタいい加減にしないと勇者だとしても許さないわよ!」


 普段、他人を『貴方』と呼ぶアルケーが『アンタ』と呼び始めた。

 魔王カラミティを倒す戦力として不屈の力は確かに欲しい。だがこんな自分勝手な人間を連れて行くなら、もう仲間にしなくてもいいような気がしていた。むしろその方がストレスを受けずに済むし。

 そしてそれは笑亜達も一緒で彼の印象は地の底まで落ちていた。


「ラミっちもよくこんな男を彼氏にしてたよね」

「クズ男が好きなんじゃない?」

「えぇ、そうなんですか? 私は無理ですこの人」


 レディ達の辛辣な言葉が突き刺さる。

 それに耐えきれなくなったのか、不屈はまたもや大声で泣き出した。

 

「うおぉ~ラミぃ~!! 何であんな奴のところにぃ~!? あんなおっさんのどこがいいんだよぉ~!!」


 おっさんとは泉親衡の事だろう。

 確かに不屈から見て彼は10コ近くは年上ではあるが、不屈と親衡を比べた場合、全員が親衡を選ぶだろう。それだけ男としての格が違い過ぎる。ラミが親衡を選んだのも頷けた。


「アルケー様どうします?」

「正直、もうこいつ仲間にしたくないわ」


 完全に愛想が尽きた目を向ける。

 と、その時後ろからのそりと三郎が現れた。


「話しは聞かせてもらった~。要はお前しゃんまだラミの事をあきや……あきゃ、あ……。クソぉ!! まら口が痺れてやがゆ!!」

「アンジェお水もらって来てお水」

「まだラミさんの事諦めてないんですよね?」


 舌の回らない三郎の言葉を笑亜が通訳する。


「当たり前だ! ラミを他の男になんて渡したくない!」

「じゃあやるこたぁ一つだ。親衡の奴をむっころしてやれ」

「親衡さんをぶっ殺――はいぃ!?」


 とびきり物騒な言葉が飛び出した。

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