第5話 ゲンベとの再会
不屈を逃がしてしまい、しかも借りていたモンスター用の檻まで壊したアルケーはその事を菊子へ報告していた。
幸い檻の弁償代はこれまで倒して来た魔人討伐の褒賞金で賄えるらしく、何か損が出た訳ではなかったが菊子からネチネチと小言を言われた事が悔しい。
もやもやしながらもアルケーはアンジェリカ達を連れてギルドの酒場へとやって来る。ここに三郎と笑亜が居るはずなのだ。
モンティアルシュタットのギルドはカルカスと違いまだ冒険者の数は少ない。それでも酒場は仕事を終えた職人達が一杯やろうとそれなりに繁盛していた。
そんな中で、三郎の直垂姿はよく目立つ。いつも被っている烏帽子を探せば直ぐに見つかった。
と、よく見れば三郎と笑亜は誰か他の客と親しげに話している。
額に角を生やした赤髪の亜人。以前このモンティアルシュタットを支配していたオーガ族だ。
そのオーガの若者はアルケーの姿を認めると明るい笑顔を見せて彼女を呼んだ。
「あ! あぁ姐さん! お久しぶりッス」
「あら、ゲンベじゃない。こんな所で何してるの?」
見知った顔にアルケーも驚く。
彼の名はゲンべ。以前この街に居たオーガ族の戦士で、三郎とは共にカラミティに立ち向かった仲だ。アルケーの事も、三郎の主人ならびに、死んだ兄を助けようとしてくれた恩義から敬意を込めて「姐さん」と呼んでいる。
カラミティとの戦いの後、オーガ達はモンティアルシュタットから撤退してそれぞれの里に帰った筈だった。それが何故またこの街に居るのだろうか?
この質問にゲンべは言いづらそうに答えた。
「あの後、オーガ族で内乱が起こりまして……。負けてこの街に逃げて来たんです。で、今はこのギルドで冒険者やってます」
「あ、それは……」
悪い事を聞いたとアルケーは言葉を詰まらせる。
それをゲンベは慌てて明るく返した。
「いやぁ、気にせんで下さい! むしろここの生活が快適って言うか、ほら俺達ってこの辺りの土地感あるし、夜目も利くんでギルドマスターや他の冒険者からめっちゃ頼られるんッスよ~! とりあえず今はここで力を蓄えて、里を奪い返す機を窺っています!」
「そうらそうら! 人間どん底に落ちても生きてさえいりゃあ、なーんとかなるもんだ!」
酔った三郎が勇気付けるようにゲンベの肩を叩く。
憎き敵にやり返す為に気を伺い雌伏の時を過ごす事は三郎の時代ではざらにあった。
だから共に戦った仲と言う事もありゲンベを応援したいのだ。
と、ここで端から見ていたアンジェリカが言った。
「ちょいちょいちょーい。アルち~。アタシらにもその人紹介してよ~」
「あ、うん。オーガ族のゲンべ。以前、一緒にカラミティと戦ってくれたのよ」
「ゲンベです。よろしく」
「アタシはアンジェリカ! こっちは好きピのミュンミュン! よろしく『ベーちゃん』!」
「べー……ちゃん?」
いつもの如くアンジェリカは人におかしなニックネームを付ける。それを横に居たミュンネイが諌めた。
「アンジェ、会ったばかりの人にニックネーム付けるのやめなよ。あと私の名前ミュンネイだからそっちで呼んでね、ベーちゃん」
「俺の事はそっちで呼ぶんッスか!?」
相変わらずミュンネイも自身のミュンミュンというニックネームをアンジェリカ以外に呼ぶ事を許さない。
結局、ゲンベにはベーちゃんというニックネームが付けられた。
「ところでアルケー様。あの人はどうしたんです?」
「逃げられたわ。檻も壊されて菊子に嫌味言われて来たところ」
アルケーはうんざりした様子で席に着くと、通り掛かった店員に酒を注文した。
「言ってもらえれば私達も謝りに行きましたのに」
「別に良いわよ大した事じゃないし」
「うぇ〜!? アルち、アタシとミュンミュンは巻き込んだじゃん!」
「貴方達は現場に居たんだから当然でしょ! 私だけに貧乏くじ引かせないで!」
そう言ってアルケー達はゲンベを入れた6人で夕食を共にした。
不屈を逃がしてしまった事は残念だが、今はそんな気持ちは置いといて食事を楽しもう。
気持ちを切り替えてアルケーは出された料理や酒を味わう。その姿は1日を終えた達成感に満ちていた。
他の皆も「お疲れ様」と1日の苦労を労い乾杯する。三郎はゲンベにこれまでの武勇伝を回らない舌で話す。笑亜はそんな師匠の通訳をし、アンジェリカとミュンネイは興が乗ったのか酒場のステージに上がって歌とダンスを披露した。
そして夜も更けてゲンベは帰って行き、アルケー達も酔い潰れた三郎を起こしてギルドの宿舎に帰ろうとした時だった。
酒場の扉が乱暴に開かれると、つい数時間前に飛び出して行った加須貝不屈が機嫌悪そうに入って来た。
「……あいつ、よく帰って来れたわね」
不屈は口をへの字にしながら適当な店の席に着こうとする。途中椅子に足をぶつけると八つ当たりする様に蹴飛ばした。
その不機嫌そうな態度に店員も、面倒くさそうな客が来たとうんざりしている。
さらにそれを証明するように「さっさと来いよ店員! 客だぞ!」と不屈は声を荒げた。
「どうします? また仲間になるよう話しますか?」
「正直、あの男と話していると凄くストレスを感じるんだけど……。ん~、仕方ない。もう人踏ん張りしましょう」
1日の締めをしたところだが、カラミティを倒す為、アルケーは残業する事に決めた。




