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あなたで染め上げて  作者: 春野 幾


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4/5

再開

もうすでに一限の開始には間に合わないことがわかっていたので私の足取りは非常に重かった。

出席にならない可能性があるのにわざわざ授業に行くのもどうかと思ったが、時間をつぶす方法もないので教室へ向かった。

 流石に教室の前の扉から堂々と入る勇気はないので後ろの扉からこっそり忍び込んだ。必修の授業ではあるが一限ということもあり出席している人はそこまで多くはない。最悪暇つぶしにでもなればよいかと思いながら席に着いたとき黒板の隅に書いてある文字が目に入った。

 “本日の出席はコメントペーパーです。教卓においているので各自取ってください”


「やった。」


思わず声が漏れた。特に大学の授業に対して熱意があるわけではないが、小中高を通して皆勤賞をとるくらいには真面目だったので、欠席したことになるのは少しバツが悪かったのだ。

 そんなことで喜んでいると、教室の前の扉から一人の男が入ってきた。


「すみません!!!、人助けをしていました!!」


そんな言葉実際に初めて聞いた。おばあちゃんを助けていたとかはよく冗談で聞くのだが、本当に言う人がいるのか。 


「あ、」


あの人だった。あのうづくまった女性を助けたあの男性だった。同じ大学だったのか。

教授は彼のあまりに素直すぎる発言に少し驚いていたが、すぐにコメントペーパーでの出席であることを彼に伝えて彼に席に着くように告げた。

 教授に席に着くよう言われた彼は睡眠学習中の人たちをかいくぐって席に着いた。その際私は何だか決まずくて少し顔を伏せていた。だが、彼はそんなことはお構いなしに私の横に座った。


 「え、座るの?」


心の中で思わずつぶやいてしまった。顔を伏せたままでいてもどうにもならなかったので講義に集中しているふりをすることにした。どうしてかはわからないが緊張した時間が続いた。


 やっとのことで授業が終わった。


「あの。同じ大学だったんですね。」


予想通り彼が私に語り掛けた。


「あ、はい。」


隣の席に彼が座った時点でなんとなく話し掛けられることは分かっていたのだが何の準備もしていなかったために声が裏返ってしまった。彼に笑われてしまった。


「初めまして? 青野空って言います。よろしくね」


すごく丁寧な人だった。上品で、育ちが良いのだろうとすぐわかる。


「初めまして。柳田彩です。よろしく願いします。」


こんな時期になって自己紹介をすることがあるとは思わなかった。


「さっきはありがとうね。本当に助かったよ。」


いやいや、君があの女性を助けたんだろうと思いながらとりあえず「いえいえ」と答えた。

他愛ない会話をしたのちに彼は


「じゃあ、また会うことがあったらその時はよろしくね。」


と言い教室を去っていった。


「すごく、きれいな人だな。」


それが空くんへの私の最初に持った印象だった。



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