自宅にて
「おかえり」
家に帰ると珍しく父がいた。父は医者で大学の付属病院で働いており、多忙を極めているため幼いころから家で父と過ごした時間はそう長くはなかった。自分の部屋へ向かうときに何度か父と目が合ったが特に会話が交わされることはなかった。
「ふぁあ、疲れた。」
サークルで疲れ切っていたので吸い込まれるようにベッドに横たわった。ふと友人らにかけられた言葉を思い出した。
あんな言葉何度も聞いて聞いた。どうせみんな「かわいそう」と思って私に話し掛けてくるのだ。
ふと、テレビ棚の上の家族写真が目に入った。家族全員笑顔で満ちている。思えば家族で一緒に出掛けたのはあの写真の時が最後だったかもしれない。満開の桜の下で家族三人で撮った写真。ただ私には満開だろうとなんだろうと白黒なのだが。
「彩、ご飯できたよ。降りてきなさい。」
母が私を呼んだ。父がいる食卓に行くのは少し決まずい気持ちもあったが、腹が減っている事のほうが優先されてすぐに食卓へと向かった。
「大学はうまくやれているか。」
食事も終わりかけたときに父が突然私に問いかけた。あまりに突然だったので驚いたが、それよりも私の大学生活に興味を示していることに驚いた。
「うん。楽しくやれてるよ。最近はちょっとだけ忙しいけどね。」
「そうか。ならいい。」
しっかり返答したはずなのに帰ってきた答えは思っていたよりも素朴なものだった。この人は患者にもこんな感じなのだろうか。私が患者だったら病院が嫌いになってしまいそうになるくらい愛想がない。
食事も終わって私は自分の部屋に戻った。
「あぁ、なんで色が見えないだけなのに。」
その続きの言葉は言ってしまえば自らを傷つけることにしかならないと感じたので言葉を留めた。
色づく桜が美しい家族写真は色を失っていた。
恋愛パートまでしばしお待ちください。




