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第7話:勇者の切実な願い






食後のお茶を飲み終えた二人は、川辺に座ったまま次なる作戦会議を始めていた。

「よし、腹も膨らんだところで……問題は山積みだな」

瀬尾は胸ポケットの煙草の箱を取り出し、傾けて中身を確認すると、あからさまに眉間に深い皺を寄せた。中身は空っぽ。さっき吸ったのが最後の1本だったのだ。


「どうかしたんですか?」

「いや……煙草が切れた。最後の1本だったわ……」

あからさまにテンションがダダ下がり、絶望したような顔をする瀬尾を見て、澪はニヤリと口角を上げた。

「あー……愛煙家の瀬尾さんにとっては死活問題ですね。……ちなみに私の通販画面、日用品のところにタバコもありますよ? 残高的に余裕で買えますけど」

「マジか……!? 頼むから見せてくれ!」


画面を覗き込んだ瀬尾の目がカッと見開かれる。見慣れたパッケージがしっかりと並んでいた。

「ある……! 相沢さん、いや相沢様! 頼む……! 一生のお願いだ買ってください……! 今の俺にとって、あのトカゲの魔石は全部このタバコに化けさせるためのものなんだ……!」

「待ってください、全額タバコに注ぎ込む気ですか!? 食料とか生活用品も買うんですよ!?」

「ぐっ……分かってる! 分かってるから一箱……いや二箱だけでも頼む……っ! 荷物持ちでもなんでもやるから……!」


さっきまでの頼もしい姿が嘘のように、必死に手を合わせて拝んでくる瀬尾。澪は腕を組み、面白そうに見下ろした。

(そういえば、会社にいた時とこんなにも態度違うんだもんね…… もしかして私の指導係だった頃、影でめちゃくちゃイライラさせてたのかな。え、私そこまでやらかしてないよね!? 今でも根に持ってる事あったらどうしよう……!!)


必死な瀬尾を前に、澪の顔が目まぐるしく変化する。瀬尾は拝む手を止めたまま、顔をコロコロ変えている澪を黙って見つめていた。

「相沢さー」

「はい!! すみません!」

「……あー、どうした?」

「あっ、ついボーッとしちゃってました……」


気を取り直した澪は、ひとつ咳払いを挟んでから呆れたように溜息をついた。

「……まったく。普段は頼れる先輩風吹かせてるのに、タバコでそんなに拝まないでくださいよ……。今後のサバイバルのためにも『魔石』しっかり稼いでくださいね! あ、あと携帯灰皿も一緒に買いますから。ポイ捨てしたら即禁煙ですからね」

「わかった!!……気の利く後輩を持って俺は幸せだ……!」


「……はいはい。『タバコと携帯灰皿購入』っと」

足元にポコンと現れたレジ袋からタバコと携帯灰皿を拾い上げ、瀬尾へ渡す。瀬尾はまるで宝物のように受け取ると、即座に火をつけた。深く煙を吸い込み、ふぅーっと天を仰いで極上のため息を吐き出す。

「……生き返った。マジで生き返ったわ……」

「ほんと、大げさですよね」

「君には分からんさ、この状況でニコチンを断たれる恐怖がな……。おかげでHPが全回復したわ」


煙をくゆらせる瀬尾の横顔を見ながら、澪は足元に転がっていたレジ袋を拾い上げ、首をひねった。

「……ねぇ、瀬尾さん。いまさらですけど、この『楽珍マーケット』ってどういう仕組みなんですかね? 画面でポチッとした瞬間に、足元にこうしてポンッと届くじゃないですか。っていうか、なんでレジ袋なんですかね」

「あー……確かに。異世界の偉い神様が、相沢さんのために裏でせっせと袋詰めして届けてくれてんのかもな」


「神様がレジ袋に内職……シュールすぎません?」

「いやいや、そこは感謝だろ。神様と、それを呼び出せる相沢様のおかげで俺の命は救われたわけだし。なんなら俺、これから相沢様の方角に足向けて寝られねぇわ」

「……あからさまに調子いいこと言ってません?」

「ははっ、バレたか。まあぶっちゃけ、いくら考えたところで分かんねぇからな。使えるもんは使っとけばいいんだよ。俺に分かるわけないし」

(急に適当になった……)


すっかり機嫌を直した瀬尾を見て、澪は自分の泥だらけのパンツスーツをパンパンと叩いた。

「はい、元気が出たところで次! 着替えを買いましょう!」

「お、そうだな。そのドロドロのスーツと俺のヨレヨレのシャツじゃ格好がつかんのは確かだな」


二人は再び通販画面を開き、動きやすいアウトドア用のシャツ、カーゴパンツ、スニーカー、そして簡易テントやタオルなどを購入した。

近くの茂みに隠れてそれぞれ着替えを済ませると、泥まみれのスーツ姿から一変、すっかりサバイバル仕様の身なりになった。


「うお、軽いな。これなら走るのも楽そうだ」

「うん、スニーカーも歩きやすい! これで置いていかれずに済みますね」

「君がバテたら背負ってやるから安心しろ」

「えっ、雑に扱われそうだから自力で走ります」

「おい」

瀬尾は呆れたように笑うと、新しいタバコを吸い、携帯灰皿にトントンと灰を落としながら歩き出した。


美味しそうに紫煙を吐き出す瀬尾の背中を見送りながら、澪は心の中で盛大に溜息をついた。

(勇者がヘビースモーカーって……神様のチョイスを疑うんですけど……)

「よし、行こう。予定通り川を下って、まずは人里だ。そっから脱出して元の世界に帰る方法を探すぞ」

「はあーい」

二人は人里を目指し、川沿いの道を歩き出した。





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