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早く地球に帰りたいので、勇者の元上司と通販魔法で快適に旅します  作者: TOMIO
第2章:国境越えと怪しい視線
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第34話:快適な旅路と未知の領域






 キャンピングカーは至極順調に街道を爆走していた。

 穏やかな光が車内に差し込む中、ハンドルを握る澪はチラリと助手席の智矢を見た。背もたれに深く体を預け、どこかつまらなさそうに煙草の箱を指先で弄んでいる。

「あー……一本吸いたい」

「だめ。車内に匂いがつくのは絶対に嫌ですー」

「窓全開にする。灰も外に落とすから」

「だーめ。風で戻ってくるでしょ」

「……ですよねー」

 すげなく却下すると、智矢は分かっていたとばかりに苦笑いして肩をすくめた。


 澪は運転席に座ったままストレージから、創造魔法であらかじめ作っておいた強力卓上空気清浄機を取り出して、智矢の膝の上にポンと置いた。

「作っといたんだよね。智君の部屋限定なら、それを稼働させて吸ってよしとしまーす!」

「やった! 話が分かるじゃん、澪!」

 智矢はさっそく自分の部屋へ移動し、ドアを閉めた。

 直後、ドアの向こうからブオオオオオン! と、空気清浄機が悲鳴を上げるような爆音が響いてきた。どんな排気力だ。


 しばらくして煙草の匂いを一切纏わずに部屋から出てきた智矢は、手元の地図を広げて見せてくれた。

「目的地までは、まだまだ遥か先だね」

「だな。まずはこの先にある、魔族領のカリスって街を経由することになるな」

「はあ……この車が快適すぎて、なんだかドライブ旅行に来てるみたいで目的を忘れそうになるよ」

「ん、忘れてもいいんじゃねぇか」

「智君まで忘れたらほんとにただの旅行になっちゃうじゃん!……私達、まともに情報収集すらできてないんだから」

「あの王国の奴らに、まともなのが一人でもいれば少しは聞き出せたんだけどな」

「……あの状況じゃ……ね。……そういえばあの王国の人達、これで諦めたのかな?」


 澪が思い出したように尋ねると、智矢は口元を不敵に歪めた。

「どうだかな。あの往生際の悪さだ、そう簡単に諦めるとは思えねえけど」

「でも、国境の精鋭隊があれだけ派手にやられたんだよ? これ以上追っ手を差し向ける戦力なんてないんじゃない?」

「力づくじゃ勝てねえって理解したならな。武力がダメなら、次は甘い言葉でも囁いて丸め込もうとしてくるかもな。いわゆる懐柔作戦ってやつだ」

「うわ……一番面倒くさいパターンじゃん。もしそんな手で来たらどうするの?」

「シカト一択だろ。取り合う価値もねえ」

「たしかにね」


 智矢の容赦ない返しに、澪は可笑しそうに口元を緩めた。

「これから入るのって魔族領でしょ? そもそも人間が入って大丈夫なのかな?」

「さあな。ダメでも無視して通りゃいいだろ」

「……それって無視できるの?」

「行ってみりゃ分かるだろ。魔族ってのが人間と全然違う感じなのかも知らんし」

「それもそうだね。次のカリスに着いたら、街の雰囲気を見ながら少し話して探ってみようか」

 話しながら走らせていると、街道の脇に青く澄み切った大きな湖が見えてきた。


 あまりに綺麗な景色に惹かれ、澪は車を路肩の広いスペースへと滑り込ませた。

「凄くいいところだね……ここでお昼にしようよ」

「おう、賛成。絶景見ながら飯にしよう」

 車を止めると、智矢はサッと先に外へ降りて手際よくテーブルと折りたたみ椅子を設置した。一瞬で席を作り上げると、さっと手を添えて席を示す。

「さぁ、どうぞ。特等席だぞ」

「わ、手際がいいね。ありがと」

(さっきの空気清浄機のお礼のつもりなのかな……ふふ)


 エスコートにクスッと笑い、通販魔法で取り寄せたカルビ重弁当とチキン南蛮、冷たいお茶を取り出す。智矢の膝の上にお重を載せてあげると、智矢の目が露骨に輝いた。

「うお……やっぱ肉だな。これ美味そ!」

「そうでしょ? はい、召し上がれ」

 お重を開け、智矢はさっそく肉をご飯ごと豪快に頬張る。

「……美味い。外で食う肉と米は最高だな」

「美味しそうに食べるよね」

 吹き抜ける心地よい風を受けながら、二人でお弁当を味わう。


 食べ終わったゴミをストレージに回収しながら、澪はポツリと思い出したように口を開いた。

「……そういえばさ」

「ん?」

「通販魔法で買い物すると、毎回レジ袋に入ってくるでしょ? ゴミになるし溜まる一方だったからどうにかならないかなって画面を弄ってたの」

「ほう。何かあったのか?」

「設定の隅っこに小さく『エコモード(レジ袋不要)』ってボタン見つけたの! これをONにしたら、次から袋なしで商品だけ届くみたい」

「マジか、ナイス。毎回あの袋の処理地味に面倒だったんだよな」

「ちょっとしたことだけど、助かるよね」


 冷たいお茶を飲み干したあとも、二人はそのまま椅子に身を任せていた。

「湖、綺麗だね」

「ああ」

「魔族領に入っても、こういう綺麗な場所あるのかな」

「さあな。あったらまた車止めて飯食えばいいだろ」

「それもそうだね」

 キラキラと光る湖面を眺めながら、思い出したようにポツリポツリと雑談を交わす。風の音と鳥の声を聞きながら、そんな調子でぼーっと過ごすこと小一時間。

 やがて智矢が「ふぅ」と息を吐き、立ち上がった。

「ごちそうさま。腹も膨れたし、ぼちぼち行くか」

「そうだね。運転は私にまかせて、智君は部屋で食後の休憩でもしててよ」

「助かる。なんかあったら呼べよ」


 片付けを終えて智矢が自分の部屋へ入り、ドアを閉めた。

 澪が運転席へと戻り、エンジンをかける。

 車が走り出すと同時に、ドアの向こうからまたしてもブオオオオオン! と清浄機が爆音で回る音が聞こえてきた。走行音をかき消さんばかりの凄まじい音量だ。

(……いや音量すごすぎでしょ……。 智君が吸うたびにこの爆音が響くのは流石に困るし、あの清浄機の動作音、なんとか静かにさせないと……)

 騒音レベルの排気音に心の中で改善計画の決意をしながら、澪は未知なる魔族領への道をまっすぐに進んでいった。





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