第32話:街道の暴走球とカフェタイム
温泉街ユウノを後にしてから数日。
キャンピングカーは快適なスピードで、緑豊かな街道を爽快に走り抜けていた。
「智君、あそこのカーブ抜けたとこに高台が見えるよ。景色良さそうだし、ちょっと休憩しない?」
「ん、そうするか。ちょうど小腹が空いたところだしな」
車を高台の木陰に止めると、澪はさっそく楽珍マーケットの画面を操作した。
「今日はなんか、甘いものが食べたい気分なんだよね〜」
「へぇ」
「智君はどうする? タルトとか食べる?」
「お、いいね。もらうわ」
画面を操作して決済を済ませると、ポコンッと机の上にレジ袋が現れた。
中から取り出したのは、テイクアウト用のプラカップに入ったアイスティーふたつと、小さな紙箱に入った色鮮やかなフルーツタルトだ。
「はい、智君の分」
「サンキュー」
智矢は素直に手を伸ばすと、タルトを一口食べた。
会社にいた頃は、差し入れや甘い物を食べている姿なんて見たことがなかったから、なんだかちょっと新鮮だ。
(……ほんと、環境が変わると人間って変わるなぁ)
「なに?」
「ううん、何も。美味しい?」
「おう。悪くない」
「ふふ、それって『美味しい』ってことだよね」
アイスティーを一口飲み、ふうと息をつく。
「ねぇ智君、そろそろこの車の名前、ちゃんと決めない?」
「……まだ言ってたのか、それ」
「当たり前でしょ。前のおはぎと黒豆は却下だったんだから。今回は真面目に考えたの。黒くて大きくて頼りになるからクロクマ号とかどう?」
「……どこの運送業者だよ。荷物届きそうだな」
「えー……じゃあカッコよくナイトパンサー!」
「暴走族かよ。普通に装甲車でいいだろ。それか黒い箱」
「もぅ!可愛げがなさすぎるー!」
二人がそんな不毛なやり取りを繰り広げていた、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
遠くから、街道を揺らすような地鳴りが響いてきた。
「ん? なんだ?」
智矢がストローを咥えたまま視線を向けた先の街道の奥から、猛スピードで何かが転がってくる。
「わ、なにあれ!? めっちゃ勢いよく転がってくるんだけど!?」
「結界、出せるか?」
「任せて! ほっ!」
澪がサッと手をかざすと、キャンピングカーの周囲に透明な結界が展開された。
直後、ガギィィンッ!!!!と凄まじい金属音が響き渡る。
だが、キャンピングカーはピクリとも揺れない。結界に激突したアルマジロは勢い余って「え?」という顔で弾き飛ばされ、ゴロゴロと空しく転がっていった。
「あー良かった〜! タルト無事! アイスティーもこぼれてない!」
「おう、よく守ったな」
胸を撫で下ろす澪の横で、智矢が感心したように頷いたのも束の間。
弾き飛ばされたアルマジロたちは諦めが悪く、キィキィと怒りの声を上げながら何度も結界に体当たりを繰り返し始めた。
ガン! ガン! ドガン!!
「……うるせぇなあ。寛げねぇなこれ」
智矢はアイスティーを置いてドアを開けた。
「智君?」
「ちょっと黙らせてくる」
外へ出た智矢に向かって、超高速で回転するアルマジロが一直線に突進してきた。
迫る金属の塊を、智矢はあくびを噛み殺しながら片手でかるーく受け止める。
「俺のカフェタイムを邪魔すんな」
智矢がそのままデコピンを一発、アルマジロの鼻先に叩き込んだ。
ドカァンッ!!
衝撃波が突き抜け、アルマジロが一瞬で粉砕された。
それを見た残りの群れが恐怖に怯み、一斉に逃げ出そうとするが、智矢が剣を軽く一振るい。逃げ遅れた魔獣たちを一瞬で一散させてしまった。
「……ちょっと智君、デコピンで粉々に砕けたけど硬そうだったよね……? あの魔獣何だったの……?」
「アイアンアルマジロだってよ。見た目の割にかなり上質な魔石落とすな。楽珍マーケットのコスト稼ぎにはちょうどいいわ」
あっという間に静寂が戻った街道で、智矢は転がった巨大な魔石と魔獣の素材を素早く回収し、まとめてストレージへ放り込んだ。
だが、そのまま車に戻ると思いきやふと立ち止まり、街道の先へと視線を向けた。
高台からの視界の先、国境の手前に、王国の紋章が描かれた旗がいくつも立ち並び、フル装備の兵士たちがぞろぞろと固まっているのが見えた。厳重な検問所を敷いて、こちらを待ち構えているらしい。
「どうかしたの?」
ドア越しに首を傾げる澪に、智矢は愛用の剣を肩に担ぐと、事もなげに口角を上げた。
「いや。なんか、国境の手前でしつこい客が固まってるからさ」
智矢は煙草を咥え、ニヤリと笑う。
「ちょっとあいつらに、挨拶してくるわ」
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