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早く地球に帰りたいので、勇者の元上司と通販魔法で快適に旅します  作者: TOMIO
第2章:国境越えと怪しい視線
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第30話:湯けむりの街






 キャンピングカーの窓を開けた瞬間、硫黄の匂いが一気に風に乗って吹き込んできた。

 長かった街道を抜けた先に広がっていたのは、あちこちから勢いよく白い湯煙が立ち上る、ユウノの街。

 無数の湯気が街全体を優しく包み込み、通り沿いには色鮮やかな魔導具の灯籠が並んで、どこか温かく幻想的な雰囲気が漂っていた。

「湯けむりがすごい! 本当に温泉街だ……」

 助手席で思わず身を乗り出すと、ハンドルを握る智矢もニヤッと笑った。

「おう。楽しみだな」

 

 何軒か宿を当たってみたものの、どこも部屋にお風呂はなく、お湯に浸かるなら街の大きな温泉施設へ行くシステムらしい。

「部屋にお風呂がないなら、わざわざ宿取らなくてよもくないか?」

「ですね。お風呂だけ入って、夜は街の外でキャンピングカー出しましょうか」

 方針が決まったところでキャンピングカーをストレージに収め、さっそく石畳の通りへ繰り出した。

ゆったりとした湯上がり用の衣を羽織った人々が行き交い、あちこちから心地よい賑わいが聞こえてくる。


  大きな温泉施設の入り口をくぐると、案内をしていたおばちゃんが笑顔で声をかけてきた。

「いらっしゃい! お客さん、遠くからかい?」

「ええ、街道を越えてきまして。温泉入りに来ました」

「そうかい、よく来たねぇ! うちの湯は初めてかい? だったらまず、その台座に乗ってる水晶にちょっとだけ魔力を通しておくれ」


 受付の脇に置かれた透明な水晶を指さされる。

「水晶ですか?」

「そうそう。ここに魔力を通すとね、その人の体調や属性に合わせて、一番効能がぴったりの湯を選んでくれるんだよ。まずはお兄さんからやってごらん」

「ん」

 智矢が軽く指先で触れると、水晶が青く光った。

「お兄さんには体の奥までしっかりほぐれる、ちょっと熱めの『アクアリスの湯』だね。お姉さんもやってごらん」

 言われるまま澪がそっと触れると、今度はやわらかなピンク色の光が灯った。

「お姉さんはお肌がつるつるになって疲れも吹き飛ぶ、とろみのある『エルフィアの湯』だね。ゆっくり温まっておいで!」


 脱衣所の前で、智矢が持参したタオルをひょいと肩にかけた。

「じゃ、行ってくるわ。またあとでな」

「あ、はい。私も入ってきますね」

 智矢を見送り、澪もタオルを手にして女湯の入り口へ向かった。

脱衣所で着替えを済ませ、期待に胸を膨らませながら足を踏み入れる。

 岩に囲まれた広い露天風呂には白い湯気が煙り、じんわりとした温もりが漂っていた。

 掛け湯をして、そろりと足を沈める。その瞬間、思わず「ふわぁ……」と声が漏れ出た。


 お湯に浸かった瞬間から、肌触りがまるで違う。ほんのりとろみのある優しいお湯が肌にすーっと馴染み、長旅の疲れを一気に包み込んでいく。

(なにこれ……っ! キャンピングカーのお湯とはぜんぜん違う……! なでただけで肌がつるつるになってる……!?)

 お湯から上がった腕を撫でてみると、指がすべり落ちるほどのつるつる感。

(はぁ〜……ずっと浸かってたいな〜……)

 頭上には静かな夜空と、情緒漂う灯籠の明かり。冷たい夜風がお風呂の熱気を心地よく冷ましてくれる。

 湯縁に腕を預け、手足をのびのびと伸ばす。体の奥まで温もりが広がって、全身の力が抜けていく。


 すっかりお肌ぷるぷるでさっぱりした心地よさのまま、智矢と合流して街の外へと歩く。

 夜風が火照った体に気持ちいい。ふと見上げると、石畳の通りの端を、キラキラと光る綺麗な蝶々がひらひらと舞っていた。青や金色の光を纏って飛ぶ姿に、思わず足を止める。

「……綺麗な蝶々。夜なのに光ってる……」

「ああ、アレか。温泉の成分に集まる蝶だな」

鑑定で調べたのか、智矢が教えてくれた。 

「温泉の成分ですか?」

「ああ。湯気の成分や魔力を吸って光るらしい。害はねぇよ」

「へぇ……異世界って感じしますね」


 幻想的な光景に一瞬見とれた、その直後だった。

 ひらひらと舞っていた蝶の数羽が、こちらへと向きを変え、一直線に顔のすぐ近くまで飛んできた。

「ウソ!?こっち来る!?ウソ!?ひやあああっ!!!」

 綺麗な光も何もかも吹き飛び、咄嗟に結界を張る。

 パシパシと結界の表面に光る蝶がぶつかる音を聞きながら、内側で頭を抱えて身を縮こまらせた。

「害はないって言いましたけど、精神的に大損害ですー!!」

「そんだけ魔力撒き散らしてりゃ寄ってくるわ」

 面白そうに口元をゆるめ、智矢は軽く手を振って追い払ってくれた。蝶たちが散り散りに去っていくのを確認し、恐る恐る結界を解いた。


 周りに人がいないのを確認し、智矢がストレージからキャンピングカーを出した。

 開いた扉へそそくさと駆け込み、バタンとドアを閉める。

「……はぁー、びっくりした……」

「無事に避難できて良かったな」

 智矢はさっそく広いリビングスペースのソファに腰掛け、缶ビールを喉に流し込んでいた。

「かあー! やっぱ風呂上がりはこれだな!」

「ちょっと待ってくださいね、すぐ準備しますから!」

 向かいのソファに座り、楽珍マーケットを手早に操作する。


 ポコンと音がしてテーブルの上に現れたのは、炭火の焼き鳥や茹でたての枝豆、冷たいトマトにお刺身などがぎっしり詰まったレジ袋。自分用のチューハイも一緒に取り出す。

「よし、完璧! 昨日は焼肉邪魔されましたし、今日は豪華にいきましょう!」

「お、刺身まであんじゃん。よし!食おうか」

「ですね! いただきましょう!」


 手元のおつまみをつまみながらお酒をあおる。

 香ばしい焼き鳥をつまみ、刺身や出汁の効いた料理を二人で心ゆくまで堪能する。

「あー、最高ですね!」

「んー……マジで生き返るな」

 やがてお腹も満たされ、すっかり落ち着いた頃、智矢は空になった缶をテーブルに置き、ソファの背もたれに深く体を預けた。

 食後の静けさに、自然と気分がほぐれていく。

 ふと智矢が視線だけをこちらへ向けた。


「なあ、澪」

「はい」

 不意に呼ばれて顔を上げると、智矢とまっすぐ目が合った。









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