第28話:大商会での爆買いと忍び寄る影
翌朝。キャンピングカーのふかふかなベッドで目を覚ました二人は、身支度を整えて再びレリアの街へと足を踏み入れた。
澄み渡る青空の下、大通りは朝早くから露店や商人たちの威勢の良い声で賑わっている。
「やっぱりクラウスさんのところに行くのが一番確実ですよね……昨日あんな感じでしたし、ちょっと大丈夫かなって不安もありますけど」
「まあな。下手な両替商やギルドに行くより、あの大商会にドカンと持ち込んだ方が変に勘ぐられずに済む。両替の手数料も取られなさそうだし」
ふたりで言葉を交わしながら歩くこと数分。昨日訪れたばかりの、一際立派で豪華なフェルゼン商会の前にたどり着く。
建物の前を守る私設騎士たちが二人を見つけるなり、慌てて姿勢を正して深々と頭を下げた。
「お二人様! いらっしゃいませ! 当主がお待ちです、どうぞ中へ!」
流れるような見事な連携で、豪華な応接室へと案内される。
ソファで温かいお茶を飲んで待っていると、バンッと勢いよく扉が開いてクラウスが駆け込んできた。
「おお、お二人様! よくぞお越しくださいました! テオも会いたがっておりましたぞ!」
「急に押し掛けて悪いな。今日はちょっと頼みたいことがあって来たんだ」
智矢が切り出すと、クラウスは表情を引き締めて深く頷いた。
「何なりとお申し付けください! 当フェルゼン商会にできることでしたら、全力を尽くします!」
智矢は革袋をいくつかテーブルの上にどんと並べた。ずっしりと重い金属音が部屋に響く。前の街のギルドの報酬で手に入れた金貨の山だ。
「この金貨に見合う分の魔石を用意してほしい。なるべく質の良いやつで頼む」
「……はい? これだけの金貨を、すべて魔石に、ですか!?」
クラウスが目を丸くする。普通は魔石を売って金貨に換えるため、逆の依頼をする客は珍しいのだろう。
それでもすぐに手下の者を呼び、手際よく作業を進めさせた。
しばらくして、大きな木箱が運ばれてくる。重々しい音を立てて開けられた中には、拳ほどもある上質な魔石がぎっしり詰まっていた。
「助かったわ。最高のレートで換えてもらえて良かった」
智矢が木箱へひょいと手をかざす。重く嵩張る魔石の山は、一瞬で空間に吸い込まれるように消えてストレージへと納められた。
クラウスが息を呑む。
「いやはや……昨日もお見かけいたしましたが、これほど巨大な木箱まで一瞬で……! 一体どれほどの容量をお持ちなのか、想像もつきませんな……!」
智矢は特に何も言わず、軽く手を振ってみせた。
「クラウスさん、昨日のお礼と、大量の魔石を用意していただいた感謝です。もうこの街には滅多に来られないと思うので……これ、受け取ってください」
澪は事前に用意しておいた段ボール箱を取り出す。
「これは……! もしかして、昨日のあの神の雫……!?」
「はい、いや、あの……焼肉のタレです。百本ほど入っていますので、お店やご家族で使ってくださいね」
箱の中身を目にした瞬間、クラウスはカッと目を見開いた。顔を真っ赤にし、全身を激しく震わせながら膝から崩れ落ちる。
「ひ、百本……っ!? ぐはっ……! 神の雫が……百本……っ!! おい誰か!! 宝物庫の最奥を空けろ! この至高の容器を毛布で包んで死守するのだーーっ! 割れたらどうするんだぁあっ!!」
「当主ー! 大丈夫ですかーっ!?」
「触るなバカ者! 割れたら貴様の命などでは到底贖えんのだぞ!!」
駆け込んできた料理長と二人で、壊れ物を扱うように箱を拝み倒している。
「……あ、あの。それプラスチックなんで、投げたりしない限り割れないと思いますよ。あ、あと賞味期限もありますからね」
「しょうみきげん……!? 神の雫に寿命が存在するのですかーーっ!?」
「なるべく早めに使ってくださいね。それじゃ、私たちはこれで失礼します」
「おう、またな」
床に這いつくばって「寿命……っ!?」とおろおろ箱を抱え込んでいる二人を残し、二人はササッと商会を後にした。
「よし、目的も果たしたし、そろそろ街を出て次の目的地に向かうか」
「ですね! 次は温泉街ユウノですね。楽しみだなぁ」
ほくほくした気持ちで大通りを歩いていた、その時だった。
前方を歩いていた智矢がスッと足を止め、さりげなく腕を掴んで露店の影へと引き込んでくる。
「……ん? どうしたんですか?」
「しーっ。前、見ろ」
智矢の言葉に、物陰からそっと大通りの先へ視線を向けた。
人混みが大きく割れた向こう側を、カチンカチンと重厚な金属音を響かせながら練り歩く一団がいる。重厚なフルプレートアーマーに身を包んだ、十数人の重騎士たちだ。
先頭の騎士が紙片を片手に、通りすがる人々をギロリと鋭い目つきで見回している。
「……わ、光ってる! 本物の鎧だー……!」
綺麗に磨き上げられた本物の装備に、思わず目を輝かせて見入ってしまう。
「おい、感心してねぇで隠れろ」
智矢にクイッと服の袖を引っ張られ、慌てて身を潜めた。智矢は壁に背をもたれかけさせたまま、小さく溜息をついている。
「あんなガチガチのフル装備で練り歩くとか、見るからにめんどくせぇのが来たな」
「えっ……あの鎧の人たち、誰なんですか?」
「こんな大きな街にまで出張してきてるあたり、王国の追っ手だろ。露骨に人捜ししてたしな」
「……やっぱり、私達を探してるんですね。見つからなくて良かったです……」
「まあ、焦る必要ねぇよ。あいつら俺たちの詳しい顔も知らねぇだろうし、まさかキャンピングカーで爆走してるとは思わねぇだろ。ただ……あんな集団に絡まれたらダルいし、長居は無用だな。さっさと出よ」
「はい!」
目立たないよう足早にレリアの大門をくぐり抜ける。
人目のつかない街道の脇でキャンピングカーを呼び出し、素早く車内へ滑り込んだ。
鍵をかけてホッと一息ついたところで、智矢がストレージから買い込んだ魔石の箱を取り出し、テーブルの上に置く。
「よし。んじゃ、チャージよろしくな」
「はい! 任せてください」
魔石の箱に手をかざし、意識して目の前の空間に『楽珍マーケット』の画面を呼び出す。
空中に浮かぶ画面へ、淡い光とともに魔石たちが吸い込まれていくと、表示されたポイントの数字が一気に跳ね上がった。
(……うわ、すごい! クラウスさんにもらった分と合わせて元々800万ポイントあったのが、今回買った分で一気に1,000万ポイント超えちゃった!)
「これ当分の間、美味しいご飯も地球の買い物も使い放題ですよ!」
画面の数字を見て嬉しそうに報告する澪に、智矢も満足そうに口角を上げた。
追っ手の影を完全に振り払うようにエンジン音が響き、車体がゆっくりと動き出す。
「よし、行くか」
「はい! 行きましょう!」




