第23話:動く高級ホテルと旅立ち
「……いきますよ!」
胸の高鳴りを抑えきれないまま、ドアノブに手をかける。
どこまでも広がる青空と広い草原の真ん中にドカンと現れた巨大な車両——澪が創造魔法で必死にイメージを形にした、完全魔力駆動の魔導キャンピングカーだ。
ドアを開けると、目の前に広がっていた光景に、澪は思わず歓声をあげていた。
「すごい……! ほんとに出来ちゃってる……! ねぇ見てください、中すごく広いですよ!」
「マジかー。……凄ぇな」
後ろから続いて入ってきた瀬尾が、口を半開きにして中を見回す。
自分のイメージを必死に形にしただけで、実物は澪にとっても初めて見るものだ。外観から想像していたものを遥かに超える空間がそこにはあった。天井は高く、背の高い瀬尾が立ってもまったく圧迫感がない。全体的にシックな木目調で統一されており、まるで都内の高級マンションの一室をそのまま車内に持ち込んだかのようだった。
「こんなことになってるなんて……! あ、わあーキッチンもあるし、個室まで!」
「お、俺の部屋もあるんだな」
「ありますよ! 奥にはシャワーとお風呂もついてます! それに魔導エアコンも完備だから、いつでも快適な温度で過ごせますよ!」
「マジで? シャワーもエアコンまであんの……」
はしゃぐ澪を横目に、瀬尾はさっさとリビングの中央にあるゆったりとしたL字型のソファに雪崩れ込み、背もたれに深く体を預けた。広々としたテーブルに肘を突き、天井を見上げながら満足そうに息を吐く。
「……あー、快適すぎて眠くなってくるな……俺今日からここから出れねぇわ」
「ちょっと、気持ちが分かるから困るんですけど。……まあでも、確かにこれだけ揃ってたら引きこもりたくなりますね……」
「だろ? こんだけ完璧なら現実忘れそうだわ」
瀬尾は肘を突いたまま息を吐くと、澪にチラリと視線を向けた。
「にしても、お前よくこんなデカいもん出せたな。魔力、もう大丈夫なのか?」
「あーちょっと疲れましたけど大丈夫ですよ。 というわけで……このキャンピングカー完成を記念して、今夜はお祝いのご馳走にしようと思います!」
澪は胸を張り、通販魔法の画面を操作した。ポイントを消費して、車外のサイドオーニングを広げた下の折りたたみテーブルの上に、重厚なパッケージやアウトドアチェア、卓上焼肉グリルが次々と出現する。
「……おい、これ……」
「じゃーん! 初めてのキャンピングカー完成記念、特選黒毛和牛とたっぷり野菜の焼肉パーティーです!」
ドカンとテーブルに並べられたのは、綺麗なピンク色に細かいサシが入った極上のサーロインとカルビ、分厚くカットされた牛タン。それだけではない。お肉の横には、瑞々しい極太のアスパラガス、大きなエリンギ、玉ねぎ、真っ赤なパプリカ、サンチュやキャベツが山盛りにセットされている。
さらに、冷えた缶ビールと炭酸水まで完璧なフルセットだ。
お肉とビールを目にした瞬間、瀬尾の目の色が変わった。シャキッとソファから起き上がると外のテーブルへ移動し、手際よくコンロをセッティングしてトングを握りしめる。
「……一気に目が覚めたわ」
「でしょ? あ、まずはキャンピングカー完成のお祝いに、乾杯しましょう!」
「おう」
缶ビールと炭酸水の缶を開け、軽く合わせる。
「キャンピングカー完成に、乾杯!」
「乾杯。……ふはぁ、最高だな」
「んーっ、美味しい! さ、何からいきましょうか?」
「俺はもう、手前のその分厚いタンからいきたい」
「いいですね! どんどん焼いちゃってください!」
瀬尾は卓上焼肉グリルに火を点けると、まずは分厚くカットされたタン元を網の上に置いていく。澪も負けじと、瑞々しいアスパラガスと大きなエリンギを空いたスペースに並べていく。
ジューッと音を立てて肉が焼き上がり、芳醇な脂の香りが草原の風に乗って広がっていく。
「うわぁ……すっごく良い匂い……!」
「おっ、このタン、もういけそうだな……」
瀬尾はレモン汁を少し絞ったタンを口に放り込むと、缶ビールをぐっとあおった。
「……外で美味い肉食って酒飲むとか、向こうにいた時よりよっぽど贅沢な時間だな」
「あはは! 確かに! 私もこのアスパラ、いただきますね……んん〜っ、美味し!」
「エリンギもうっま。……よし、次カルビ行くぞ」
瀬尾はタレにくぐらせたカルビをサンチュで包むと、そのまま口へ押し込んだ。
「あ、それ私のカルビです! 先に狙ってたんですから!」
「名前書いてねぇんだから早い者勝ちだろ」
「もう、追加で焼くから横取りしないでくださいね!」
「さあな〜。どんどん焼くぞ〜」
ジューッと肉が焼き上がる心地よい音とともに、立ち上る煙が夕焼け空へ溶けていく。
「……この車があれば、長距離の移動も乗り越えられそうですね」
「だな。とりあえず運転は俺がやるから、澪は助手席でナビよろしくな」
「わかりました! まずは無事に、フリージアまで辿り着かないとですね」
「おう。ま、運転中の差し入れは期待してるんで」
網の上の肉を楽しそうにつつく瀬尾に、澪も思わず笑みをこぼした。
香ばしい匂いと賑やかな笑い声に包まれながら、ふたりの快適な旅の夜はゆっくりと更けていった。
明日になればこの車で、どこまでも続くあの広大な草原を走り抜けていくのだ。
ふたりの旅がいよいよ、ここから本格的にスタートを切る。




