第17話:魔法拳銃と、新たなるスキル
「扉の修理代なら気にするな。あんな荒くれどもを追い払ってくれた礼だ。周りの被害も最小限に抑えてくれたしな」
ガゼルは二階からドスンと重い音を立てて飛び降りてくると、二人の前にどっかと腰を下ろした。大きな体が目の前に着地し、澪は思わずビクッと肩を跳ねさせる。
「えっ、本当ですか!? ありがとうございます!」
ギルドマスターの太鼓判に、澪はパッと表情を明るくして胸を撫で下ろした。だが、その隣で瀬尾がフッと口元を緩める。
「まあ、ハナから払う気なんてなかったけどな。あいつらの身ぐるみ剥ぎ取って払わせるつもりだったし」
「ちょっと、瀬尾さんっ……!」
澪は慌てて瀬尾の脇腹を肘でグシグシと小突いた。ガゼルは一瞬ポカンとした後、ガハハとギルド内に響き渡るような大声で爆笑した。
「ハハッ、図々しくて気に入ったよ! 改めて二人とも、名前を聞かせてもらおうか」
「瀬尾だ」
「……澪です」
「よし、セオにミオだな。実は君たちに、ひとつ受けてほしい『特別依頼』があってね」
そう言ってガゼルがテーブルの上に広げた羊皮紙には、通常よりもランクの高い危険区域――森の奥深くに生息する大型魔獣、アーマーベアの討伐と、それに付随する希少素材の採取が記されていた。
「森の奥に陣取ってるアーマーベアの討伐だ。ついでに周りの邪魔な魔獣も間引いてくれたら助かる。あの荒くれ共を一瞬で転がした男と、扉を一撃で吹き飛ばしたお嬢ちゃんだ。二人なら問題なくこなせると思ってね。報酬も弾むぞ?」
「へえ、特別依頼ね。チャチャッと終わらせて美味いもんでも食おうか。どうする?」
「受けない理由がないですね。軍資金、がっつり稼ぎに行きましょう」
こうしてガゼルからの特別依頼を引き受け、ギルドを後にした二人。大通りを歩きながら、澪は満足そうに頷いた。
「やっぱりギルドマスターさんって、頼りになるおじ様って感じでしたね!」
「……いや相沢さん、騙されるなよ。あの目の奥、絶対ろくでもない案件押し付けてくるタイプの狸オヤジだぞ」
「えー、瀬尾さんは考えすぎですよー」
二人はさっそく準備を整えて目的の森へと向かったのだった。
木々が鬱蒼と茂る深い森の中へ足を踏み入ると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。鳥の鳴き声に混じって、低く唸るような魔獣の気配が周囲から漂ってくる。
「よし、回路が治ってどれくらい戦えるようになったか試してみるか」
「はい! 実はさっきギルドからここに来るまでの間に、魔法のイメージを練ってたんですよね」
澪は胸を張り、スッと右手を前に突き出した。魔力を練り上げ、脳内で明確な構造をイメージしていく。生成するのは、自分の魔力を効率よく、正確に狙いを定めて撃ち出すための道具だ。
(狙いをつける感覚をイメージしやすくて、手のひらにフィットする形……!)
瞬時に澪の手元で半透明の光が収束し、カチリと心地よい金属音を立てて一つの物体が形作られた。それは、ホワイトのフレームが美しいコンパクトな魔法拳銃だった。
「なっ……銃かよ!? 創造魔法ってそんな物まで作れんのか?」
「凄いでしょ! 魔法弾をそのまま飛ばすより、銃の形にした方が圧倒的に狙いやすいかなって思って!」
澪は得意げに魔法拳銃を構えると、スライドをカチャッと引くイメージを入れる。それだけで空気中の魔力が銃身へと吸い込まれ、銃口に高密度の魔法弾が充填された。
「グオォォォッ!!」
その時、茂みをかき分けて巨大な牙を持つ魔猪が二匹、激しい足音を立てて突進してきた。
「突っ込んでくるな。結界出せるか?」
「は、はいっ! ――よっ、はい結界でーす!」
語尾を濁したなんだか締まらない掛け声とともに澪が左手を突き出すと、二人を包み込むように強固な光のドームが展開された。突進してきた魔猪がドームに激突し、バチィンと鈍い音を立てて弾き飛ばされる。
「……なんだその掛け声」
「あー、だって『結界!』ってキリッて言うの恥ずかしいじゃないですか。私はその時の雰囲気とノリでやってこうかと」
「……そうか。まぁ、張れてんなら何でもいいけど」
(よし、次は攻撃!落ち着け、落ち着け私……! 練習通りにイメージすれば大丈夫……!)
生身の巨大な魔獣を目の前にして、心臓がうるさいほど鐘を鳴らしていた。右手に握った冷たい銃身の感覚だけを頼りに、迫り来る魔猪へと狙いを定める。手がわずかに震えるのを、もう片方の手で必死に抑え込んだ。
「狙いをつけて……あたれっ!」
引き金を引き切るイメージとともに、銃口から眩しい青白い光弾が弾け飛んだ。
シュパァァンッ!
澄んだ撃発音が森に響き渡り、伸びやかな光の軌跡がまっすぐに吸い込まれていく。正確に魔猪の眉頭へと命中した光弾は、魔獣の分厚い頭蓋骨を一撃で撃ち抜き、その巨体をそのまま地面へと崩れ落ちさせた。
「はぁ、はぁ……! た、倒せた……っ! ちゃんと当たった……!」
「おいおい、初実践でその威力はヤバいだろ。上出来すぎるな」
瀬尾がどこか頼もしそうに口元をゆるめるのを見て、澪は大きく息を吐き出して胸を撫でおろした。瀬尾が前で圧倒的な強さを見せて守ってくれるからこそ、自分もパニックにならずに後ろから必死で手を動かすことができているのだと痛感する。
(よし……瀬尾さんの足を引っ張らないように、私は私の仕事をやろう……!)
覚悟を決めた澪は、恐怖を振り払うように再び銃口を向け直した。
二人の破格の戦闘力は森の魔獣たちを刺激し、匂いと音につられて次々と奥から凶悪な魔獣の群れが集まり始めていた。
「グロロロロ……!」
「ウギャギャギャッ!」
巨大な狼の群れ、大柄なオーク、そして金属のような分厚い皮膚を持った大型のアーマーベア。そこはまさに魔獣の巣窟と化していた。
「すごい集まってきましたね……!」
「探す手間省けてちょうどいいだろ。一気にやるぞ」
「了解です、後ろは任せてください!」
瀬尾は買ったばかりの剣を豪快に抜き放つと、一歩踏み込み、迫り来るオークやアーマーベアの群れを次々と鮮やかに両断していく。規格外の筋力から放たれる剣撃は、硬い皮膚すらも紙のように切り裂いていった。
澪は周囲に隙のない結界を張り巡らせて安全圏を確保しつつ、冷や汗をかきながらも「そこっ!」「当たってー!」と必死に声を漏らしながら後方から援護射撃を叩き込む。魔獣の動きを冷静に見極めて狙い撃ち、瀬尾の死角から近寄ろうとする敵を弾き飛ばした。
絶妙な前衛と後衛の連携により、襲い来る魔獣の群れはあっという間に全滅していった。
倒れた魔獣の巨体も、瀬尾が手をかざせば吸い込まれるように消え、彼のストレージへと次々と収められていった。
「ふぅー……! なんとか乗り切れましたね……! これだけ狩れば、ガゼルさんも驚くはず!」
澪が緊張の糸を解き、額の汗を拭いながら笑顔を見せた。
その時、ふいに瀬尾の頭の中に無機質なアナウンス音が響いた。
「ん……? 今なんか聞こえたな」
「え? 何か言いました?」
「いや、頭の中でシステム音みたいなのがまた鳴った。そういやこれだけ狩ったし、ステータスでも確認してみるか」
瀬尾が意識を向けると、目の前に半透明のウィンドウがぬっと浮かび上がる。
「本当ですね。私も見てみます!」
澪も頭の中で念じ、自分のステータスウィンドウを呼び出した。
【名前】アイザワ ミオ
職業: 誓約者(巻き込まれ)レベル:5
体力(HP): 120 / 120
魔力(MP): 9800 / 11000
筋力: G 耐久: G 敏捷: E
固有スキル:
【言語理解】
【創造魔法】
【通販魔法】
【名前】セオ トモヤ
職業: 勇者 レベル:21
体力(HP): 8000 / 8000
魔力(MP): 1500 / 1800
筋力: SSS 耐久: SSS 敏捷: SS
固有スキル:
【言語理解】
【勇者の加護(成長型)】
【剣術】
【全属性攻撃魔法】
【ストレージ】
【鑑定】(NEW)
「やった、レベル上がってます! 1から5になってる!」
「俺は21か。さっきの連戦で結構上がったな。……ん?」
自分のウインドウを指でつつく瀬尾が、一番下に刻まれた見慣れない表記に目を留めた。
「スキル一覧のところに何か新しく増えてんな」
「え、どれどれ……」
澪がのぞき込むと、そこには新しく習得したスキルがしっかりと刻まれていたのだった。




