第16話:また来たモヒカンと、砲弾姫
「……というわけで、手っ取り早くまとまったお金を稼ぐなら、やっぱり冒険者ギルドでクエストを受けるのが一番ですよね!」
「まあな。適当に討伐こなして、手っ取り早く自由都市まで抜けるか」
瀬尾がギルドの扉を押し開けると、店内は相変わらず酒と肉の匂いに包まれていた。
「高額報酬のやつあるといいですね」
「さっさと一番稼げそうなやつ引っぱがして受注するぞ」
瀬尾の後ろをチョコチョコとついていき、二人はまっすぐ奥の掲示板へ向かった。
どれが一番効率よく稼げるか目星をつけようとした、まさにその時だった。
どすん、どすん、と床を大きく揺らす嫌な足音が近づいてくる。
「……おいおいおい。やっぱりあの時のもやし野郎と、お嬢ちゃんじゃねぇか」
聞き覚えのある下品な声に振り返ると、そこには見覚えがありすぎる男が立っていた。
ド派手なオレンジ色のモヒカン頭に、肩に担いだ大きな斧。昨日、ここで瀬尾に肩を揉み潰されかけて逃げ帰った荒くれ者だ。
今回は後ろにガラが悪く物々しい武器を構えた男たちを五人も引き連れていた。
「あ……! 瀬尾さん見てください、昨日のお約束の人です! 今度は仲間連れてきましたよ!」
「報告すんのはいいけど、テンション上げる要素皆無だろ……」
あからさまに目を輝かせる澪に、瀬尾は心底面倒くさそうに吐き捨てると、額を押さえて盛大なため息をついた。
「なんだよその顔はよぉ! 昨日はよくも俺様に恥をかかせてくれたな! 今日は強い仲間を集めてきたんだよ! 泣いて謝っても許さねぇぞ!」
モヒカン頭の男が、自信満々に胸を叩いた。
「はぁ……マジで何なんだよお前。チュートリアルか? 負けた奴が仲間連れてリベンジしてくるとか、昭和の不良漫画か雑なRPGゲームでもやってんのか?」
「何をブツブツ言ってやがる! おい野郎ども! まずはそのひょろい男の手足を折って、お嬢ちゃんは連れて行くぞ!」
「「おおおっ!!」」
掛け声と共に仲間が一斉に武器を引き抜き、殺気立って襲いかかってきた。
「うわ、本当に襲ってきた! 治安悪すぎ!」
(ちょっ、安全と言えば結界だよね!? ぶっつけ本番だけどできる……かな、それ〜!……できた!)
直後、澪の周囲に半透明の綺麗な光のドームが展開され、球状のバリアが澪をすっぽりと包み込んでいる。
「頑張ってくださいー! 安全な場所から応援してまーす!」
光のドームの中から能天気に手を振る澪を横目に、瀬尾は迫ってくる男たちの間合いへ一歩踏み込んだ。
「オラァッ!」
威勢よく大剣を振り下ろしてくる大男。だが、次元の違う身体能力を持つ瀬尾から見れば、その踏み込みも太刀の筋も欠伸が出るほど遅く見えていた。瀬尾は最小限の動きで足を軽く滑らせ、相手の軸足をスコーンと鮮やかに刈り取った。
「ぶへっ!?」
ドスンと派手な音を立てて倒れる男。だが、それだけでは終わらせない。
「ほら、立てよ」
「この野郎っ!」
立ち上がって再び殴りかかってくる男の足を、またもやスコーン。
起き上がろうとしたところを、間髪入れずにスコーン。
「ぐはっ……! な、なんで……!?」
「あーあ、全然見えてねぇじゃん」
何度も何度も、起き上がるそばから面白いくらい綺麗に転ばせ続ける。拳すら使わず、ただ足を一筋滑らせるだけの作業。
三回、四回と転ばされるうちに、男たちの威勢は一気に削がれ、顔は恐怖で引きつり始めていた。
「ひ、ひぃっ……! なんだこいつ、立つ瞬間に毎回足払いしてきやがる……っ!」
「どうした? ただ転んでるだけじゃねぇか」
荒くれ者たちの心がバキバキと折れていく音が聞こえるようだった。彼らの泥臭い攻撃など、瀬尾には止まっているも同然のスピードでしかなかった。
だが、逃げ惑う仲間の一人が、バリアの中にいる澪をチラッと見て嫌な目を向けた。
「この女を盾にすれば……っ!」
男が短剣を構え、澪のバリアに向かって走り出そうとする。
(……は? 私を狙おうとしてる?)
バリアの中にいる澪が、あからさまにイラッとした顔をした。
「ちょっとだけ……飛んでけー!」
澪がドームの中から、迫ってくる男に向かって軽く手をかざす。
ほんの少し、風で吹き飛ばすくらいのつもりだったのだろう。
だが、回路が治ったばかりの澪の魔力は、本人の予想を遥かに超える出力を叩き出した。
ドォォォォンッ!!!!
「ギャアアアアアアッ!???」
手のひらから放出されたのは、空気弾というよりは大砲の砲弾だった。
直撃を受けた男は信じられない勢いで真後ろへと弾き飛び、ギルドの頑丈な木製の観音扉を突き破って外の大通りまで一直線に吹き飛んでいく。そのまま向かいの建物の資材置き場に勢いよく突っ込み、動かなくなった。
無残に壊れた扉の隙間から、爽やかな外の風が室内に吹き込んでくる。
「……え?」
自分の手を見つめ、澪がフリーズした。
何度も転ばされて腰を抜かしていたモヒカン頭と荒くれ者たちは、「ひぃぃぃっ! 悪魔だぁぁぁっ!」「化け物どもだー!」と悲鳴を上げ、我先にと押し合いながらゾロゾロと逃げ出していく。
瀬尾は額に手をかざしてひさしを作り、壊れた扉のずっと向こうまで遠目でのぞき込んだ。
「おー……見事に飛んだな〜」
感心したように呑気に呟いてから、瀬尾はニヤニヤと口元を歪めて澪の方へ振り返った。
「おいおい相沢さぁん、えげつねぇな。あいつ向かいの資材置き場までぶっ飛んでったぞ。まあ、あのカッパみたいなツラした奴に一発ぶち込んでやったのは見事だけどよ」
「わ、わざとじゃないんですってば!! ちょっと押し返そうと思っただけで……! 治してもらったばっかりで、力加減が全然分からなくて!」
澪は慌てて結界を解除し、ぶんぶんと手を振って必死に弁解した。
「いやー、いい破壊力だわ。さすが回路が治っただけあるな。……まあ、一番の被害者はあのぶち破られた扉だけど」
「うぐっ……! 弁償代いくら請求されるんだろう……」
自分のしでかした惨状を改めて見て、澪は青ざめながら頭を抱えた。
「大丈夫だろ、あいつらの財布から払わせりゃ。……まあいいや。そこの受付のお姉さん、一番稼げそうな依頼受注するわ。あ、あと壊した扉の修理代は——」
「その必要はないよ、若いお二人さん」
吹き抜けになっている二階の手すりから、低い渋い声が館内に響き渡った。
二人が見上げると、そこには手すりに肘をかけ、二階のバルコニーから面白そうにこちらを見下ろしている大男がいた。
右目に眼帯をつけ、白髪交じりのヒゲをたくわえている。体に刻まれたいくつもの傷跡と、全身から溢れ出る圧倒的な威圧感。一目でこの場所のトップだと分かる存在感を放っている。最初から高みの見物を決め込んでいたらしい。
「私がこの冒険者ギルドのギルドマスター、ガゼルだ。……なかなか面白いものを見せてもらったな」
ギルドマスターはぶち破られた扉と外で倒れている男を一瞥すると、不敵な笑みを浮かべて二人を見つめてきたのだった。




