第11話:冒険者ギルドと、カードの謎
カウンター越しには、職人風の頑固そうな中年男性が座り、帳簿に目を落としていた。
「いらっしゃい。買取か?」
「ああ。イノシシの肉とトカゲ、あとこの毒ヘビの素材なんだが、買い取ってもらえるか」
門のところで見せたあの手口で、瀬尾は澪のエコバッグの中に手を突っ込む。そのままストレージを経由して、イノシシの解体肉、巨大トカゲの素材、さらにはジャイアントスネークの皮と毒袋まで、ズシリと台座の上に引っ張り出してみせた。
重い音を立てて載せられた素材を目にした瞬間、暇そうにしていた男の目がカッと見開かれた。
「おいおい……なんだこりゃあ!?」
男は身を乗り出すと、手慣れた手つきでイノシシの肉を持ち上げ、あらゆる角度からじっくりと観察し始めた。
「すごいな、おい……! 血抜きも解体も完璧じゃねぇか。肉の鮮度も最高だ。どこかのベテラン解体屋でも雇ったのか?」
「いや、自分でやったんだが」
「マジかよ……」
感心した様子で次にトカゲの素材へ手を伸ばした職人だったが、
「うっ、あくっさ……! あー、目にも染みるな……」
思わず鼻を覆い、顔を派手に歪めて眉間にしわを寄せた。
「……相変わらずヴェノムラザードは特有の生臭さと粘液が鼻につくな。だが、皮の傷の少なさと処理の丁寧さは見事なもんだ。丈夫で防具としての需要は高いからな」
職人は鼻をひくつかせながらも、目ざとく隣の巨大なヘビの素材へ視線を移し、その瞬間息をのんだ。
「……って、おい! こっちはジャイアントスネークの皮と毒袋か!? しかも傷ひとつねぇ最高の状態じゃねぇか! このサイズの皮は高級防具に引っ張りだこだ。毒袋も薬の材料で高値で売れる。これだけの逸品、一気にお目にかかれるとは……!」
職人は大興奮で口元をほころばせた。
「よし、新顔にしては凄まじい仕事だ。破格で買い取らせてもらうぞ。イノシシの肉にトカゲの皮、そして巨ヘビの希少素材を全部合わせて……金貨30枚だ!」
カウンターの上に、金色に眩しく輝く金貨が山となってジャラジャラと並べられた。
「金貨30枚……!?」
思っていた以上の大金に、澪は思わず目を丸くした。
(おお……金貨が山盛り……! これ、30枚ってことは、日本円にしたら30万!? ヘビとか一瞬で倒してたよね……!?)
眩しい輝きに圧倒される。
「ああ、それだけの価値がある最高の仕事だからな。持っていきな!」
男からずっしりと重い革袋を受け取った瀬尾は、満足そうに口元を緩めた。まずは無事に当面の生活を遊んで暮らせるほどの資金を手に入れた二人は、続いてギルドの中央付近にある「新規登録窓口」へと移動した。
カウンターの奥には、受付の制服を着たスタッフが座っており、二人を迎えた。
「いらっしゃいませ。新規の冒険者登録でしょうか?」
「ああ。登録して、身分証を発行してほしいんだが」
「かしこまりました。お一人様につき登録手数料として銀貨1枚を頂戴しておりますが、お支払いはよろしいですか?」
「頼む」
瀬尾は先ほど手に入れたばかりの革袋から銀貨を取り出し、カウンターへと置いた。受付スタッフは手際よくそれを確認すると、「少々お待ちくださいね」と言い、カウンターの奥から大きな黒い水晶を取り出してきた。
台座の上に鎮座する水晶の表面は、しっとりと鈍い光を放っており、どこか不思議な存在感がある。
「では、お一人ずつこちらの水晶に手をかざしてください。魔力を読み取って、ギルドカードを発行いたします」
(魔力……!? 一応通販魔法は使えてるけど……あれってホントに『魔法』で合ってるんだよね!? 瀬尾さんみたいにかっこいい魔法陣とか出ないけど……魔力判定されるのかな……)
澪はドキドキと跳ねる心臓を押さえながら、恐る恐る大きな黒い水晶の上に小さな掌を乗せてみた。
すると、冷たい質感の水晶がポッと淡い青色に光り輝き、心地よい振動が伝わってきた。やがてカタカタと小さな音を立てて、水晶の土台部分から薄い金属製のカードが1枚吐き出される。
(ふぅ……! ちゃんと魔力あった! よかったぁ……!)
続いて瀬尾が大きな手をかざすと、 今度は澪の時よりも少し濃く強い青い光を放ち、同じように金属カードが出てきた。
受け取ったカードの表面には、見慣れない異世界の文字が刻まれている。しかし不思議なことに、何と書いてあるのかがスラスラと頭に入ってきた。そこには、二人の名前と「Fランク」という文字がはっきりと刻印されていた。
「はい、こちらがお二人のギルドカードになります。それと、新しく登録された方にお渡ししている『冒険者の手引き』という冊子です。街のルールやギルドの仕組みが書いてありますので、ぜひ読んでみてくださいね」
「助かる」
受付スタッフから分厚い革装丁の冊子とカードを受け取り、無事にすべての手続きが完了した二人は、軽く頭を下げてギルドの建物を後にした。
ギルドの扉を開けると、外の眩しい日差しと熱気あふれる大通りの喧騒が二人を包み込んだ。少し歩いて周囲に人がいないことを確認すると、澪はもらった冊子と手の中のひんやりとした金属カードを見つめた。
「……なんか拍子抜けするくらいスムーズにカード出来ちゃいましたね」
「そうだな。名前も誕生日も言った覚えねぇのに、しっかり刻印されてたな。漢字じゃなくてこっちの文字になってたが、読めるのも奇妙な話だ」
カードを見つめていた瀬尾が、ふと足を止めて澪を見た。
「そういえば相沢さん、誕生日5月23日なのか」
「あ、はい。そうですけど……瀬尾さんは4月7日なんですね」
「ああ。会社で誕生日祝いとかしなかったから、お互い知らなかったな」
「ですね。……まあ、今年の誕生日はこっちに来た2週間くらい前に日本で普通に過ぎちゃいましたけど」
「そうか。じゃあ無事に日本へ帰れたら、来年なんか買ってやるよ」
「本当ですか? 高級なものねだりますから、絶対覚えておいてくださいね!……まあ、まだ11ヶ月も先の話ですけど」
澪がくすりと笑うと、瀬尾はふっと口元を緩めてカードをポケットに納めた。
そのまま二人は通りへ足を進め、まずは途中で見かけた服屋へと向かった。さすがに日本の服のままでは街中で浮いてしまい、余計な目立つリスクを避けるためだ。店に入り、手に入れたばかりの金貨で丈夫な布地で仕立てられた普段着を何着か購入した。
すっかり現地の住人に馴染む装いに着替えて店を出ると、タイミングよく街道の向こうから風に乗って、香ばしい炙り肉の匂いが漂ってきた。
「さてと。腹減ったろ? 約束通り肉串食いに行くか」
「めちゃくちゃお腹空きました…… 待ちに待ったお肉です!」
二人は手に入れたコインが入った革袋を携え、香ばしい匂いにつられるように足取り軽く歩き出した。




