移動
結局、電車に乗っている。座るところが空いていたので、俺達は座った。前に座っている人と、目が合う。だけど、見たいのはその奥の景色だ。
あの後、大輝に言いくるめられて、小田原城から引き上げた。
いつもの調子で次の行き先をグーグルマップで調べ、電車に乗り込んだ。というわけだ。
これも後で聞いた話だが、小田原城は謎の爆発で天守閣の一部が崩壊。犠牲者は一人出てしまった。それも、俺に特徴が合致している。
報道によると、死んだのは『春木葵』らしい。
だが、俺はここにいるし、大輝目線から見たニュースでは他の人の名前だった。
つまり、死んだのは、別世界線の俺だってこと。これはまだ予想ではあるが……。
「葵。なんか考えてる?」
「あぁ……考えるしか、今は脳がないからな」
外の景色をぼんやりと眺めながら考えていると、大輝が心配そうに顔を覗かせてきた。その顔はさっきとは大違いだ。
肩を組もうとしてきたが、すかさず俺は弾き返した。
「……おいおい。約束したでしょ? 今は仲良くするって」
「……そうだったな」
肩を組むのを許した。
あの時、約束したことがある。一つ、警戒しすぎない。一つ、仲良くすること。一つ、考えすぎないこと。
「大丈夫だって。少なくとも、今はしない」
「……そうか」
一旦この一瞬だけは、胸を撫で下ろせる。
「一つ、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「時間を戻さなかったら、俺は死ぬのか?」
「……」
大輝は沈黙で返してきた。それが何よりも答えになる。
「……そうか……わかった」
俺は景色に集中した。どうせ死ぬ運命を回避したんだ。今を楽しまないと何も報われないだろ。
ただ、そう思った。だからこそ、大輝に心配はかけたくない。
大輝は何も返事をせず、物思いにふけっている様子だった。時折、目を泳がせて情報を得ている。
「金山ー……金山です」
車掌さんの穏やかな声が聞こえる。俺達の目的は金山だ。読み方は「きんざん」ではなく「かなやま」だ。大輝は前者の方で言っていたが、現実を教えたところで、傲慢な人に見えるのであれば遠慮する。
「……で? 先にどこいくんだ?」
「ふっふーん……。決まってるだろ!」
改札を出て、総合金山駅という文字列が高々と掲げられている真下にいる。いつも通りだが、行き先を詳しく聞いていないので大輝の言う通りにするしかない。なんだかんだいって、計画性はある。
その計画を壊した時、時間が戻されるのであろうか。
「まぁまぁ! 着いてきてー!」
「やれやれ。元気だね、いつも通りだ」
大輝はあれから、変わったと言えばそんなことはない。まったくいつもの大輝だ。
俺はと言うと……。大輝によると変わってるらしい。よく考え事をするようになった。そして、その考えた結果を共有することになった、と言われた。
金山の街並みは一味違った。まず、川がある。それはあまり見えないが橋になっている。この橋も、橋らしくない。
なんと言っても、円形のデパート。いろいろなチェーン店や個人店が並んでいる。その中央に舞台がある。あいにく、俺達がここを飛び去る頃に始まるらしい。
それも越えた。その先は普通の道路、普通のマンション、普通のコンビニがあった。しかし、巨大なスーパーがあったので、新鮮味がある。
「着いたー!」
「おー……ここが」
普通のビジホに着いた。近くにコンビニがあるので、夜食には困らないだろう。
「あー……疲れたー!」
「俺もだよ……」
俺と大輝はベッドに飛び込む。沈みこむベッドの心地よさに身を預ける。
しばらく寝転がっていると、大輝と目が合った。口をモゴモゴさせている。
「どうした?」
「いやそのー……」
大輝が目を逸らした。それとは裏腹に俺の腰に手を回してきた。
夕焼けが窓から差す。それはいつもの雰囲気とは少し、違った。
「大輝……?」
「ごめん……。葵」
静寂が落ちた。それは喋らなかったわけではなく、喋れなかった。




