地声じゃない
「ん……」
朝日が俺の顔をくすぐる。ベッドに手をつき体を起こそうとする。
「いっ……。最悪……」
体の隅々までが痛みに犯されていた。特に腰。
「なっ……」
おまけに、何も着ていない。布団だけを身に纏っている。
周りをキョロキョロと見回す。床に転がっている大輝を見つけた。
「あ……だい……」
声を掛けなかった。起こしたくなかった。
彼も何も着ていない。仰向けで寝ている大輝の姿があった。
「ぇ……昨日なに……したっけ……」
頭に両手を押し付けて思い出す。
金山まで来たことは覚えている。だが、その後が思い出せない。ベッドに一緒に飛び込んでそれから……。
「あ」
布団を頭まで被った。思い出した。
あの夜のこと。
足をジタバタさせ、誤魔化す。無駄だとわかっているが、カラダが言うことを聞かない。
「ほんとに……? いつの間に……」
ぶつぶつ独り言を言っていると、ゴソゴソとした音が聞こえてきた。
「ぇ……もう……?」
俺はその音を確認する前に時計を見た。7時45分。もし、この音がアイツなら早すぎる。いつも12時に起きる男がこの時間におき……
「おはよ……葵」
「っ……なっ……!」
背中に温かさが伝わる。抱きしめられている。あの大輝に。
「ちょ……なにして……」
「いいでしょ。はは……葵、声枯れてるよ」
「っ!?」
俺は今気づいた。確かに、喉に違和感は感じていたがこんな簡単にバレるとは思っていなかった。
大輝は俺の肩に顎を乗せた。
「……重い」
「えー。そんなこと言わないでよ」
大輝がクスッと笑う。その振動が俺に伝わっている。
「……まだ時間あるよね」
「え……まぁ……うん」
大輝がベッドの横にあるテーブルに手を伸ばした。眠気眼で置き時計を近づける。
「はは……なんだ余裕じゃん」
大輝はイタズラっぽい笑顔をチラつかせてまた俺を抱きしめる。
「……ねぇ。まだ時間あるよ」
「ぇ……うん、まぁそうだけど……?」
大輝の言葉の意味がわからなかった。時間があるのはわかっている。いや、わかっているが信じたくなかった。身体はボロボロ、気持ちも余裕がない。そんな状態で……。
「ちぇー……つれないなぁ…」
俺の頬に指が侵入する。ツンツン。声を聞いても、大輝を見ても、不機嫌だ。
「あ、そーだ」
大輝が嫌な顔をする。ニコニコで、何か企んでいるような顔。
だけど、昨日のあれとは色が違う。
腕が伸びてくる。俺は無意識に目をギュッと瞑った。
視界が閉ざされる。何も見えない。ただ、熱いねつがそこにあることはわかる。
「じゃあー……」
「……え?」
トンっと胸を押された。その拍子でベッドに倒れ込む。その隙を逃さずに大輝が馬乗りになってくる。
つまり、俺は押し倒された。
「っ……」
大輝が顔を覗き込む。近い。俺の心臓が詰まることなくドクドクドク……と速いテンポで脈打つ。
「なーにー? 顔赤いよ?」
「っ〜……」
唇を噛んで何も言えない。恥ずかしさでどうにでもなりそうだった。できればこの場にいたくない。
顔を手で覆い隠した。「えー」という不満の声と共に手に感触があった。
「顔見せてよー」
「やだ」
大輝の手が俺の手を剥がしに来る。時間が過ぎる度に段々と力が増していく。
「よっと……」
「ぁ……」
手が剥がれた。顔を見られている。赤い顔を。どのくらい赤いのかは知らないが、そんなことはどうでもいい。視界が涙で隠れた。
「なーに。泣いてるの?」
「泣いてない」
俺でもわかっていた。その声は力なく震えている。意地を張っている。それは俺でもわかってる。
「……ね。もう1回。とは言わず、昼まで。ね?」
「ぅ……」
耳元で囁かれた。その声は優しさで包まれている。
俺は頷くことしかできなかった。




