江ノ島上陸
砂浜を走る。背景は夕日と赤い海。最高だろ。
「おい、葵! ……ってもうあそこか」
どうやら、大輝の目には俺は速いらしい。砂浜に足を取られて、コンクリートの上とはまた違う、特別な感覚だった。
しばらく、推しの作品の雰囲気を楽しんでから、江ノ電に乗る。
そして……。
「着いた! うん! 着いた!」
「おー……またこのテンションで……。今度は何があるの?」
「いや普通に来てみたかっただけ!」
大輝はずっこけていた。俺が「え? なに?」って聞いたら、「七里ヶ浜駅に着いたくらい、テンションが上がっていたのに、今度はただ来てみたかっただけなんだ……」って肩を落としてた。
「まぁ……そういうのもだいじだよな」
「そうだよ!」
俺はハッキリと言った。その自信が、大輝にも嫌というほど伝わっているだろう。
「で……? 次はどこだ?」
「んー……あそこ!」
指差したのは山のほう、標高60メートルだか忘れたけど、そういうのがある。
「へー……。こういう所もいいんだ?」
「そうだよ! いつもとは違うよね!」
俺のテンションはおかしかった。普段は坂道を登るだけでも、いやだと言う俺が、標高60メートルなんちゃらの坂道を登ろうとしている。やっぱり、旅行って人を変える力があるよね。
「で……この上になにがあるんだ?」
大輝は坂道を登りながらそう質問した。いや、階段だっけな……。それは忘れた。
「神社! 江島神社!」
「はいはい。次は神社ね」
大輝はもうどうにでもなれって感じだ。もう疲れ過ぎてるらしい。それでも俺は止まらない。
階段だか、登道かは忘れたけど、登りきった暁には、正月しか見たことがない参拝客で、溢れかえっていた。正直、びっくりだ。
「流石、江ノ島だな。人もいっぱいだ」
「流石ー。じゃないよ! 人多すぎじゃない!? もっと空いてたのかと思ってたよ!」
「はぁ……江ノ島舐めすぎな。見ろよ、この動画」
差し出されたスマホを覗き込むと、江ノ島についての攻略動画が流れていた。神社も紛うことなく、紹介されていた。
「あちゃー」
「あちゃーじゃないだろ。旅行なんて、みんな考えてることは同じなんだよ」
大輝の言うことがいちいち俺の心にぶっ刺さる。と、その時。
「ん?」
この場にいる全員のスマホからなんかしらの警告が叫んでいた。それは日本人なら一度はきいたことのある、不協和音。
鳴ったのに気づいた、と思ったら揺れた。この地面が、この場全体が、江ノ島が。
俺は立っていられなかった。
そのまま、階段を荒く落ちていった。




