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君たちの時代にいたい  作者: たかゆき宗也
6章 冷戦
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第30話:人使い

「スカラー、この服はどうにかならないのか?」

「はーっ! まだ言うか! このお店のコンセプトは分かるでしょっ!」


 調査も無事完了し、首都のカフェ、アーホルンの新人店長となったスカラーはアメッサを呼び出していた。


 入店し早々バックヤードに連れていかれたアメッサはスカラーから1日だけお店の手伝いをして欲しいと頼まれた。


 スカラーが公演する間ホールが手薄になる。

 その間だけでも手を貸して欲しいそうだ。

 

 来てしまった以上断りずらく、二つ返事で承諾。

 ……したのは良かったが、手渡されたのはメイド服を模したワンピース。

 

 本人曰くクラシカルロリータ、着せたかったんだよねー。との事だった。


「せめて別の服にしてくれ」


 メイドは格式ある仕事。

 似通った服にそれも真似事で袖を通すなんて絶対にあってはならないだろう。


「はぁーい」


 スカラーはハンガーの音を鳴らし、再び服を選び始めた。


 選ばれたのは白のブラウスにワインレッドのスカート。

 着替えてきて。と更衣室に押し込まれた。


 着替え終え、カーテンを開けると小物が次々とテーブルの上に並べられていた。


 ベルトを締められ、小物で着飾り、靴から髪まで全身を整えたら、スカラーは一仕事終えたかのように満足気な顔をしていた。


「これでアメッサちゃんも一人前よ」


 じっとスカラーを見つめると本人は呑気に手を叩いた。


「それにお給料もしっかり出すから!」

「当たり前だろう」


 スカラーと共に店頭に出る。


 カランカランと店の扉が鳴る。


「いらっしゃいませ!」


 笑顔で来店客を迎える。

 空いている席まで案内し軽くメニューの説明をした後、立ち去った。


 スカラーは目をぱちくりさせていた。


「アメッサちゃんって、接客…………上手だね」

「当然だろう。私の態度一つでこの店の品位が問われるんだ。制服に身を包んだ以上私はこの店の店員だからな」


 

「私そろそろ公演だから、ホールは任せたよっ!」

「あぁ、分かった」


 暫くすると店内が薄暗くなり、前方のステージにライトが当たった。

 緞帳が上がると彼女は下手から現れた。

 

「毎日毎日お母様の言いなり、いい加減疲れたわ〜、私もいつか舞踏会に行って王子様に………………選ばれたくはないわね」


 彼女は、バッと拳を突き上げた。


「どうせなら私がこの手で選んでやるわっ! 王子をバッタバッタと薙ぎ倒し、最後まで立っていられた方とお近ずきになりたいわね〜っ!!」


 彼女は声高らかに笑った。


 どうやら従来のロマンスとは違い、主人公の彼女は勇ましい性格のようだった。

 

「お母様! 私はこんな生活もう飽きたのよ! 家事も洗濯も料理も掃除も…………あら、これ全部家事ね。……とにかく! 私はこの家を出るわっ!」


 一瞬、食事の配膳を忘れてしまうほど引き込まれた。

 脚本がかなり好みのものだったからだろうか。

 

 だが、それ以上にスカラーの演技力が無ければ興ざめしてしまう演目。

 本当に演じることが好きなのだと、楽しそうに舞台を駆け回っていた。


 店にはスカラーの演劇を目当てに来る客もいた。

 私も一般人として店を訪れていたら、彼女の演技に心を打たれ常連客になっていただろう。

 


 再び店の扉が鳴る。

 

「いらっしゃいま………………は?」

「こんにちはー!」


 ふわりと揺れる薄い金髪に、手入れの行き届いたカメラ……。

 店に入ってきたのは部下のローズマリーだった。

 

「アメッサさん招集です!」

「あ? あぁ…………分かった、すぐに向かおう」


 てっきり写真の一枚でも盗み撮られるかと思っていたが、ローズマリーがカメラをこちらに向ける事はなかった。


 スカラーに急用だと伝え店を後にする。


 それなりの異常事態らしい。

 基地からそれ程離れていないというのにローズマリーは馬車で店まで来たようだ。


「大丈夫です。やらかしとかでは無いそうなので」


 馬車の中でローズマリーは補足をした。

 首都(プロス)にいる司令官が全て招集されているらしく、個人的な要件では無いそうだ。




 


 司令部の第1会議室には既に殆どの司令官が集まっていた。

 

 遠方にいる司令官を除くとこの場に居ないのはナオキ総司令官くらいだろうか。

 停戦協定に向けた業務で部屋にこもりきりなのだそう。


 次席であるマイ副総司令官がこの場を仕切り始めた。

 

「大使館からある情報が届いてね」


 長机の上に顔写真と名前、走り書きのメモが書かれた資料が置かれた。


「これは何ですか……?」


 一人の司令官が尋ねた。


西国(ヘルツカイナ)軍上層部の名簿と顔の写しよ」

「「「「はい……!?」」」」


 その場に居た全員が資料を穴が空きそうな程見つめた。


 中にはハドワの交流会で出会った西国(ヘルツカイナ)最高司令官、ジョーカー。

 外交官、サイの名前などが記入されていた。


「偽物の可能性も捨てきれないけれど、一応頭に叩き込んでちょうだい」

「「「「はっ!」」」」


 マイ副総司令官は紙を拾い上げ、ペラペラを資料を捲る。

 

「……あら、この人……」


 二枚目に差し掛かった時、手を止めた。

 

「どうかされましたか?」

 

「ふふ、そうね…………アメッサ、少し出かけるわ。準備して頂戴」

「はい!」


 柔らかな声色はそのままに、マイ副総司令官は嫌な笑顔を浮かべていた。




 


 マイ副総司令官と共に馬車で向かった先はチャイファル。

 東国(ルミエール)一の工業地帯だ。


「何処に向かわれるんですか?」


 チャイファルの中心には工場が集まっていて、その外周に民家等が密集している。

 馬車は民家の路地をカタカタと走り続けていた。


「そうねぇ〜、俗に言うマフィアの本邸って感じかしら」


 マイ副総司令官は頬を抑えながら微笑んだ。


「軍人が介入して平気なんですか……」

「抗争になったら、私達が初めに犠牲になっちゃうわね」


 笑えない冗談だった。

 

「そこの頭領さんに要件があるの」

「まさか、名簿に顔が……?」

「そういうこと」


 到着した先にあったのは豪華なお屋敷。

 大きな門で入口は固く閉ざされており、独特の威圧感を放っている。


 マイ副総司令官が扉を軽く押すと、門は私達を歓迎するかのように開いた。


 

 廊下を迷うことなく進むマイ副総司令官の背中を追いながら、屋敷の隅々に目をこらす。


 ドラゴン()の巻物に高そうな壺や美術品、屋敷の主人の趣味が伺える。

 


 部屋の奥の更に奥、金縁の襖を開いた。

 

 部屋の中には東洋風の服に身を包んだ一人の男性が椅子に腰かけ。

 その男性を取り囲むように数人の護衛が立っていた。

 

「急にどうした? 軍のお偉いさんが揃いも揃って、連絡も無しに来られちゃこっちも困るんだがなぁ」


 中心に座る男性が大きく口を開け無言で笑う。


 目は黒く染まった伊達眼鏡で見えないが、心の底から笑ってなどいないだろう。


 まぁ座れや、と促される。


「ごめんなさいね。貴方達に大切なお話があってきたのよ」


 マイ副総司令官は臆することなく話を切り出した。


 話を進めようとすると、室内に給仕が入ってきた。

 

 低いテーブルに置かれたのは緑色の飲料。

 口にするつもりは無いが怪訝そうな顔で見つめる。

 

 確か、チャイファル茶だったか?

 実際に目にしたのは初めてだった。

 砂糖やミルクを入れるのは御法度らしい。


 威圧感の強い男性は片手でグイッと茶を飲んでいた。

 

「私達とっても大きな情報を掴んだの」

「へぇ、勿体ぶらずに教えてくれよ」


 男性は少し前かがみになった。


「そうね……捕虜誘拐の大元があなたってことが分かったわ」

「ほーう? それで俺らを捕まえに来たって?」

「あら、否定しないの?」

「軍の副総司令官様が直々に来てるんだ。ハッタリなんてことねーだろ?」


 ケタケタと笑う声が室内に響く。

 

「まぁ、その護衛にしてはちと隣にいる娘は頼りねぇがな」

「…………」


 コンジはこちらを一瞬睨みつけた。

 突然向けられた殺意に反射的に反応する。

 眼鏡越しの目は酷く冷たかった。


「女性を睨みつけるなんて、礼儀がなって無いわねぇ〜」


 黙りこくる私の代わりにマイ副総司令官が牽制する。


「はぁ゙ぁ゙……ったく、なんで軍の偉れぇ女はそういう語尾を伸ばす気持ち悪い〜話し方しかしねぇんだよ」

「あら、私とジョーカーさんを比べるなんて、謙遜しちゃうわ」


 二人の話し合いで部屋の温度がどんどん下がっていくのを感じた。


「どっちにとってもWIN-WIN(ウィン・ウィン)だろ? そっちは金が手に入って俺達は人手が手に入る。それに原価はゼロ円と来た。こんな美味い話はないだろ?」


「あら、録音しておけば良かったわね〜、今からでも訴えられるかしら」


 マイ副総司令官はあからさまに驚いてみせた。


「お宅らはんな事せずに地下で監禁、処刑だろ」

「地下なんて、都市伝説みたいなお話ね」

「いやだなぁ……この先内戦はもっと酷くなる、避難ルートくらい作ったらどうだ?」

「ご心配ありがとう〜、でも大丈夫よ、私達も強いもの」


 コンジは二杯目の茶を口にしていた。

 

「安心して、あなたを捕まえる事はしないわ。噛みつかずに、大人しく自国へ帰っていただけないかしら」


 マイ副総司令官は穏やかな笑顔で続けた。


「せっかく前線が落ち着いたのよ? 平和が一番」

「はっ、ホワイトアウトの創設者様がそれを言うのか」

「それも都市伝説かしら? 男の人ってそういうの本当に好きね〜」


 ビリビリと緊迫した空気が流れる。


 

 ホワイトアウト。

 東国(ルミエール)の過激派組織を取り締まる、東国(ルミエール)軍、裏組織の通称。

 司令室にいる私ですら、その存在を確認したことは無い。


 だが、司令室が最高機密保管場所になっているとは思えない。

 何処かにそういう組織はあるのだろう。


「今夜にでもこの建物を取り壊すから、そのつもりでお願いね」

「へいへい」


 話し終わったとでも言うようにマイ副総司令官は立ち上がった。


「それと部屋に入った時、あなたが慌てて隠した()()貰えるかしら?」


 マイ副総司令官はコンジの腹部を指さした。


「それとも、自分の背が低いのを気にして立つことも出来ないのかしら」


 誰かがひゅっと息を飲む音が聞こえた。

 当の本人はというとダンッ! と茶をテーブルに置き、青筋を浮かべながら立ち上がった。


「大口叩いた割にはちっせぇなあ?」


 コンジがぐいっと顔を近付けた。

 渋い煙草のような匂いが鼻についた。

 

「あら、()()()()()()のよ?」


 マイ副総司令官はコンジが今にも握りつぶしそうな紙を受け取ると部屋から立ち去って言った。

 その後に続いて部屋を後にする。


「あの……私を呼んだ理由は一体なんですか?」

「あの男も認めていたでしょう、西国(ヘルツカイナ)は人を奴隷として扱っている。ヴァッサ湾の誘拐の件、ここに繋がると思わない?」

「国民の行き着く先は、彼の管轄……」

「やっと頭が回ってきたわね〜、あまり相手に飲まれちゃ駄目よ」


 マイ副総司令官はスタスタと廊下を進んでいく。


「もしも国民と金では無く、国民と武器をやり取りしていたとしたら……」

西国(ヘルツカイナ)の武器が東国(ルミエール)で出回っている理由にもなるわね」


「答えはきっとここにあるわ」


 マイ副総司令官はトントンとしわくちゃになった紙を叩いた。



 



 馬車の中でコンジの隠していた紙を広げた。

 予感的中、中身は武器のリストだった。

 

「…………やたらと火炎放射器の数が多いですね。塹壕戦に使うなら理解できますが、なぜ一般人の元に火炎放射器が……?」

「さぁ……なんでかしらね?」

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