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君たちの時代にいたい  作者: たかゆき宗也
6章 冷戦
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第28話:対極

 〈ルミエール国軍 女子寮〉


 朝、机で本を読んでいたリラに来客があった。


 「リラ伍長、腕の調子はどうだ?」


 声の主はアメッサだった。


「良くなってきているけど、まだ本調子じゃないかな。お医者さんはあと1ヶ月は安静にって」


「そうか、無理に大使館へ連れて行ってしまってすまなかった」


 アメッサはしょんぼりとした顔で見舞いの品を机に置いた。

 普段なら全然平気だよ。

 と返事をするけど、アメッサに対して聞きたいことが沢山ある。

 その罪悪感を活用しない手はないだろう。

 

「そうだなぁ、悪かったと思ってるならさ、明日私とお出かけ(デート)しよう」

「あ゙?」


 一先ずアメッサの心を揺さぶってみることにした。

 距離を縮める事が一番効果的だと思ったからだ。


「……。いいだろう、多忙な私を一対一で誘うんだ。しっかりとエスコートしてくれるんだろうな?」

「あー、……勿論?」


 アメッサはふっと笑い部屋から出ていった。


 

 


 

 次の日アメッサの部屋の前まで呼びに行く。

 自分の部屋で待っていたら夜になってしまうと思ったからだ。


「ん、おはようリラ伍長、待たせてしまってすまない」

「おはようアメッサ」


 部屋から出てきたアメッサはいつも通り白い軍服に袖を通していた。

 そう、いつも通りの。


「それより、なんで軍服なんです? 私服ありますよね?」

「あるにはあるが、軍服でいいだろう」

「着替えて来てください」


 アメッサは休日なのにあろうことか軍服で市内を歩こうとしていた。

 今日は仕事の関係じゃないんだから。とアメッサの部屋のドアを無理やり閉じる。


 再びドアが開いた時にはアメッサは少し高級感のあるワンピースに身を包んでいた。

 流石は上層部のお偉いさんと言ったところだろうか。



 

 


「あのお店中にカフェもあるって、寄って行かない?」


 街に出ると行きたかった所にアメッサを連れ回した。

 甘い匂いに釣られて辺りを見回すとパティスリーがあったのでアメッサを誘う。


「あそこにか……?」


 アメッサは不満そうに顔を顰めた。

 甘いものが苦手だった記憶はなかったのだけれど。

 

「甘いもの苦手だっけ? あれ、でもこの前のお茶会の時のケーキは?」

「甘いものが嫌いな訳ではない。それとあの時のケーキは、副総司令官が好きなパティスリーのものでな、店主と顔馴染みなんだ」


 アメッサは腕を組み私を見あげた。


「それに、私は司令官だ、軍の上層部が嗜好品を食べている所なんて、国民にどう映るか分かったものじゃない」

「そんなに人は周りを気にしてないと思うけどなぁ、それに今日の私達、私服だしさ」

「…………一杯だけだからな」


 事実を述べるとアメッサはあっさり入店を許可してくれた。

 店に入るとより一層甘い匂いが鼻をついた。

 ショーケースには沢山の種類のケーキが並んでいた。

 思わずじっと見つめてしまう。


「アメッサはケーキ選ばないの?」


 アメッサは入店してからずっと店の隅で突っ立っていた。

 

「私は紅茶だけで良い。リラこそ、先程から私の横にいるが……選ばないのか」

「私は、妹と弟が選ぶ所を見るのが好きだから」

「なら、今日は自由に選べるな」

「そうだね」


 アメッサも私からしたら1歳年下で後輩みたいなもんなんだけど、それは伝わらないか。


 仕方なく一人でケーキを選ぶことにした。

 


「ケーキのセットのレモンティーとミルクティーになります」


 私はチョコレートケーキとレモンティー、アメッサはミルクティーを頼んでいた。

 

「ありがとうございます!」

「一口食べる?」


 アメッサは静かに首を横に振った。


 パティスリーの明るい雰囲気で少しは聞き出せるだろうか。

 

「ねぇ、1つ変なこと言ってもいい?」

「なんだ?」


「アメッサって二人いるの?」

「は……?」


 突然の質問にアメッサは紅茶をむせることはなかったが、カチャカチャと音を立ててカップを皿に置いた。


「例えばそのミルクティー、アメッサって紅茶はストレートで飲むのが好きでしょ?」

「それはそうだが、」


 アメッサは目を見開いたまま口ごもった。

 彼女は顔に出やすい、嘘をついたらすぐに分かる。


「ううんごめん、ありがとう、その反応で分かった。アメッサはアメッサただ一人だね」


 疑ったことを謝ると目に見えてアメッサは落ち着いた。

 このまま全部聞き出せたらいいのに。


「昔、妹達に読み聞かせた本で、マジシャンが実は双子だったっていう本があったの。それでこの前の作戦を書いたのはもしかしたらって思ってさ」

「随分とメルヘンな飛躍をしたな」


 咄嗟に思いついた嘘だった。


「あの件に関しては、取り乱してすまないと思っている。

だが、分かってくれ、例えおかしいと思ったとしても

歴史の荒波では粗末なこと」


 アメッサはミルクティーをちびちび飲んでいた。

 

「こうして休日を過ごす者にまで勘違いをされたくはない」

「どうして私なの?」


 アメッサは私に隠し事をするけれど、多分アメッサにとって軍の中で1番頼れるのは私。

 

「なぜそんなことを聞く? お前は自分の存在価値を他人に委ねるような性格では無いだろう」

「それはそうだけど……なんでアメッサの行動と結果を私が見ていなきゃなのかなって、見ていて欲しいの?」


 少し意地悪な質問だっただろうか。

 

「お前なら正しく判断できると思ったからだ」

「正しく?」


「そうだな、お前は初めて会った時、階級が上の者として私と相対した」

「当たり前のことじゃない?」


 上官に対して無礼な態度を取らないのは軍人だからじゃない、人として普通のことだと思う。

 だけど、アメッサは若いし外見が幼いから、下に見られてきたんだろうな。

 

「その当たり前が出来ない者がこの国には多いんだ」


 うん、やっぱりそうだった。



 

 

「アメッサ、歩く時ずっと手に力が入ってるね」

「いつもの癖だ」


 カフェから出て街を散策する。

 アメッサはずっと周囲を警戒しながら歩いていた。


「大丈夫だよ、例え1メートル先から弾が飛んできても、私が切り落としてあげるからさ」

「とんだ化け物だな……だが今はそれが出来ない。だからこうして私が警戒しているんだろう」

「怪我が治ったら安全確保は私に任せてよ」

「そうか、なら1000メートル先からの弾も切り通せたら任せよう」

「それはちょっと無理かも」

「ははっ、だろうな」


 アメッサが少し笑った。

 アメッサがジョークが好きなのは知ってるけど、少し会話に困ることもあるなぁ。


「ねぇアメッサ、なにか悩んでることとない?」


 少し踏み込んで聞いてみた。


「……何度言わせれば気が済むんだ。勝手に私を想像し、同情をするなと言っているだろう」


 アメッサが静かに言い放った。

 声は固く冷たくて怒っているのがすぐに伝わった。

 悩みさえも聞けないとは、そんなにも心を許されていないんだな。


「ごめん……」


 でも、勝手じゃないよ、確かなことだよ。

 友達だと思ってる、力になりたいのも本当。


 普段なら見て見ぬふりをすると思うけど、アメッサは気がついていないだけかもしれないけど。

 大使館に向かう時も、壁に向かう馬車の中でも、アメッサは凄く不安そうな顔してた。


 助けられるなら助けてあげたいけど、分からなければ、私の手に負えないことなのかすら分からない。

 

 手に負えないから、アメッサは分かりきってて話さないんだろうけど、愚痴のはけ口くらいならなれるかもしれない。


 私にも私の大切なものがあって、アメッサに割ける時間は限られてる。

 それでもアメッサからも友達だって思ってもらえるだろうか。


「お前は軍人だ。私の側近では無いだろう。何の為に軍人になったんだ。上官のご機嫌取りか?」


 アメッサが厳しく問い詰めてきた。

 私の答えはいつも同じ。

 

「大切な人を守る為に軍人になったよ」

「そうか、そう何時もお前は言っているな。そんな綺麗事がある訳無いだろう」


 アメッサは呆れるように溜息をついた。


「……お前が切っているのはなんだ? 西国(ヘルツカイナ)人か? 西国(ヘルツカイナ)兵か? 武器を持ち相対するものか?」


 そんなの昔からただ一つ。

 ずっと変わらない。

 

「家族の安全を脅かすもの、その全てを切りたい」


 大切な家族との思い出が頭に次々と浮かんでくる。

 父さんとの鍛錬の日々、妹の誕生日会。

 沢山……沢山。

 

「逃げたら故郷も、この国も無くなる。そんなの耐えられない。誰かに任せて、自分だけ見ないフリをして大人になるなんて出来なかった!」


 強く固い決心を口に出した。

 軍人を辞めるわけがない、辞める訳にはいかない。

 一番大切なものは優先順位は初めから決まっている。


「ならお前は軍人だ。であれば私は少佐でお前は伍長。それ以上でもそれ以下でもない!」


 アメッサは私の目を見てはっきりと言った。


 その後は夕日が綺麗だねみたいな世間話をして解散した。

 結局アメッサの事は殆ど教えて貰えなかった。

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