第27話:リラの休日
〈ルミエール国軍 女子寮〉
朝の6時。
リラは周囲の隊員達の起床を感じ取り、目を覚ました。
ベットから起き上がりカーテンを開ける。
天気は快晴。
この前9月になったと思っていたのに、カレンダーは10月を表していた。
水で顔を洗うと更に頭がスッキリとした。
「何着ようかな〜、天気が良いから薄い長袖のにしようかな」
私服に着替え、軽くメイクをし、髪をハーフアップにする。
第1防衛ラインの崩壊から2ヶ月以上が経ち。
前線に招集されなくなり、今までで一番肌と唇の調子が良い。
机から便箋と万年筆を取り出す。
療養中、父からの手紙に返事をかけずにいた。
万年筆をインクに浸し、別の紙に試し書きをする。
書きたい内容を頭の中で整理する。
息を整え便箋に万年筆を走らせた。
『父さんへ、いつもお手紙ありがとうございます』
『手紙の返事が遅くなり心配をおかけしました』
『既にご存知と思いますがヴァッサの第1防衛ラインの1つが崩壊し、前線に動きがありました』
『リーナも私も五体満足で帰還しております』
『少々リーナについてお伝えしたいことがあります。この件に関しては今度、実家へ帰った時にお話出来たらと考えており、時間を空けていただけると幸いです』
『現状、前線は落ち着いており、暫くの間お休みを頂きました』
『来週末にでも帰ることが出来そうです』
『日程が決まり次第また手紙を出します』
『くれぐれもお身体に気をつけて』
『母さんにロナン兄さん、レオ、ティナにもよろしくお伝え下さい』
手紙を書き終わり封を閉じる。
こうした父との手紙のやり取りは私が地元の士官学校に入学し、寮生活が始まった時から続いている。
ゴミ箱には手の震えで失敗した手紙が数枚入っていた。
手紙などの細かい作業は気を抜くとペン先が震えてしまう。
それでも食事を一人で取れるまでには回復していた。
「よし! 今日は何処に行こうかな」
鏡の前でくるりと身だしなみを確認し、外に出る。
軍の敷地内から出ると東国の城の頭が見えた。
城下町というのだろう、煌びやかなレストラン、王室御用達の食器店などが立ち並んでいる。
手紙を出すためポストに向かうと、ちょうどポストマンの方が手紙を回収していた。
「はい! お預かりします、お手紙は大切に送り主様までお届け致します!」
「よろしくお願い致します!」
ポストマンの青年は律儀に頭を下げると手紙をショルダーバッグにしまい、駆けて行った。
元気なその姿を目で追っていると、コーヒーの香りが鼻をついた。
「いい匂い……」
そういえば朝から何も口にしていないなと考えていると。
返事をするかのように腹が鳴った。
「あー、はは……寄りますか」
少し大きなカフェに入る。
カウンターの横には手作りのアクセサリーが売られていた。
「いらっしゃいませ〜!」
店員さんはクラシカルロリータのような可愛いワンピースを身にまとっていた。
要所要所に青い薔薇が散りばめられていて、お姫様のように可愛らしかった。
席に案内されると、前方にはステージがあり、緞帳が降りていた。
「ご注文が決まったらベルでお知らせ下さい!」
「分かりました、ありがとうございます」
気軽に立ち寄ったけれど、少しお高めのカフェに来てしまったようだ。
メニュー表に目を通すと甘いものがメインで軽食はあまり無さそう……。
あ、オムライスはあるみたい。
家にいた時は妹と弟が大好きでよく作っていたなぁ。
頼むものが決まり、ベルを鳴らす。
暫くすると先程の女の子がやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「ふわふわオムライスを一つお願いします!」
「はい! かしこまりました! 少々お待ちください〜」
女の子は明るく微笑んでキッチンに向かって行った。
窓を通り過ぎていく通行人を眺めながら時間が過ぎていくのを感じた。
程なくしてオムライスは運ばれてきた。
「いただきます」
湯気が立ち上るオムライス。
ケチャップで猫が描かれていた。
「誰かに作ってもらったの、久しぶりだなぁ」
ぱくぱくと食べ進める。
オムライスはどんどん減っていった。
完食しお会計を済ませると店員の女の子は、またいらしてくださいと手を振っていた。
つられて手を振りながらお店を後にする。
足取り軽く国立図書館に向かった。
軍にある図書館でも良いけれど、そこで勉強をした日には他部隊の友人達と勉強会になる。
一人で静かに読書をしたい時はこうして首都の国立図書館に足を運んでいた。
「東国の歴史、東国建国から現代まで……」
歴史の棚を見上げる。
一冊の本を手に取り、パラパラとめくった。
元々東国と西国は一つの大きな国だったけれど、政権の違いなどで大まかに2分割された。
2分割されたけれど、東国は各地域の特色が強く、人々の生活は千差万別。
始まりの方向が同じだからといって、それがずっと続く訳じゃない。
西国との戦争が始まる前は内戦も多かった。
私の地元は島だったから、それに巻き込まれることは無かった、だからだろうか、プロスの人々は内向的な人が多い気がする。
パタンと本を閉じ、棚に戻す。
本を読み漁っているといつの間にか夕日がテーブルを照らしていた。
伸びをして辺りを見渡す。
人は殆どいなかった。
戦術、歴史、詩集と気になっていた本を片っ端から読むことができた。
門限が過ぎる前に寮に戻ろう。
自室に入り鍵を閉める。
服を着替えてメイクを落とし、気絶するようにベットに倒れ込んだ。
「ふぅー………………」
夜になると自然と気持ちが沈んでいく。
リーナは無事に帰ってきた。
なのになんでこんなにも、不安になるんだろう。
もう二度とあんな目には合わせない。
なんのために軍人になったんだ。
守るためだろ。
化学兵器が落ちてきた時。
第13小隊の同期や上官と共に川に飛び込む判断をしたけれど、後輩達の中には判断が遅れた子もいた。
ヴァッサで一番大きなリネア川ではなくとも、ノイの雪解け水で常に川の流れは速い。
水の中で力尽きた隊員もいただろう。
むしろ川から上がる時、私は隊長に腕を引っ張ってもらっていた。
私は誰一人、助けられなかった。
リーナが帰ってくるのを待っているしか無かった。
「守れなくて、ごめんなさい……」
震える喉から出た声は、想像以上にか細かった。
お夕飯は……食べなくていいか。
止まらない反省と後悔に埋もれながら眠れないのに目を閉じた。




