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君たちの時代にいたい  作者: たかゆき宗也
6章 冷戦
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第26話:音楽鑑賞

「アンジェ、明後日丸一日予定を開けておけ」

「へ?」


 チャイファルの軍病院から首都(プロス)へ戻る日の朝。

 アメッサさんに呼び止められたと思えば、謎の指示でした。


「朝の7時に迎えに行く、行先は当日伝える」


 アメッサさんは一方的に話を進め、話が終わると馬車に乗り込んでしまいました。

 

「えぇ……?」


 仕事ではありませんし、私の予定を聞かずに話を進めるのは職権濫用じゃないんですかね。

 


 

 そんな事を考えていたからか、当日私は少し寝坊してしまいました。

 

「まずいまずい、アメッサさんが来る前に寮の外まで行かないとっうおああ!!?」


 自室の扉を開けると目の前に真顔のアメッサさんが立っていて思わず叫びました。

 まさか部屋の前に居るとは思わず、腰を抜かしてしまいました。

 

「行くぞ」


 アメッサさんはそんな私を一瞥した後、背を向けてスタスタと歩き始めました。

 叫んだのに叱られなかったのはラッキーと捉えて良いのでしょうか。

 でも、少しくらい心配してくれても良いと思います。

 あの人に人の心は無いんでしょうか。

 

 この時のアメッサは立つ位置が扉に近付きすぎた。

 などと考えていた為、アンジェが叫んだことなど、あまり気にしていなかった。





 連れて来られたのは首都(プロス)にあるコンサートホールでした。


「オーケストラでも聞くんですか?」

「そのつもりだったが、開演は12時みたいだな。近くの店で朝食でも食べるか」


 アメッサさんは迷わず近くにあったカフェに入って行きました。

 そこは首都にあるオシャレなお店の雰囲気がぷんぷんします。

 白い壁、淡いミントグリーンのテーブルと木のチェアが外に置かれていて、大きな窓からは店内の落ち着いた印象を感じ取れました。

 

「カフェ・アマンダ……行きつけのお店ですか?」

「行きつけとまではいかないが、知人の好きな店で馴染みがあるんだ」


 アメッサさんは扉を開け、カランっと一つ鐘の音が鳴りました。

 店員さんに外が良く見える席に案内されました。


「好きなものを頼め、私の奢りだ」

「やったー! ありがとうございます!」


「ご注文はお決まりですか?」

「ガレットと紅茶のホットを一つ、お願いします」

「モーニングプレートとりんごジュースでお願いします!」

「かしこまりました! 少々お待ちください」

 

 店員さんはすらすらと注文を紙にメモし去って行きました。


「アメッサさん紅茶好きなんですか?」

「ん? あぁ、コーヒーよりは好ましいな」


 暫くして焼きたてのパンとサラダ、カットフルーツの揃ったモーニングプレートと飲み物、アメッサさんの料理も届きました。


「ガレットって目玉焼きのイメージでしたけど、ここのお店はベーコンと野菜なんですね」


 アメッサさんを見るとガレットを食べやすいサイズに切り分けていました。

 

「普通に頼めばのっているぞ、私がいつも卵を抜いてもらっているだけだ」

「アレルギーですか?」

「いや、単に苦手なだけだ」


 アメッサさんはガレットを口に運ぶ寸前にぽつりと呟きました。

 

「好き嫌いはよく無いですよ!」

「お前は何でも食べてそうだな」

「はい!」


 朝食を食べ、首都のお店を何軒か見て回る。

 コンサートホールに戻った頃には開場時間を少し過ぎていました。


「間違えてもいびきだけはかくなよ」

「だ、大丈夫ですよ……!」


 アメッサさんはチケットを渡し、静かに会場に入って行きました。

 それに続いて私も会場に入りました。


 壁には芸術的な絵が飾ってあったり、楽団に贈られたお花が飾られていました。


 てっきり地域的な楽団だと思っていたのですが、沢山のお花が贈られるくらい有名な楽団のようです。


 席はアメッサさんの隣でした。

 パンフレットを読み終わり、辺りを見渡すと人が次々と集まっていました。

 沢山の人がいるのに会場は静かで、息苦しささえ感じます。


 アナウンスの後、会場が暗転。

 ブーっと開演の音が鳴り、前方の縁幕が上がりました。




 

 演奏曲は私でも知ってる有名な曲や、子供でも楽しめるように演奏者や指揮者が少し演技をするような曲もありました。

 

 正直アメッサさんにこんな堅苦しい場所に連れてこられた時は、私には合わないと思っていましたが、あっという間にコンサートは終わりました。



「ここの楽団は、最後に必ず誕生日を祝福する曲を演奏する。それが凄く、好きなんだ」


 会場を出るとアメッサさんはパンフレットを握りしめていました。

 

「確かに、最後アンコールで弾いていましたね」


 アメッサさんは興奮冷めやらぬ表情で足取り軽く会場内を歩いていました。


「私、誕生日11月25日です。お祝いしてくださいね」

「覚えておこう。何か欲しいものはあるか」


 冗談まじりでお祝いしてと言ってみましたがアメッサさんは間に受けてくれました。

 かなり機嫌が良さそうです。

 欲しい物と急に言われてもパッとは出てきません。

 

「えっと、うーん…………あの今日もですけど、どうして、そこまで良くしてくれるんですか?」

「そうだな……」


 

 

 アメッサは救出作戦後のことを思い出していた。


 声を荒げ人目を気にせずに泣きじゃくるアンジェを見てアメッサはなかなか言葉が出ずにいた。


『ほう……アンジェ一等衛生兵、生きていたか』


 18歳の新兵、子供なのは分かっていたが。

 彼女の泣き声があまりにも幼くて、驚いた。


 我慢していたものが溢れているのだと、すぐに分かるほどだった。

 今回の生還は奇跡と言ってもいいだろう。



 


「何か気になる点でもあったか?」

「なんか前よりアメッサさんの距離が近い気がするんです」

「今回は昇進祝いとでも思っておけ」


 首を軽く傾げるとアメッサさんは考える素振りをみせました。

 

「実感はないが、私はお前が私の目の前で泣いたのが嬉しかったのかもしれないな」

「………………は?」


 アメッサさんの口から出た回答は聞き捨てならないものでした。

 

「泣くというのは何より大きな感情で、他人に見せるものではないだろう」

「いや、そうですけど……」


 アメッサさんは当時のことを思い出しているのか、少し微笑んでいました。


 なんでしょう、この人からの好意? 保護欲?

 言葉を選ばずに言うなら気持ちが悪かったです。


 嬉しかったと、それを素直に伝えて来る部分も含めて嫌です。


「アンジェ、お前の好きな食べ物はなんだ?」


 私も人のことを言えませんが、話がだいぶ飛びましたね。


「えっと、アップルパイですけど……甘い物なら大体好きです」

「想像がつくな」

「そんなに分かりやすいですかね?」


 アメッサさんは頬杖をつきこちらをじっと見ていました。

 

「…………分かりやすい、というより。周囲からみたお前はそれを選ぶ。というものをお前自身が実際選んでいるだけだろう」


「へぇ……」


 とんでも地雷を踏み抜かれました。

 この人は人の心にずかずかと踏み込んで来るのも不快です。

 

「そのあたかも本心を出しているように下がる声もお前の匙加減。実際いつものテンション()でお前は対応できる」

「アメッサさんめんどくさいです」

「他の奴もお前くらい分かりやすければ良いんだがな」


 アメッサさんは満足そうに歩き出しました。


 ご飯も美味しくて、演奏も凄く良かったのにどっと疲れた気がします。

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