第25話:相違
レイチェルさんとチャイファルの軍病院に戻ると、アメッサさんに呼び止められました。
アメッサさんによるとリラさんの腕の具合が悪くなったそうで、すぐにリラさんのいる病院の個室に向かいました。
レイチェルさんはアメッサさんから用事があるらしく、二人とは別れていました。
「リラさん、アンジェです! 入りますね!」
リラさんは若い女性隊員という事もあり個室のベットが用意されていました。
「アンジェ久しぶり、無事で良かった」
「私は平気です! リラさんは痺れが悪化したんですか……?」
「そうみたい、あの後少し、敵と戦う機会があってね」
「そうですか……今度こそ絶対安静ですからね!」
「リラちゃん!」
そう叫びながら、ドアを開け部屋に入ってきたのはリラさんの妹、リーナさんでした。
表情には焦りと怒りが浮かんでいました。
「大丈夫!!!?」
「大丈夫、すぐに治るよ。それとリーナ病院では静かにね」
リーナさんはうっとした顔でリラさんに近寄りました。
「もう、家に帰ろうよ」
リーナさんの提案は療養の為の帰省では無く、軍人を退職するという意味でしょう。
「…………そうだねリーナ、リーナが家にいてくれたらお姉ちゃんも嬉しい。昔からパン屋になりたいって言う夢があったもんね」
「うん……だから、私と一緒に帰ってくれる?」
リーナさんはリラさんの膝に手を置いて懇願していました。
「お父さんにロナン兄さん、レオ。ティナやお母さんだって家にいるんだよ」
「分かってるよ、リーナ。だからお姉ちゃんは皆を守る為に軍人になったの」
リラさんの決意は固いようで、優しくそれでもキッパリと話していました。
「なんで? 私は……リラちゃんみたいに強く無いかもしれないけど、私は、リラちゃんの事が、心配なのに」
「リーナは優しいから、そんな考えで進めばいつか判断を間違えるよ」
「違うもん……! もういい、私が辞めさせて貰えるように頼んでくるから!」
「リーナ!」
リーナさんは涙を浮かべながら病室を半ば飛び出して行きました。
「えっと……」
「ごめんねアンジェ、こんな所で姉妹喧嘩初めちゃって、」
「い、いえ! お二人それぞれの言いたいことは分かるといいますか……」
リラさんは申し訳なさそうに頭を抑えていました。
「それより、頼みに行くって大丈夫なんですか」
「流石に大丈夫だとは思うよ。でも、リーナが上官から叱責されるのは仕方が無い事として……指導を受けないかだけ心配かな」
指導、というのは殴られるとかそういった体罰の事でしょう。
女の子だからとか関係なく、部下をまとめるのに暴力の恐怖でまとめる上官も普通にいます。
ガーラン大尉は通常時の力が馬鹿みたいに強いだけで、だいぶ優しい方です。
そういえば、上官からの指導で野戦病院に来た、他部隊所属の患者さんがいたのを覚えています。
「妹にはあんなこと言っちゃったけど、この痺れ本当に治るのかな。お医者さんには数ヶ月で治るって言って貰えたんだけど」
リラさんは手を軽く握り独り言のように呟きました。
「心を強く持ってください。気持ちは一番のお薬です!」
「そう、だよね」
リラさんは空元気な笑顔を作っていました。
何か好きな食べ物とか差し入れ出来たら良いのですが……。
うんうん唸る姿を見かねたリラさんが小さな笑みを作りました。
「お医者さんから外出許可が降りたら一緒にお出かけしよっか、アンジェのケープ、買いに行かない?」
「あっ、すっかり忘れてました……! 一緒にお出かけしましょう!!」
体力検定が終わってもケープを買いに行く時間が無く、数ヶ月が経っていました。
〈同時刻、チャイファル軍病院、応接室〉
「レイチェル、提出してもらった救出作戦の報告書だが、噛み合わない部分が多くないか?」
「行き当たりばったりの事が多く、当初の予定とズレが生じてしまいました」
アメッサは応接室をゆっくり歩き周りながら、レイチェルに語りかけていた。
レイチェルの報告書には不可解な点が見受けられた。
西国兵に見つからず壁まで近づける場所を即座に見つけたこと。
これは彼女の優秀さ、単独行動故の結果だと思えば良かったが。
何故、総司令官は侵入をレイチェル一人に任せたのか。
捕虜が壁内部に居たからこそ良かったが、内陸に居たらどう行動するつもりだったのだろうか。
「報告書は反省文じゃないんだ、嘘で辻褄を合わせようとするな」
「はい……」
アメッサは自身の事を棚に上げ、レイチェルを軽く叱責した。
レイチェルは、ばつが悪そうに口ごもっていた。
「それで、本来なら書き直して貰うのだが、伝書鳩で確認を取った所、総司令官にそれを咎められてな」
「そうでしたか」
レイチェルは嬉しくも嫌でもない。といった表情をしていた。
「お前は別で総司令官に報告書を提出しているのだろう」
アメッサはレイチェルの表情の変化を確認した後、息を一つ吐いた。
レイチェルはそれを確認し、アメッサの気が済んだ事を理解した。
「お話はそれで以上でしょうか」
「あぁ、もう出て行ってもらって構わない」
アメッサは面倒くさそうに少し手を振った。
「分かりました。あの……アメッサ、ちゃんに一つお話が」
「なんだ?」
「冷戦に入って、リラさんの手が良くなって、皆さん落ち着いたら、また集まりませんか」
レイチェルの話はお茶会の誘いだった。
「茶会か? ……まぁ、良いだろう。だが、前回の様に軍の敷地内では無く、庭園でも貸切にしよう」
「良いですね、会話を他人に聞かれることも無さそうで安心です」
「そうだな。また後日鳩を飛ばそう」
「ありがとうございます」




