第21話:強制労働
お母さん、ネージェ姉。
ごめんなさい。
私、アンジェは捕虜になってしまいました。
ポジティブに捉えるなら、今までで1番シユに近づけています。
こんな形だとは夢にも思っていませんでしたが。
列車から小さなゴンドラ、その後船に乗せられ長いこと揺られていました。
「さっさと外に出ろ!」
船が港に着いたのでしょう。
西国兵に叫ばれ外に出る。
いつの間にか夜になっていて、冷たい風と波の音が聞こえます。
「一列に並べ!」
私達は人数や持ち物を再度確認されました。
リーナさんや第4中隊の隊員とは船の中ではぐれてしまい、見渡す限り見当たりません。
「着いてこい、少しでも列を乱したら射殺する!」
歩きにくい砂浜を一列で進む。
前方には無機質な灰色の壁。
7月にしては寒すぎる気温。
ここが西国だと突きつけられます。
捕虜って肉体労働とかさせられるんですよね。
私は衛生兵ですし他の隊員達のように動ける気がしません。
無能だとバレて射殺されなければよいのですが……。
前を歩く人が凄くフラフラしています。
「わっ……!」
前を歩いていた人は突然倒れてしまい、思わずつまづいてしまいました。
「さっさと歩け!!」
声を出してしまったので西国兵に銃を向けられます。
このままだとこの人は死んでしまうでしょう。
「死にたくなかったら、進みな」
小さな声で、後ろから男の人にそう言われました。
………………進もう。
倒れた隊員を無視して歩き出す。
収容所に到着するまでの間2人の人を見捨てました。
「お前らを組み分けする」
収容所内でも整列させられ、数十人単位で班を作られました。
収容所と言っても、小屋があるような屋外ではなく、
堅い壁で覆われた室内で外より気温がぐっと下がった気がします。
所々にランプが置かれ異様な雰囲気です。
「衛生兵だな」
「はっ、はい……」
「着いてこい」
私の服装で衛生兵だと確信したのでしょう。
西国兵に他の隊員達とは違う場所に連れていかれました。
「お前はここで怪我人の治療を行え」
「分かりました」
着いた場所は薄暗い収容所の一角。
簡易的なベットが一台とボロボロになった薬品棚が置かれていました。
何もする事が無く、見回りする西国兵に毎回びっくりしていましたが、暫くして灰色髪の隊員の方が診察室に入ってきました。
「耳を怪我した、診てくれないか」
「分かりました……!」
耳の怪我を見るため、隊員さんに顔を近づけました。
「ここは、西国の強制収容所だ」
「…………!」
とても小さな声で告げられました。
「俺達は壁の建設をしている」
「……これは、擦り傷になってますね」
自分達のしている事を教えてくれました。
「かなりの数の隊員がいただろ、軍も気が付く」
「少し血が、出ているので……消毒しますね」
患者さんの怪我の処置を進める。
私は小さな声で喋るという事が苦手なので、普通に診察した方がいいです。
「……処置終わりました、お大事にしてください」
立ち上がる隊員さんに一つ質問をする。
「あの……第4中隊の仲間は、」
「俺の作業所の付近には居ない」
ぽつりと呟き立ち去っていきました。
その日私は少しの仮眠を椅子の上で取るだけでした。
第一防衛ラインの戦闘後、すぐ捕虜となり壁の建設をしているんです。
怪我をする隊員方は多く、私の目の前には数人の列が出来ていました。
その日も同じ灰色髪の方が診察室に来ました。
「頭に切り傷ができてます」
「俺の名前はジキ軍曹だ、覚えておけ」
ジキと名乗る男性は頭を横に向けたまま名乗りました。
「名前、所属部隊と階級は」
「アンジェ一等衛生兵……第4中隊所属の、衛生兵です」
「気をつけてくださいね、包帯にも限りがあります」
動けない私に情報を伝えてくれるのはありがたいのですが、その為に本当の傷を作るのは複雑な気持ちです。
「おい! そこ、何を話している!!」
私達の話し声が聞こえてしまったのでしょう。
西国兵が銃をこちらに構え、威嚇射撃も無しに打ってきました。
「危ないっ!!」
私はジキ軍曹に守られる形、ジキ軍曹は並んでいた別の隊員に思い切り突き飛ばされました。
「ダント大尉!!?」
ジキ軍曹がうずくまる隊員にそう叫びました。
私達を身を呈して庇ってくれたのは、大尉の方でした。
「すぐに、治療を……!」
「辞めろっ!」
治療しようと立ち上がると、大きな声でジキ軍曹に止められました。
未だに西国兵は銃をこちらに構えています。
「随分、部下想いの隊員だ。とはいえ、お前らが話し合っていたことについては何も解決していない、一人ずつ来い」
初めはお前だとでも言うように、西国兵は私に銃を向けました。
「…………はい」
何も無い部屋に連れられ壁際まで誘導されました。
聞かれたことは、名前と階級、所属部隊、ジキ軍曹との関係、話していた内容でした。
ジキ軍曹と話していた内容については、普通に診察をしていただけだと答えました。
私が一等兵であり新兵だと分かったからか、私が身振り手振りで説明する姿に呆れたのか、打たれることなく解放されました。
次、身振り手振りを付けて説明したら打つ、とは言われましたが。
聴取が終わり、作業場に戻ると、ダント大尉の姿はなくなっていました。
恐らく既に息を引き取り、何処かに運ばれて行ったのでしょう。
戦場では頼りになる大尉も、一度捕虜になれば、一方的に殺されてしまう。
無念の最後だったでしょうか、それとも、私達を庇ったことを誇りに思ったのでしょうか。
「すまない……」
ジキ軍曹は気まずそうに私に言いました。
そしてそのままジキ軍曹は西国兵に連れていかれました。
私は無傷で帰って来れましたが、ジキ軍曹は大丈夫でしょうか。
暫くの時間が経ち、ジキ軍曹は無事に戻ってきました。
安堵で胸を撫で下ろしましたが、いつまで私達は捕まったままなのでしょうか。
支給される食料は最低限のもの、私はまだしも、体力仕事の隊員達は日に日に弱っていきます。
その日は私が西国兵に連れていかれた事もあり、患者さん達が気を利かせてくれたのか、保身のためか治療を受けに来ることはありませんでした。
久しぶりに睡眠が取れそうです。
私だけ椅子に座って寝るのは気が引けたので、他の隊員の方の真似をして診察所の近くの床に寝転ぶ。
第一防衛ラインの崩壊から徹夜続きの私が言えたことではありませんが、睡眠は大切です。
そんな事を自分に言い聞かせながら、薄い布を体に巻き付け、無理やり目を閉じた。
まさか休憩室の土嚢ではなく、硬く冷たい床で寝泊まりするとは夢にも思いませんでしたけどね。




