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君たちの時代にいたい  作者: たかゆき宗也
4章 ティレーベル防衛戦
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第18話:負けず嫌い

 ハドワリゾートホテルの朝食会場では、コーヒーや焼きたてのパンの香り、バターの良い匂いが漂っていた。


 「アメッサ様食事が口に会いませんでしたか?」


 第1防衛ライン崩壊の報告から一夜が明け。

 私はマリガンさんに勧められ、朝食会場で食事をしていた。


「いえ、朝食もとても美味しいです」


 とても美味しい、はずだ。

 だが、前線の事が気になり食事が思うように喉を通らなかった。


 

 

 私の今日の仕事は、全体の指揮を取る総司令官に変わり、ルミエール国軍の司令官として、交流会を乗り切ること。


 要人の中には戦況を知らない者もいるだろう。

 私はあくまで普段通り、軍人として振る舞う事を命令されている。

 


 昼間は会場の最終確認を行った。

 

 時間はあっという間に過ぎていき両国交流会は開催された。


 

 

「アルバン・ミュラー様、ルミエール国軍司令官、アメッサです。先々月は還暦おめでとうございます」

「あぁ、アメッサさんだね。急な頼みで悪かったが、助かったよ」

「とても素敵なパーティだったと話を聞いております」


 

 私は普段通りの白を基調としたルミエール国軍、司令室の軍服で身を包み、交流会に参加していた。


 話せる内容は少なくとも、軍の者として各要人に挨拶をするべきだ。


 手始めにと、過去に一度、手紙のやり取りをしたアルバン・ミュラーさんに話しかけた。

 

 アルバンさんはルミエール国の政治家であり、先々月リラを護衛任務へ当てた方だ。


 

 軽い世間話をした後、アルバンさんは厳かな雰囲気の使用人と共に各要人へ挨拶周りに向かって行った。



 配られたワインには口を付けず、話しかけられそうな相手を探し、辺りを見回す。

 

 一人、ドレス姿の女性がこちらに向かって歩いて来ていた。

 あれは確か……。

 

 「今晩は。ワタシはヘルツカイナ国軍、最高司令官ジョーカー。初めて会う子だねぇ、あの総司令官の坊ちゃんは居ないのかい?」


 ヘルツカイナ国軍、最高司令官だった。

 

「お初お目にかかります。ナオキ総司令官は急用の為、参加しておりません。代理人としてルミエール国軍司令官、アメッサが対応させていただきます」


 30代前後の金髪の女性は自らをジョーカー(道化師)と名乗った。

 とても本名とは思えないな。

 

 事前に伝達されていた情報によるとジョーカーは西国(ヘルツカイナ)の貴族。

 こだわりが強く、趣味は賭け事と酒、西国(ヘルツカイナ)でカジノ運営もしているそうだ。


「まぁ、ワタシも()()の代わりに来たからねぇ」

「サイ様は確か、西国(ヘルツカイナ)の外交官の方でしたか」


 本来ならナオキ総司令官とサイという外交官が話しをする予定だったのだろう。

 

「あいつはかなり自由な男でね。自分の好きな事を優先してしまう悪癖があるんだ」

「サイ様は研究のご趣味があるそうですね」

「帰ったら叱っておくさ」


 ジョーカーは頬に手を付き笑った。

 

「ところで、そちらはだいぶ前線が危ないそうじゃないか」


 突然、ジョーカーが顔を近づけ耳打ちしたと思えば、戦況の話だった。


「表で話す内容ではないでしょう」

「……なら、あちらで少し話そうか」


 目線の先には談笑用の個室。

 取引や契約等を結ぶことは出来ないが、何か情報が手に入るかもしれない。

 

「是非」


 個室は広間に比べて人の出入りがなく少し冷えていた。

 大広間の演奏の音も小さくなり頭がすっきりする。


「それで、話の続きは一体何でしょうか」

「ふっ、はは! いいよいいよ、もう敬語はさ」

「そう、ですか」

「ワタシの事もジョーカーと呼んでくれて構わない」


 ジョーカーは個室に入るや否や、けらけら笑い始めた。


「ワタシもサイの行動には頭を抱えていてね」


 個室のソファに座るのを見て、私も対面のソファに座る。

 

「勝手に前線を実験場にしないでいただきたいよ。こちらも戦略というものがあるんだ」

「そうですね、北ヴァッサを毒ガスの影響で攻めることが出来ないのは、そちらも不本意でしょう」


 西国側の勢力は数年に渡って段々と北に集中していた。

 ルミエール軍の前線への物資は山脈列車で殆ど運ばれており、補給地点もそれに合わせた形で配置されている。

 

 ヘルツカイナ軍はそれを潰したいだろう。

 

「あぁ、そうだ。ノイは壁があって不便だし、かと言って一番欲しいところは奪えない」

「…………」

「停戦、したいよねぇ」


 停戦。

 一見平和的な解決策かもしれないが、停戦した東国(ルミエール)で次に起こることは内戦だ。


 元々多種多様な民族、文化が入り交じる東国(ルミエール)だ。

 難民問題、革新派、保守派の対立と火種はいくらでもある。

 今は1つの敵がいるからこそ緩和されているだけ。

 

「随分勝手ですね、ですが、被害を増やしたくないのはこちらも本望です」

「うん……そっちの坊ちゃんがいたらもう少し話が進められたんだけど、キミに話してもねぇ」


 能力と階級不足、それは否めなかった。


「進まない話はここまでにしよう」


ジョーカーが立ち上がり、棚から取り出したのはチェスの盤上と駒だった。

 

「少しゲームしないかい?」

「チェスですか」

「王道だろう? イカサマも無いとても良いゲームだ」

「一局だけでしたら」


 そして、西国(ヘルツカイナ)の最高司令官との対局は始まった。

 

「おや、チェスは初めてかい? 余り得意では無いようだ」


 先行を譲られた私が指した一手は、強いものでは無かった。

 2マス動かせるものを様子見で1マスしか動かさなかったのだから、弱いのだろう。

 

「えぇ、賭け事に快楽を見出してはいませんので」

「そうかい、てっきり戦略を練る為に使っているのかと思ったよ」

「どんなに活躍するエースも現実では皆ポーンですので、それに人間が人間を飛び越える事など出来ませんよ」

「裏切りは含まないのかい?」


 ジョーカーは迷わず駒を動かしていった。


 判断能力が下がるというのに、ワインを煽りながらとても楽しそうに盤面を眺めている。

 

「どうやら現実の話がしたいようですね。ギャンブラーが何の真似事ですか」

「これでも一応、最高司令官なんだけどねぇ」

「私の耳にはカジノでの話ばかりが入って来ていたので、てっきりそちらが本職かと」

「虚勢張るねぇ」


 試合開始から暫く経ち、明らかな戦況が見えてきた頃、ジョーカーが口を開いた。


「キングだけでよく逃げているけれど……他の手を打つ気は無いのかい?」

「それは貴方もでしょう」


 私の残りの駒はキングだけになっていた。

 対してジョーカーの駒には繰り上がりのクイーンとキング。

 かと言ってジョーカー側も強気に攻めることは出来ない盤面だった。


 どちらかが諦めない限り、どちらもチェックメイトは出来ない。

 

「失礼いたします。……ショロン様、アメッサ様。パーペチュアル・チェックでいかがでしょうか。そろそろ広間に戻られませんか。他の参加者様が探されております」


 長い間、客室から出てこないのを危惧したマリガン総支配人が、その場を仕切り、試合は終わった。

 マリガン総支配人はそれだけ伝え早々に部屋から退出して言った。

 

「因みに、パーペチュアル・チェックというのは引き分けだ。機会があればまた手合わせしよう」

「お時間が合えば是非、」


「でも、それ(引き分け)じゃあワタシが気に食わない」


 ジョーカーは私の腕を引いたと思えば、額に小型の銃を押し付けた。

 

「いいだろ? 西国の新品だ」

 

「持ち運びに便利で、威力も申し分ない」


 続けて鼻先まで銃口を滑らせた。


「……確かに、いい武器だな」

「だろう? 1つキミにあげようか」


 更に、口元、顎へと滑らせる。

 不愉快だ。

 

「是非、ルミエール国軍宛で頼むよ」

「気が向いたらね」


 一度、ジョーカーは私の頭を銃の持ち手で殴り、引き止めていた手を離した。


「キミはもう少し祖国の事を思い出した方がいい」


 そう言い放ち、ジョーカーは部屋を後にした。


 念の為ソファに座り出血の確認をする。

 少し切っていたようでハンカチに血が付いていた。


「ふん、ゲームが気に食わなくて武力行使なんて、子供の駄々だろう」


 誰も居ない部屋で言い訳をし、口を付けていなかったワインを一口飲む。


「……思ったより飲みやすいな」

 

 それより、だ。

 ジョーカーのあの武器……。


「ん、まて……あいつ何、平然とハドワに武器持ち込んでいるんだ?」


 その後、交流会は無事に幕を閉じた。

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