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君たちの時代にいたい  作者: たかゆき宗也
4章 ティレーベル防衛戦
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第17話:取捨選択

 病室に入るとベットに寝かされている方達は軽傷とは言い難い患者さんばかりでした。


「これは……?」


 一人一人症状を見ようと、ベットに近づくと、患者さんの腕に緑色の紙が巻き付けてありました。

 

「あ、」


 この病院で命の取捨選択が行われている。

 反対なんて出来ません。

 今の私に出来ることは、包帯を変え周ること。

 

 薬はこの病室より酷い患者さんに使われているようで、薬品棚に用意はありませんでした。


 

 処置を行う間、薬をくれと叫ぶような方が居なくて良かったです。

 

 それ程の体力が患者さんに残っていないのは、悪いことかもしれませんが、唸り声の方が私にとっては怖くありませんでした。

 


「包帯も、これでこの病室の分は終わり……ですか」


 何も無い薬品棚は初めて見ました。

 マサ軍医に仕事の報告をしに行くべきでしょう。

 


「少しチクッとしますよ」


慌ただしく動く衛生兵を横目にマサ軍医を探す。

 教室(病室)から声が聞こえ入室すると、マサ軍医は赤い紙の患者さん達に注射を打って回っていました。


「マサ軍医お疲れ様です。注射変わります」

「アンジェ一等衛生兵、すみませんが、これは私の仕事です」


「分かりました。私は包帯変えていきますね」

「……必要ありませんよ」


 この病室の患者さんは私が先程までいた病室より重症の患者さん達ばかりで、処置が必要なのは明らかです。

 

「でも、かなり古い包帯ですが……」

「睡眠薬です」


 睡眠薬……?


 今日初めてマサ軍医の顔を見ました。

 

 マサ軍医は重症の患者さんに何故、睡眠薬を?

 でも、それじゃあ、この人達は……。


「もう二度と目を覚ますことはありません」

「そう……ですか、」


 悲しさとか、そういった感情は沸いて来ませんでした。

 ただ、ただ、手際よく注射を打つマサ軍医を眺めることしかできません。


「いつか……皆さんに任せなくてはならない日が来るかもしれません。今のうちに見学していきなさい」

「はい」

 

 何で、敵を殺せない軍医が、衛生兵が……味方を殺さなきゃいけないんですかね。


 仕方ないことだから。

 戦争だから。

 この方が患者さんが苦しくないから。


 そんな頑張って考えた正当性も、一人の患者さんを目の前にした時、全て弾け飛びました。

 

「マサ軍医待って、くださいっ……!」

「はい」

「この方はっ……この患者さんは、私が昔治療した、患者さん、です……!」

「そうでしたか」

 

 マサ軍医が注射を打とうとしていたのは、過去に手榴弾と罠で足を怪我していた患者さんでした。

 他愛もない話をした覚えがあります。


「この方、助からないんですか」

「すみません」


「この人は、だって…………」

「では、私の代わりに、終わらせてくれますか?」


 酷い提案でした。

 マサ軍医も精神的に参っているのか。

 それとも私の我儘に対する少しの意地悪か。

 助けるってそういう意味じゃなくて、もっと良いことのはずで……。

 

「冗談です。責任は放棄しませんよ」


 マサ軍医は手際よく患者さんに注射を刺していました。

 

 痛みを少しでも短く、それがこの人達の為かは分からないけれど。

 それか、私にマサ軍医くらいの知識と技術があれば……?


 いえ、マサ軍医にもどうにも出来ないから、こうしているんですよね。

 頭の中で、湧き上がった気持ちを捨てる。


「終わりました、かね」

「そうですね」


 全ての赤色タグの患者さんへの注射が終わりました。


「私はまだここでする事がありますが、アンジェさんはそろそろ軽傷の患者さんの治療をお願いします」

「分かりました」


 マサ軍医から新たな指示をもらい廊下に出る。

 

 病院の廊下には病室に入り切らない沢山の患者さんが座り込んだり、寝かされていました。

 私のような衛生兵から治療を受けており、軽傷の方々なのが見て取れます。


 治療が必要な患者さんを探しながら廊下を進む。

 その中に一際目立つピンク髪の長髪……。

 廊下に座っている患者さんの中に、リラさんがいました。

 

「リラさんっ!」


 急いでタグの色を確認する。

 色は、黄色。


「すぐに治療します……!」


 リラさんが所属している第13小隊は化学兵器の着弾を食らっていると報告を受けていました。


 呼吸は正常な範囲、細かな傷はありますが、皮膚障害も見当たりません。

 ですが、リラさんは撤退する際、川に飛び込んでいたようで、身体が酷く冷えていました。


「他にも沢山怪我してる人いるでしょ? その人達も診てあげて」

「……薬は無くなりました、清潔な包帯も、もう殆どありません」

「そっか、」

「それに、リラさんも低体温で放っておけません」

  

 私が今、多くの患者さんの中でリラさんを助けているのは、もしかしたら、悪いことなのでしょうか。


「お願いですから……助けさせてください、」


 一体何がこうさせているんだろう。

 戦場なら、私は見捨てただろう、実際そうだった。

 ソルジア上等兵の死も運で片付けた。

 

 でも、一度病院という施設に入った瞬間。

 私は、人を患者とみなしたら、やっぱり見捨てられなかった。


 息が上手く吸えない。

 感情の上がり下がりが抑えられなかった。

 

 シユならどうする?

 シユなら……。

 

 全てを助けられない時、目の前の知っている命を選んで、いいの?


 シユなら全部助ける為動く、でも、でも、本当に全部選べなくて、そんな時。


「ありがとう、アンジェ」

「あ…………いえ……」


 ありがとうで救われる程私は純粋じゃなくて。

 それで頑張れるほど単純じゃなくて。


「リラさんは、死なないで、下さい……」

「うん、任せて。アンジェのことも、この国も守るよ」


 私は、リラさんに言葉の呪いをかけた。


 それからリラさんの服を変え、毛布でリラさんを包んだ。


「第4中隊は化学兵器の影響、受けてない?」

「恐らく……受けてないです、今は皆さん第二防衛ラインを守っているのかと、」

「そっかそっか、それなら良かった」


「ラジオで聞きました。リラさん……第13小隊の方は、毒ガスを吸ってしまったと思うので、その、首都(プロス)の病院で一度診てもらって下さい」

「うん、分かった、この痺れじゃ刀も握れないし……明日には帰るよ」

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