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26:出会いは突然に

 じゃ、気は進まないけど、外の騒ぎに巻き込まれにいこうかな。と言ったのは嘘だ! なんてね、セバスチャンさんに案内してもらい裏口から隠密スキルを発動して出る。

 「行ってらっしゃいませ」

 隠密に驚く風もなく見送られる。うーん、ちょっとくやしい。


 宿の表に注目が集まっているほうが行動しやすいし、わざわざ衆目に顔を晒す愚かな事もしたくない。金髪碧眼などという間違った容姿の情報が主流となっているらしいし、一人で行動している分には私が今話題のお姫様と結びつける人もいないはず。幸いにしてこのブオトの町は人の出入りも激しく冒険者で溢れている。行きかう人種も王都より多様性があり獣人と呼ばれる人たちも少ないけど普通に街を歩いている。騒ぎから離れた場所で隠密を解いて歩いていてもチラチラとしか人に見られない。うーん、チラチラとは見られるんだよね、まあこれはいつもの事だから慣れてるけど黒髪黒目はそんなに珍しくないと思うんだけどな。

 あ、なぜ金髪碧眼の情報が先行したかというとどうやらお姫様という言葉が原因らしい、ローラン王家は皆金髪碧眼だから当然話題のお姫様も、と言う具合で尾ひれが付いたみたい。これは意外な誤算で丁度良いからセバスチャンさんにもっと広げておいて下さいとヤンさんに伝えてとお願いしておいた。


 冒険者ギルドに向かって大通りを歩いている。


 というかスキルの迷宮に向かってだけど、大通りは朝なのに活気に溢れている。考えてみると当然かもしれない。スキルの迷宮を主として成り立っているこの町の主な住人は冒険者とそれを客として商いをする商人達、他の、というか私は王都ローランしか知らないんだけど、冒険者が潜る迷宮は町の外に幾つか点在してそこに潜る冒険者は朝のうちからギルドが運用している乗合馬車に乗って出発していたり町中にある管理迷宮に挑戦している冒険者は迷宮近くの宿に泊まったりして朝から商店街に買出しに来たりはしない。だけどここブオトの町は朝から結構な数の冒険者が町に溢れている。

 簡単にいえば暇を持て余している冒険者が多いというのとお金に余裕があるという事なのだろう。まあ確かにスキルの迷宮に潜る冒険者のほとんどがそのほぼ九割の時間行列待ちで過ごし戦闘は一瞬。で、上手くいけばある程度の大金が手に入る。大金が入った冒険者はどうするのか? その答えがこの朝からの賑わいなのだろう...と思ったけど、違う気もする。


 「ねえクロ。もしかして迷宮が町中にしかないような町ってどこもこんな感じで一日中町じゅうが賑わっているのかな?」

 「さあ? それより肉!」

 えー、ひどい! けどクロも私と同じで王都しか知らないし、真剣に聞いても同じような感想しか返ってこないか。


 私とクロの中で現在ランキング一位のドランツさんの屋台へと向かう。

 「買い占め! カイシメ!」

 クロが買い占めの歌を歌っているけど、いくら気に入ったからって朝から屋台の商品を買い占めてしまったら他のお客さんに怨まれてしまう。

 (クロ君、そろそろ念話に切り替えようね。買い占めは他のお客さんに迷惑なのでしないけど、お土産用に多めに買っておこうか)

 (うむ! カーサとテレスにちょびっとだけあげるのだ!)

 (ちょびっとなのね、フジワラ君には?)

 (無し!)

 (クロはフジワラ君に厳しいよね)

 (うむ! 死んで好し!)

 (それ、厳しいを超えてるよね)

 (逆に優しい?)

 (いやあ、優しくないよね?)

 (どうでも好し!)


 ドランツさんの屋台に到着する。朝から食べるにはお肉は重たいと思うのだけどお昼や夜に負けないくらい賑わっている。あ、なんか朝限定の商品があるみたいだ、薄切りにしたお肉とレタスっぽい野菜をいっぱい挟んだバケットサンドみたいなのをお持ち帰りで買っている人が結構いる。

 (クロ君、朝限定メニューがあるみたいです)

 (うむ、我も興味津々!)

 (この前買ったサンドとは野菜の量が違うね、後なんかタレもタルタルソースみたいな特別製っぽいし)

 (うむ、我も興味津々!)

 私も興味津々になってきちゃった。


 店頭の列っぽくなっている人だかりの後ろにつき朝限定のバケットサンドをひとつ買う。

 (じゃあ、試食してみましょうか)

 (うむ! リン、ぎゅっとして!)

 (はーい)

 片方をタレが飛び出さないように包み紙ごとパンと具をぎゅっと圧縮してクロのくちに合う大きさにしてクロのほうに向け、私は圧縮してないパンのもう片方にかぶりつく。反対側を食べているクロが私をじーっと見ながらパンに噛り付く。なんでじーっと見るのさ?

 (むぐむぐむぐ、リン、タルタルじゃないのだ!)

 (はむはむ、そうだね、酸味が強いね。多分野菜に合わせてるんじゃないかな、朝限定っぽいしサッパリ感重視みたいな?)

 (むぐむぐむぐむぐ、タルタル脳で食べたので騙された感がすごいのだ!)

 (はむはむはむ、まあね、けど野菜のシャキシャキ感がいいよね)

 (うむ、薄切り肉もたくさん挟まっててグッドなのだ!)

 (もっと買っとく?)

 (うむ、買い占めの方向で!)

 (それは却下で)

 (なぬ!)


 予想するに、多分レタスっぽい野菜の量が限られている気がする。朝しか仕入れてないとかで無くなったら朝限定メニュー終了ですとかな気がする。

 「おはようございます」

 店内に入りドランツさんに挨拶する。

 「オウ! 嬢ちゃんまた買い占めに来たのかい?」

 なんか酷い言われようだ。

 「えー、買い占めなんてしてないじゃないですか」

 「ハハハッ! まあそうだな、で、なんだい?」

 「えーと、あれ、美味しかったです」

 店頭で売っている朝限定バケットサンドを指差し、にっこり愛想笑い。

 「…………オオウ! まさかホントに買い占めかい?」

 「え、チガイマスヨ? モンダイナイ程度に全部クダサイ」

 「嬢ちゃん...それ買い占めだから」

 「えー、問題ない程度って言ってるじゃないですかー」

 「全部とも言ってるじゃねーか、聞き逃さないぜ。まあいいや、ちょっと待ってな、こんな事もあろうかと多めに仕入れておいたんだ。その分を今から作ってやらあ」

 「あ、どーも」

 「ハハハッ! こういうのはたまにあるからな、こっちとしても稼げるチャンスは見逃さないさ」

 「はあ、以前にも買い占めした人とかいるんですね」

 「まあな!」

 常識の無い人もいるもんだね!



 カウンター席の端に座って調理をするドランツさんをぼーっと眺めていると、不意に懐かしい感覚が襲ってくる。

 (リン、これは)

 (はは、まさかね、)



 この感覚は鑑定。



 レアスキルの中でも特別な部類に入る鑑定スキル。そんな物を持っている冒険者がたまたま屋台に居たとは考えづらい。そうなると考えられる可能性でもっとも大きいのは...ま、そんなに広くない町だし近いうちとは思ってたけど。まさかいきなりとは、ちょっとビックリするよね。


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