約束は守った?
冒険者達の遺品を漁ることしばらくして、恵菜は自分の背丈に合うローブやブーツといった装備を見つける。
ユーリエから貰った物に比べれば質は劣るものの、元々はフェンリル討伐に来た冒険者の装備だ。雪山に来ることを想定した厚い生地を使っていることもあり、寒さは大分凌ぎやすくなるだろう。
地面に置かれていたことによる汚れを軽く叩いて落とし、問題無く着られそうなことを確認して、恵菜はそれらを身に纏った。
「――はぁ~、やっと落ち着ける」
ようやく安心できる姿になったことで恵菜がホッとする。
こんな所に誰かがいるとは思えないものの、万が一誰かに見られたら、という懸念が捨てきれなかったからだ。
何はともあれ、この姿であれば人前に出ても恥ずかしくはない。ついでに寒さ対策もできたため、フルンにくっつく必要も無くなった。
「これで服は何とかなったよ。ありがとう、フルン」
『我は何もしていないぞ。貴様の物を引き裂きはしたが』
「まあ、確かにそうなんだけど……あれ、感謝するのが間違ってる?」
よくよく考えれば、恵菜は自分の物を壊されて、それの代替品を与えられた、といった状況だ。
ならば、自分は許す側になるのではないか。
そう思う恵菜だったが、ある事に気付いて首をブンブンと横に振る。
「いや、それはそれとして、フルンは私をずっと守ってくれていたんでしょ? 魔力も分けてくれたらしいし、あなたに感謝こそすれ怒りはしないよ」
『そうか。それなら、しっかりと使命は果たしたと、大精霊様に報告しておいてくれ』
「うん、分かった。あれから何があったのかも聞きたいし、今から呼んでみる」
そう言って、恵菜はアクアボールを発動する。
「水華、聞こえ――」
『エナァアアアアア!』
「ぐえっ!?」
名前を呼んでから間髪入れず、正面に浮いていた水球から飛び出てきた水華。
そんなに素早く出てくるとは思っていなかった恵菜は、水華の飛び出しに全く反応できない。
その結果、水華の体当たりに近い飛びつきを、彼女自身のお腹で受け止めることとなった。
「痛たたた……」
『エナ! 生キテル!? 体治ッタ!? ドコモ問題無イ!?』
「う、うん……大丈夫だけど、いきなり飛び出てくるから驚いちゃった」
意図せずタックルされる形にはなったが、矢継ぎ早に調子を確認してくる様子を見るに、かなり心配していたのだろう。
水華は恵菜の体をあちこち見まわし、おかしな所が無いことを確認すると、安心したように恵菜に抱き着く。
『良カッタ……エナ、無事デ』
「心配させてごめんね。それと、私を助けてくれてありがとう」
恵菜が顔をすり寄せてくる水華の頭を撫でる。
今回、ドラゴンの子供を運んでもらう以外、恵菜は水華の力を借りるつもりはなかった。
しかし、あの場面で水華が来てくれなければ、恵菜は間違いなく命を落としていただろう。
今ここで生きて再会できたのは、水華がいてくれたおかげだ。
「ねえ、水華。フルンが私の事をずっとここで守ってくれていたんだけど、水華がそうお願いしてくれたんだよね?」
『ウン。フルン、アリガト』
『大精霊様のお役に立てて何よりです』
恵菜の時とは天と地ほどの差がある対応のフルン。
それを見た恵菜は思わず笑ってしまいそうになるが、場の雰囲気を読んで何とか堪えた。
「水華。私、気を失ってからここで目を覚ますまで、何があったのか分からないの。フルンからはここに来てからの事しか聞けなかったから、ここに来るまでに何があったか教えてくれない?」
本題に入ろうと、恵菜が水華に尋ねる。
水華は恵菜が倒れる最後の瞬間まで一緒にいた。それでここに恵菜を連れてくる時もいたということは、その間に何があったのかは知っているはずである。
『エナ、動カナクナッタカラ、起キルヨウニ眷属ニ頼ンダ』
「えっと……?」
水華の説明に首を傾げる恵菜。
説明できるということは、何があったのか水華は分かっている。
が、それを恵菜が理解できるように説明できるかどうかは別問題だ。
「眷属っていうのは、あのドラゴンの事だよね? ドラゴンが私に何かしてくれたの?」
『ウン。確カ……』
『その説明、私の方から致しましょう』
一つ一つ尋ねながら真実を紐解こうとした時、別の声が辺りに響いた。
さらに、ズシンズシンと地響きのような音が徐々に聞こえてくる。
『ア、眷属来タミタイ』
「え、ドラゴンが?」
『その様だ。やれやれ、無理にこんな所へ入って来ずとも良いものを……』
フルンが呆れながら入口の方を見やる。
しばらくして、暗闇の中からドラゴンが姿を現した。
『目を覚ましたか、人間』
「ええ、たぶん、あなたのおかげでね。何をしたかは分からないけど」
『それを説明しに来てやったのだ、有難く思え』
「それは有難いんだけど、私が死にかけたのはあなたとの約束を守ろうとしたからでもあるんだけどね」
上から目線のドラゴンにそう言い返す恵菜。
が、それを聞いたドラゴンは少し不機嫌そうな声を発する。
『……そうだ、先にその事で聞きたいことがある』
「聞きたいこと?」
何かドラゴンが気にするようなことはあっただろうか。
そう考える恵菜だったが、ドラゴンの背で何かが動くのが見えて、視線をそっちに送る。
「キュイ!」
それはドラゴンの子だった。
ドラゴンの子は恵菜を見つけると、嬉しそうな声を上げて恵菜に向かって飛んでくる。
「キュイー!」
「うわっ、どうしたの!?」
自分の胸に飛び込んできたドラゴンの子を受け止めながら、恵菜は困惑する。
自分の本当の親の元へと帰れたのだから、そちらにベッタリになるはずだと思っていたからだ。
『卵ではなかったが、無事に子が戻ってきたのならそれで良い。が……何故、その子は貴様にそこまで懐いているのだ?』
「え? 分からないけど、卵から孵って初めて会ったのが私だから?」
『ほう、貴様が見つけた時にはまだ卵だったということだな。が、初めて見た相手に懐くような習性は我らには無い。あるのは、卵に魔力を注ぎ与えた者を親と見なす習性だ』
「あ……」
そう言われて、恵菜は自分のやった事を思い出した。
『何か言いたそうだな?』
目を逸らそうとした恵菜に向けて、ドラゴンが顔をズイッと近づける。
「え、えっと……卵が放置され続けていると危ないかと思って、私の魔力をたくさん上げました……」
恵菜はどう言い訳をしようか考えるも、ドラゴンの圧に負けて、正直に何があったか答えた。
『やはりか! 貴様の注いだ魔力が僅かに我が注いでいた魔力より多いせいで、この子は我を第二の親だと思っているではないか! 我から子を奪い取りたいのか貴様っ!』
「いや、そんなつもりは無いよ! 完全に不可抗力だって!」
『それで納得ができるか! これだから人間は信用ならんのだ!』
「ちょ、ちょっと、無事に返せたら信じるって言ったよね!?」
『これが無事だと言えるか貴様!』
ギャーギャーと言い争いあう二人。
それを見かねたフルンが仲裁しようと口を開く。
『おい、シャルテ。説明のために来たと言っておきながら、文句を言いに来ただけか?』
『お前は関係無かろう! 犬風情が邪魔をするでないわ!』
『……何だと? 我の住処に乗り込んでおきながら、随分な物言いだな、トカゲ』
「フルンは黙ってて! このシャルテ?とかいうドラゴンには私がガツンと言ってやりたいの!」
『貴様ら、ここは我の住処だと言っているだろうが!』
何故か第三者が乱入し、口論が悪化した。
そこからは三者三様の悪口合戦が始まり、当初の目的はどこへやら、といった状態になってしまった。
結局、最後には水華が仲裁に入り、全員が頭を下げることで事態が収束したのだった。
やっぱり水華が一番強い。




