本業者
魔法を解除して、二人を足つぼマッサージから解放する。まだ足が痛むのか、二人はその場で崩れ落ちた。
「あ、兄貴……失敗したっすね……」
「くそぅ……。女一人だったから、初めての盗賊でも成功すると思ったのによ……」
「え? あなた達、今までずっと盗賊してたんじゃないんですか?」
「今回が初だ。今までは冒険者をやってたんだが、ついこの間、資格を一時はく奪されちまったんだよ」
まさかの同業者だった。一時ってことは、しばらくすれば冒険者に戻るってことだよね。
というか、初めての盗賊対象が私って、私どれだけ運がないの……。
「はく奪って、一体何をしたんですか」
「あ? 大したことじゃねえよ。ギルドの受付嬢ナイスバディな女だったから、つい何度も言い寄っちまっただけだ」
「具体的に言うとナンパっす。十七回目で警告を受けて、二十回目で相手の尻を触って、その場で一時はく奪を言い渡されたっす。俺も兄貴と一緒にいたせいで共犯扱いされたっす」
うわ、最低。これが本当なら子分の人が可哀そう。どう聞いてもとばっちりだ。
「兄貴が変なことしてなければ、今も冒険者やれてたんすけど」
「馬鹿野郎、悪いのは俺じゃねえ。あの女の体がセクシー過ぎたのが悪いんだ」
「いや、どう考えてもあなたが悪いです。……で、盗賊行為をしようとしたのは?」
「金が無くなってどうしようもなかったんだよ。収入も貯金も無いってのに、どう生活しろってんだ」
「貯金が無いのは、兄貴が女遊びに使い過ぎたからっすけどね」
「う、うっせえよ!」
最低過ぎる。なんで未だに二人で行動しているのか分からない。
「……まあ、盗賊に至った経緯は分かりました」
「お、分かってくれたか。やっぱり、あの女が悪いよな」
「あ・な・た・が・わ・る・い・で・す!」
今までに盗賊行為はしてないっぽいし、今回のはどっちも怪我をしてないから見逃そうかとも思った。でも、子分はいいとして、こっちは一度牢屋に入って頭を冷やしたほうがいいんじゃないかな。だけど、出てきたらお金も仕事もないから、また盗賊行為をしそうだし……。
「とりあえず、一度街まで連行ってことで。未遂でも犯罪ですし、罪は償うのが当然っ!?」
突然感じた殺気。慌てて身を伏せると、一本のナイフが真上を通過していって、反対にある木に刺さった。
刃を見ると緑色の液体で濡れていた。何か毒が塗ってあるに違いない。
「……あなた達、まだ仲間がいたんですか」
「い、いや、いねえ! 俺らだけのはずだ!」
焦りっぷりからして、本当に仲間はいないみたい。ナイフが飛んできた方角をジッと見ていると、草むらからガサガサと一人の男が出てきた。こちらもご丁寧に、口元をスカーフで覆っている。どうみても盗賊だ。こっちの二人に気を取られ過ぎて気配に気づくのが遅れた。
「よく躱したな。完全に不意を突いたつもりだったんだが」
「こう見えて気配には敏感なんですよ。そっちにいる人達も仲間ですか?」
ただ、今は分かる。目の前に見えているのは一人だけど、その近くにはいくつもの気配がある。
「気づいていたか。口先だけではなさそうだな」
私の指摘に少し驚いた後、男が指をパチッと鳴らす。すると、道の左右からゾロゾロと人が出てきた。最初の男を含めて、数は十一。
「見た感じ、あなた達も盗賊ですよね。まさか、私が初めての獲物だったりします?」
「何を馬鹿なことを。お前が何人目かなど覚えていない」
なるほど。常習犯ですか。私が初だったら、もう自分の運のなさを呪いたくなったところだった。
って、あれ? 一日に二回盗賊から襲われてる時点で、もう運がないんじゃ……。
「お、おい、あんたら! 俺らと同じ盗賊だろ!? 同族のよしみで助けてくれよ!」
ちょ、同族って……あなた冒険者じゃなかったんですか。同族なのはむしろ私の方なんですけど。
――ヒュンッ!
「ひぃっ!?」
足元に勢いよく飛んできたナイフを見て、盗賊の兄貴と子分が後ろへ後ずさる。
「同族のよしみ? 笑わせるな。以前より我らが縄張りとしているここに無断で立ち入り、獲物を横取りしようとする同業者など敵でしかない。女は利用価値があるからしばらくは生かしておくが、お前たちみたいな邪魔者は今ここで始末する」
完全に敵視されてる。仲間意識はないみたいだ。
「ず、ずるいっすよ! こっちは三人しかいないってのに、そっちは十人以上いるじゃないっすか!」
「そ、そうだ! リンチなんて狡い真似しやがって! 男なら正々堂々戦え!」
自分たちも一対二で襲おうとしていたっていうことを忘れたんだろうか。あと、勝手に私をカウントに含めるのはやめてほしい。それと私の後ろに隠れるのもやめてほしい。これだと私が真っ先に狙われ――。
「何とでも言え。おい、まずは女からだ。少し腕に実力があるようだが、接近すればこっちのもの。少し痛めつけるぐらいならいいが、殺すなよ。まとまらずに散らばって動け」
あ、やっぱり狙われてた。
「ひいいい! た、助け――」
「邪魔だから離れててください!」
どう考えても戦闘は回避できない。動きの邪魔になるから、未だに後ろで隠れている二人を突き飛ばして下がらせる。なんか「ぐぇっ」とか聞こえたけど、とりあえず今は無視。
「女。まさか一人で戦う気か」
「そうですよ。その方が他の人の事を気にしなくていいですし」
「舐められたものだな。その判断、後悔させてやる。――いくぞ!」
何故か怒ったリーダーの合図で、盗賊達が一斉に襲い掛かってきた。でも、別に私は舐めてなんかいない。ただ、本当に邪魔になるから一人になっただけだ。
さっきの指示を聞く限りだと、この盗賊集団は魔術師と戦うのに慣れている。ついでに私のさっきの魔法も見られていたみたいだ。全員が止まらずに動いているのも、さっきのシャドウバインドを警戒しての動きかな。
ただ、いくらばらけて動いたとしても、魔法の効果範囲外にいないと意味がない。
『グラビティ』
目の前に見えている盗賊全員を収められるように魔法の範囲を指定。そのまま一気に発動する。
「何だ、これは……」
「お、重いっ……!」
「動けねえ……」
横に大きく広がっていた盗賊全員が地面に突っ伏してもがいている。一斉に動いたのが仇となった感じだ。躱せないように大きめの範囲を指定していたんだけど、もう少し小さくして良かったかもしれない。
「さて、全員動けなくなったところで、後ろの二人みたいに捕まえちゃいますね」
「な、何で、動け!?」
「私がかけた魔法ですよ? 自分の魔法にひっかかるわけないじゃないですか」
まあ、実際は私のところだけもう一つのグラビティで相殺してるだけだったりする。飛行魔法の応用だ。動きに合わせてグラビティの範囲を動かせば、こんな感じで周りを動けなくしつつ、私だけ動けるようにできる。
とりあえず、倒れている全員をお縄にする。ついでに武器を没収することも忘れない。後で背後から不意打ちされたくないしね。
「くそっ……解き、やがれ」
「後で痛い目を見ても知らねえぞ……!」
「盗賊って捕まったら強がりを言う習性でもあるんですか」
もしかしたら見逃してもらえるかもしれないとでも思ってるのかな。残念だけど、あなた達は常習犯って自白したから、見逃す気は微塵もないです。放っておいたら他の人がまた襲われるだろうし。
「さて、どうやって連行しようかな」
このまま大人しく連行されてくれれば楽なんだけど、この人達、絶対大人しく従わないよね。縄を引っ張って連れていくにしても、もし全員が一斉に同じ方向へ逃げようとしたら一人じゃ引っ張りきれない。かといって全員気絶させると、それこそ全員を引きずって運ぶしかなくなる。収納袋にも入れて運ぶのも無理となると、やっぱりあれしかないかなー。
「はい、皆さん注目ー」
全員から見える位置まで移動してから、手を叩いて興味をひく。グラビティで動くことはできないだろうけど、顔を向けるぐらいはできるはずだ。
「な、何をする気だ……?」
「まさか、俺らを殺す気じゃ」
「い、嫌だ……死にたくねえ」
私、どういう存在に見られてるんだろう。全員が死神でも見ているかのような表情だ。いや、私は全く殺す気はないです。
『マインドコントロール』
とりあえず、私の意図通りに全員がこっちを向いてくれたので、準備していた魔法を発動する。そうしてしばらくすると、私の目を見ていた全員が、虚ろな眼差しになってきた。
マインドコントロールは、闇属性の上位魔法で、相手の意識を奪って術者の言うことを聞かせる、言わば洗脳魔法の一つだ。ただ、便利な魔法に思えるけど、相手の目をしばらく見ないとかけられないっていう欠点がある。戦闘中に使えるものじゃないから、習得してから使ったことがなくてお蔵入りしていた。でも、こういう時には便利な魔法かもしれないね。
「じゃあ、このまま私と一緒に街へ行きますよ。分かったら、「はーい」って返事してください」
「「「「「はーい」」」」」
元気良く……とはいかないけど、無事全員から返事が返ってくる。良かった、魔法は上手くいったみたい。
「な、何だこりゃ、こいつら気持ち悪いぐらい素直になってやがる……」
「こ、怖いっすね、兄貴……」
ん?
「あ、そういえば、あなた達もいましたね」
「忘れてんのかよ!」
「ひどいっす!」
抗議してくる兄貴と子分の二人組。この人達も連れていかないといけないんだった。
「あなた達はどうしますか? 大人しく連行されるならそのままでいいですけど、抵抗するんならこの人達みたいに、気づいたら牢屋の中って状態にしますよ」
どさくさに紛れて逃げなかったことに免じて、どうされるのがいいか選択肢をプレゼント。まあ、悪い事をしたんだから連行するのは変わらないけど。
「お、大人しくします……」
「お、俺もっす……」
うんうん、素直でよろしい。
運もお金もない。




