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庭には三羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第2章 片瀬邸

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6/7

2026年9月25日 『初滞在』①


本日6話目です。

 

 片瀬邸を相続してから約1週間後。

 残暑が肌にまとわりつくような、天気の良い朝。


 優真は、鷺ヶ首に向かう電車に乗っていた。

 行先は、片瀬邸だ。


 本来なら、大学の図書館で卒論を進めているはずだったが、

 空調工事のため11月末まで休館が決まってしまったのだ。


 家で卒論を書こうとしてみたものの、

 隣の生活音が気になって、どうも集中できない。


 というわけで、どうせ片付けに行く予定だったし、

 片瀬邸で作業をしよう、と思った次第だ。



(静かだしな、あそこ)



 やがて電車は海沿いへ出た。

 青空の下、海が見える。





 ――鷺ヶ首駅に到着すると、優真は電車を降りた。

 改札を抜けると、駅前のスーパーで飲み物と軽食を買い、袋を提げたまま坂道を上る。


 片瀬邸の前に到着し、優真は改めて家を取り囲む塀を見上げた。



(相変わらず高いな)



 2メートルを超える塀は、数字以上の迫力がある。


 優真は鍵を取り出すと、門を開けた。

 玄関へ進み、扉を開けた。



「……お邪魔します」



 小さく呟いて中へ入ると、玄関横にあるパネルからセキュリティを解除した。

 締め切られていたせいで、家の中は淀んだ空気が漂っている。



(とりあえず、窓開けるか)



 優真はスリッパを履くと、リビングへ向かった。

 カーテンと窓を開けると、爽やかな潮風が一気に流れ込んでくる。


 優真は窓枠に手をかけて身を乗り出すと、前方に見える海をながめた。

 青空の下、水面がキラキラときらめいている。



「めちゃくちゃいい眺めだな」



 都内では味わうことのできない解放感がある。


 しばらく海をながめた後、優真は掃除に取り掛かった。


 1階にある納戸を開けると、そこには掃除用具がきちんと並べられていた。

 置いてある掃除機も、優真の家の安いスティック掃除機とは比にならないほど高そうだ。



(金持ちって、掃除用具のグレードまで高いんだな)



 感心しながら、優真は100円均一では絶対売っていなさそうなハタキを取り出した。

 1階をパタパタとはたいて回る。


 ちなみに、1階は30畳はありそうなリビングダイニングがメインで、

 他に、ゲストルームと思われるベッドのある部屋と、トイレや立派なお風呂などがある。



 挿絵(By みてみん)

 

 

 とりあえず、ざっと1階の掃除を終わらせると、

 優真は満足げにリビングを見回した。



「いい感じにきれいになったな」



 そして、ふと壁を見上げると、和美おばさんが子どもを抱いている絵が目に入った。

 明るい所で見ると、まるで生きているように見える。



(いい絵だとは思うんだけど……ちょっとリアル過ぎるんだよな……)



 何となく目がいくし、ずっと見られているような気がして落ち着かない。



(……申し訳ないけど、外させてもらうか)



 優真は椅子に上って慎重に絵を外した。

 少し考えた後、2階にある和美おばさんの部屋に置くことにする。



(おばさんのための絵だもんな)



 優真は絵を抱えて廊下に出た。

 2階への階段に通じる扉を開く。



 ギィィ


 扉が音を立てて開いた。

 古い油の匂いを帯びた淀んだ空気が漂ってくる。


 優真は電気をつけると、2階に上がった。

 どことなく重い空気に満ちた薄暗い廊下には、左右6つのドアが並んでいる。



(確か……おばさんの部屋で炬燵に入ってミカンもらったっけ)



 ぼんやりとした記憶を頼りに、端のドアを開けると、

 淡いピンク色が基調の、どことなく可愛らしい部屋が広がっていた。


 カーテンが閉まっていて薄暗く、誰かが暮らしていたような匂いがする。



(風、通しとくか)



 優真は絵を降ろすと、カーテンと窓を開けた。

 潮風が入ってきて、遠くに海が煌めいているのが見える。



(やっぱ2階はながめがいいな)



 しばらく海をながめたあと、優真は慎重に絵を壁に立て掛けた。

 埃をかぶらないようにと、何か被せるものがないか周囲を見回す。

 そして――



「……ん?」



 本棚の横に、デパートの袋が複数置かれているのが目に入った。

 一番端の袋が倒れ、中身がこぼれている。


 元に戻そうと近づいて、優真は首をかしげた。



「……これって、子どもの靴下……だよな?」



 こぼれていたのは、毛糸で編まれた小さな靴下たちだった。

 袋の中を見ると、色や形がマチマチの小さな靴下がいっぱい詰まっている。



「なんだこれ……?」



 優真は眉をひそめた。


 袋の底にある編み棒を見て、おばさんが編んだのだろうと思うが、やけに数が多い。

 他の袋をのぞくと、それは毛糸で編んだ小さなミトンや帽子で、かなり古そうなものも混ざっている。



「もしかして、こういう仕事をしてた……? それとも、ボランティアとか……?」



 とりあえず、優真は靴下を袋の中に戻し始めた。

 ふと見ると、袋の端に写真が入っている。


 取り出すと、それは2枚の子どもの写真だった。

 1枚が体操着に赤白帽子姿の男の子で、ランドセルを背負ってピースしている。

 もう1枚は、赤縁の乱視用メガネをかけたおさげの女の子で、砂場にしゃがんで遊んでいる。



(この女の子、アニメのキャラクターっぽいな)



 女の子の写真の裏には、『火・金、5時までピアノ』と書かれていた。



「……もしかすると、頼まれて作っていたのかもしれないな」



 優真は袋を倒れないように丁寧に置くと、ベッドの上に置いてあった薄いタオルを絵に掛けた。

 窓とカーテンを閉めると、部屋を出る。


 そして、階段を降りようとして、ふと2階を見回した。



(ここの掃除、どうするかな……)



 2階は、和美おばさんと洋一おじさんの私物が多く、

 手をつけにくい感じもある。



「……2階は、とりあえず保留でいいか」



 そうつぶやくと、優真は1階に下りた。

 2階に通じる階段の扉を、パタン、と閉める。






(つづく)





本日はここで終わりです。

お読みいただきありがとうございました。


明日より1日1話となります。


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