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庭には三羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第1章 序章:遺産

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2026年9月10日 『鷺ヶ首、片瀬邸』④


本日5話目です。

 

 その時。優真のポケットでスマホが震えた。

 出ると、三浦さんからだった。



「はい、もしもし」

「雨宮さん、大丈夫ですか?」



 どうやら30分経っても出てこないので、心配して電話を掛けてきたらしい。


 優真は思わず目を見開いた。



(え! そんなに経っていたのか!)



 慌てて玄関に向かいながら、「今すぐに出ます」と伝える。


 そして家の鍵を閉めて門を出ると、そこには心配そうな三浦と、興味津々といった顔の逢坂と小林が立っていた。

 優真は門を閉めると、3人に頭を下げた。



「すみません、そんなに時間が経っているとは思わなくて」



 そして、小林と逢坂の方を向くと、きっぱりと言った。



「申し訳ありませんが、この家を売るつもりはありません」



 逢坂と小林の顔が強張った。

 何か言おうと口を開くが、三浦がその前に立ちはだかる。



「相続人がこう言われておりますので、お引き取り下さい」

「し、しかし……」

「申し訳ありませんが、これ以上はご遠慮ください」

「……」



 小林が伺うように逢坂を見た。

 逢坂が諦めたようにため息をつく。



「……わかりました。まあ、何となくそうなると思っていました。この家は吸引力が強いので」

「いいんですか?」



 小林の問いに、逢坂が諦めたようにうなずいた。



「ええ、もう無理だと思います」



 そして、優しげな目で優真を見た。



「なにかあったら是非お知らせください。力になりますから」



 優真は無言で頭を下げた。



(こいつ、俺を怖がらせて家を買うつもりだ)



 意味ありげな言動に、非常に不愉快な気持ちになる。





 ――そして、2人が残念そうに立ち去った後、三浦が口を開いた。



「では、改めて家の中をご案内しようと思いますが、よろしいでしょうか」

「はい、お願いします」



 優真は三浦と家の中に入った。

 三浦がパチンと電気をつけるのを見て、「電気ついたんだ……」と優真が内心苦笑いする。


 電気がついた家は、先ほどの薄気味悪さがなくなっていた。


 三浦がテキパキと家を案内する。

 水回りや家電など、埃が積もってはいるものの、掃除すれば普通に使えそうな雰囲気だ。



「ずいぶん綺麗ですね」

「入院される前まで、週何度か家事代行の方が来ていたようです」



 なるほど、と優真はうなずいた。

 道理で片付いているはずだ。




 *




 ――そして、夕方の気配が強くなったころ。


 説明を終えた三浦が、思い出したように鞄から封筒を取り出した。

 中から黒革の手帳を出して、優真に差し出す。



「これは、片瀬様の入院先から引き上げた私物です」



 それは、小ぶりながら高級そうな手帳で、使い込まれている。


 優真は考え込んだ。

 中を見れば、遺産を優真にゆずった理由が分かるかもしれないと思いつつも、

 見たら申し訳ない気もする。



「……俺、洋一さんの部屋に置いてくるんで、ちょっと待っていてください」

「わかりました。二階の海側真ん中の部屋です」



 優真は手帳を持ってリビングを出た。

 足早に階段を上がり始める。

 そして――



「あっ!」



 手帳に挟まっていた何かが、ぱらりと階段に落ちた。


 優真が屈んでそれを拾う。

 そして、元に戻そうと手帳を開いて、彼はヨロヨロとした字で書かれた奇妙な記載を見つけた。


 ―――――――――――

 4月3日


 ニワトリが廊下を歩いていた。


 ―――――――――――



 優真は目をぱちくりさせた。



(ニワトリ……廊下……?)



 前後のページを見ると、日付と共に病院食やお見舞いに来た人のことが

 2,3行のメモのように書かれていた。



(これって、たぶん日記だよな)



 優真は顎に指を当てて思案に暮れた。

 つまり、これは病院の廊下をニワトリが歩いていたということだろうか。



(病院にニワトリがいるってありえるのか……?)



 一時帰宅をしていたにしても、ニワトリが廊下を歩くというのは妙だ。


 一通り考えてみて、優真はつぶやいた。



「……まあ、夢か、見間違いってところだろうな」



 彼は適当な場所に挟むと手帳を閉じた。

 階段を上がり、洋一の部屋のドアを開ける。


 黒が基調の部屋は片付いており、カーテンが閉まっていた。

 空気は他の部屋と同じく淀んでおり、埃っぽい匂いがする。



「……失礼します」



 優真は廊下の灯りを背に、そっと部屋に入った。

 机に歩み寄り、ふと辞典のような冊子が置いてあることに気が付く。



『10年日記』



 洋一おじさんはどうやら日記を書く習慣があったらしい。



(10年ってすごいな、俺、たぶん3日以上日記続けたことないよな)



 感心しながら、優真は手帳をその日記帳の上に置いた。

 部屋を出て扉を閉めると、リビングに戻る。


 その後、三浦と一緒に家の戸締りを確認すると、セキュリティを起動。

 夕焼け空の下、都内に向かう電車に乗って帰っていった。





 ――そして翌々週、9月19日。

 優真は父親に福岡から出てきてもらって、相続手続きを終えた。







本日もう1話投稿します。

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