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庭には三羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第1章 序章:遺産

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3/8

2026年9月10日 『鷺ヶ首、片瀬邸』②


本日3話目です。

 

 優真が顔を上げると、そこには少し奇妙な感じのする2人が立っていた。


 1人はポロシャツにジャケットを羽織った、小柄な中年男性。

 もう1人は優しげな雰囲気の中年男性で、黒いスーツを着てマスクをしている。



(え、もう来たの?)



 優真が驚いて時計を見上げると、時刻は14:00。

 約束よりも30分も早い到着だ。


 小柄な中年男性は、奥の席に座る三浦を見ると、笑顔で近づいてきた。



「こんにちは、三浦さん。今日も暑いですねえ。――あ、そちらが雨宮様ですか? どうもはじめまして、私、小林不動産の小林と申します。遠い所からわざわざご苦労様ですなあ」



 中年男性が、ニコニコと強引にしゃべりながら、優真に名刺を差し出す。

 圧倒されて受け取ると、そこには東京都の住所が書いてあった。



(……この人たち、わざわざ東京から来たってことだよな)



 今更ながら、なぜ東京の不動産屋が? という疑問が浮かぶ。


 ぺらぺらとしゃべる小林を、三浦が事務的に制した。



「小林さん、そちらの方を紹介して頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、そうでしたな」



 小林に促され、黒スーツの男性が、優真に名刺を差し出すと、優しそうな声で言った。



「……はじめまして。私こういう者です」



 名刺はシンプルな白で、ノーマルな明朝体で印字がしてあった。


 ―――――――――――

 超常現象研究所 

 代表 逢坂(おうさか)しぐれ

 連絡先:090-****-*****

 ―――――――――――



 優真は思わず眉間にしわを寄せた。



(……なんだ、この、超常現象研究所って)



 一見優しそうな普通の人が、こんな怪しい名刺を持っていることに、薄気味悪さを感じる。


 驚く優真の横で、三浦がやや顔を引きつらせた。



「逢坂さんが今日いらした理由をお伺いしてもよろしいですか?」

「いやあね、こちらの逢坂さんが片瀬邸をぜひ購入したいから仲介してくれないかと言われておりましたねえ。今日持ち主さんと話をすると言ったら、ぜひ熱意を伝えたいから来たいとおっしゃいまして」



 ニコニコしながら話す小林を、優真は驚きの目で見た。

 買いたい人が、まさかこんな怪しい人だったとは!


 小林が笑顔で優真を見た。



「せっかくここまで来たのですから、とりあえず話だけでも聞いてもらえませんか」



 丁寧だが押しの強い感じに、優真は思わずうなずいた。

 席に座ると、逢坂が優しい声でしゃべりだす。



「私は超常現象の研究をしておりまして、仕事の一環としてそういった家を研究用に購入しています」



 逢坂によると、片瀬邸はネット掲示板で話題の超常現象スポットらしい。



「先日外から拝見いたしまして、大変失礼ながら、とても感動しました。これは素晴らしい物件である、と」



 優真は困惑の目で逢坂を見つめた。

 意味が分からず、「調べてもいいですか」と断って、スマホを取り出す。

 そして、教えられた掲示板を見ると、そこには片瀬邸らしき書き込みがあった。



 ――――――――――――――――――――

【悲報】鷺ヶ首の“あの家”、ガチでヤバいって噂が出始める【地元民おる?】

 神奈川県鷺ヶ首の高台にある古い洋館について、

 以下、掲示板の反応まとめ。


 ■ 家の中が「子どもの絵だらけ」って話

 15:名無し

 マジで壁一面に貼ってあったらしい


 19:名無し

 配達員が見たって聞いた

 しかも家に子どもはいないらしい



 ■ 夜に“窓に影”が立ってるという報告

 49:名無し

 深夜に通ったら2階の窓に人影あった

 動かんかった マジで怖かった


 52:名無し

 あそこ夜通ると視線感じるのガチ

 犬が吠える


 ……

 

 ―――――――――――――――――――



 優真は呆気にとられた。



(なんだこれ……?)



 まさかの内容に、とっさに声が出ない。


 そんな優真の様子など意にも介さず、逢坂がしゃべり続けた。

 彼は本気で片瀬邸を手に入れたいと思っているらしい。


 三浦が、購入後の用途を聞くと、

 きちんと保全して超常現象の研究所として有料公開したい、という答えが返ってきた。


 家の中も手を付けない状態で譲って欲しいようで、中身も含めてお金をきっちり払うつもりらしい。


 優真は顔を強張らせた。

 洋一のことはよく覚えていない。

 でも、故人の思い出の家に対して、この扱いはさすがにひどすぎる。



(ダメだろ、こんなの。こんな奴に売りたくない)



 そう思って、断ろうと口を開きかける優真を見て、小林が笑顔で話し始めた。

 この地域の空き家はほとんど売れないことや、10年経っても買い手がつかない家もざらにあることを話す。



「学生さんでいらっしゃるのでしょう? 家の管理って結構大変ですよ。古い家だと修繕やらなんやら大変ですしねえ」

「……」

「逢坂さんは、家を取り壊したりせずにそのままきちんと管理・保全したいとのご意向です。決して悪い話ではないと思いますよ」



 そう言われると、優真の中には迷いが生じた。

 売れなかったらどうなるのだろう、自分で管理できるのだろうか、など不安な気持ちになる。


 黙り込む優真を見て、三浦が提案した。



「とりあえず、家に行ってみませんか? 実物を見ないと雨宮さんも判断できませんよね」

「え、ええ、そうですね」



 優真がうなずく。


 それを見て、逢坂が嬉しそうな顔をした。





 


本日はあと3話投稿します。

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