2027年3月21日 『庭には■羽、ニワトリがいる。』
優真が顔を上げると、窓の向こうに真っ暗な庭が見えた。
わずかに開いた窓から、風の音と共に沈丁花の香りが漂ってくる。
優真が掠れた声でつぶやいた。
「おじさんは……一体何を埋めたんだ……?」
彼はヨロヨロと立ち上がった。
頭がガンガンし始めた。
これ以上関わってはいけない、と本能が告げてくる。
「……警察を呼ぼう」
優真はスマホを取り上げた。
警察に電話しようする。しかし――
ガガガガ……
スマホから聞こえてくるのは、イヤホンと同じく、壊れたような音。
音はどんどん大きくなり、電源を切っても鳴り続ける。
優真は顔を歪めてスマホを床に投げつけた。
おぼつかない足元で玄関に向かう。
暗い中で光るセキュリティパネルの「緊急」ボタンを何度も押す。
しかし
ガガガガ……
壊れた音が玄関を鳴り響いた。
焦って様々なボタンを押すが、音が止むどころかどんどん大きくなっていく。
優真は耳に手を当てた。
玄関から逃げるように走るが、玄関とリビングに響く故障音が、廊下の奥まで鳴り響いてくる。
「なんだこれ!」
優真は夢中で、庭に通じるドアを開けると、つんのめるように庭に出た。
バタン
背後でドアが閉まる。
庭は嘘のように静まり返っていた。
肌をはりつくような空気の中、沈丁花の粘り気のある甘い香りがむせ返るほど強く漂っている。
「……うっ」
優真は思わず口元を押さえながらえずいた。
あまりの強い香りに、胃の底から何かがこみあげてきそうになる。
何とかか耐えて顔を上げると、塀際に植えられた庭木が目に入った。
全てが甘く強い香りを放つ木であることに今更気が付く。
そして、優真はふと背後から気配を感じた。
振り向くと、月の光の下に“なにか”が佇んでいるのが見える。
目が合い――暗転。
むせ返るような強い沈丁花の香りが、静かな庭に漂っていた。
*
翌日、11:30。
買い物袋を提げた美咲が、片瀬邸の門の前に立っていた。
インターフォンを推す。
ピンポーン
家の中から明るい音が響いてきた。
すぐに静かになる。
美咲はもう一度インターフォンを鳴らした。
屋敷はシンとしており、人のいる気配がない。
しばらくして、美咲は踵を返した。
スマホをいじりながら、元来た道を戻り始める。
周囲が静寂に包まれる。
風にのって沈丁花の甘い香りが漂っている。
静まり返った屋敷の中から、まるで巨大な骨がきしむような、重い家鳴りの音が響いてきた。
END
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