表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庭には3羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第3章 反転

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/24

2027年3月21日 『日記』

 

 全てのドアを閉めると、肩で息をしながら、リビングのテーブルの上に日記帳を置いた。

 波打つ胸に手を当てながら、椅子に座る。


 そして大きく息を吐くと、思い切って日記帳の最初のページを開いた。


 やや黄ばんだ紙の上には、癖のある文字が並んでいた。



 ――――――――

 ■2014年1月1日

 新年を迎え、日記を始めることにする。



 ■2014年1月2日

 恒例の新年会だった。

 和美がだいぶ参ったようだ。



 ■2014年1月3日

 鷺ヶ首神社で願掛けをした。

 今年も健やかであれ。



 ――――――――



 数行読んで、優真は安堵の息を漏らした。



「……普通だ」



 和美の不妊治療の記録のような生々しいものを想像していたのだが、

 淡々としており、本当に普通の日記だ。



「たぶん、三行日記とかそういう感じっぽいな」



 日付はところどころ飛んでおり、

 几帳面に毎日書いていたというよりは、気が向いた時に書いていたような感じだ。


 内容は、主に和美や絵のことで、日々の様子が淡々と綴られている。



「……とりあえず、俺が引っ越してきたあたりを読むか」



 優真はパラパラとページをめくった。

 自分が鷺ヶ首に住んでいた2016年を探し出す。



 ――――――――

 ■2016年5月5日

 町内会で子どもの日イベントがあったらしい。

 和美が暗い顔をしている。



 ■2016年5月8日

 横浜に画材を買いに行った。

 帰りにトンカツを食べる。



 ――――――――



 2016年に入っても、こんな感じで特に変化はない。



「俺のこと、どっかに書いてないかな」



 そう思いながらパラパラと日記をめくり、優真は自分のことだと思わしき記載を見つけた。



 ――――――――


 ■2016年9月28日

 最近よく青が遊びにくる。

 和美が喜んでいる。



 ■2016年10月2日

 和美とソラの散歩に行った。

 途中で青と会った。

 


 ――――――――



 優真の脳裏に、弁護士の三浦の言葉が浮かんだ。

『片瀬様は、雨宮様を青くんと呼んで嬉しそうに話をしていらっしゃいました』



「つまり、この青って、俺のことだよな……。このあたりから俺が遊びに来てたってことか」



 優真は読み進めた。


 日付が進むにつれ、字がどんどん走り書きに近くなり、内容が不可解なものになっていく。



 ――――――――

 ■2017年6月3日

 和美の機嫌がいい

 青の爪を手に入れたようだ。



 ■2017年7月1日

 和美が、青の髪を庭に埋めた。

 顔色が良くなったようで何よりだ。



 ==



 ■2017年8月25日

 青が引っ越した

 中途半端に終わってしまった

 替わりを見つけた



 ■2017年10月14日

 ニワトリが階段から落ちて死んでしまった。

 泣き叫ぶ和美に付き合い、二人で穴を掘り、炭を入れた。

 炭を入れて埋めると和美は嘘のように落ち着いた。



 ==



 ■2018年8月20日

 和美が新しいニワトリを捕まえてきた。

 炭が足りない。

 炭だ、炭 炭 炭 炭 炭



 ■2018年10月30日

 金木犀を植えた。

 庭は静かだ

 もう鳴かない



 == 



 ■2019年6月11日

 和美が、先月埋めたニワトリでは足りないと嘆いていた。

 青が途中で終わったからだ



 == 



 ■2021年8月5日

 和美が埼玉に行った

 もう少しだ

 おかしくてたまらない、笑いが止まらない



 == 



 ■2025年12月9日

 余命宣告された、半年

 和美の最後の心残りを何とかしてやりたい

 和美が叫んでいる

 もう呼ばなければ、呼ぶんだ 呼ぶ 呼ぶ 呼ぶ 呼ぶ 呼ぶ 呼ぶ 呼ぶ 呼ぶ



 ■2026年1月5日

 なにかがいる


 ■■■が■■、和美■■い■いる 笑■■い■、■■埋め■■■ 青■■■■■■、■■で■めて、炭■■■て



 ――――――――



 最後のページは真っ黒に塗りつぶされていて読めなくなっている。



「く、狂ってる……」



 優真の手が震え始めた。

 呼吸が浅くなり、全身が氷のように冷たくなっていく。


 顔を上げると、窓の向こうに真っ暗な庭が見えた。

 わずかに開いた窓から、風の音と共に沈丁花の強い香りが漂ってくる。


 優真が掠れた声でつぶやいた。



「おじさんは……何を埋めたんだ……?」













あと1話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ