2027年3月21日 『故障』
門を開けて家に入ると、玄関横にあるセキュリティパネルからロックを解除する。
そして、廊下の電気を付けて、優真は2階への階段に通じる扉をジッと見つめた。
交番の掲示板に張ってあった行方不明のポスターの女の子と、
和美おばさんの部屋にあった写真の子は、同一人物のように見えた。
(確かめてみるべきか……)
優真はゆっくりとドアノブに手を掛けた。
少し悩んだ末、ため息をつきながら手を離す。
(……確かめたところで、どうするんだって話だよな)
普通に考えれば、同一人物でも全く問題ない。
部屋に写真があったという理由で、和美おばさんと行方不明事件を関連付けるのは、明らかに論理の飛躍だ。
(俺、ちょっと神経質になりすぎてる)
優真はため息をつくと、扉を背に廊下を歩き始めた。
明日は美咲が来てくれる。
今日は余計なことは考えずに、さっさと寝て、明日朝がんばって掃除しよう。
優真は台所に向かうと、手早くラーメンを作って食べた。
シャワーを浴びて歯を磨くと、自室に向かう。
自室は、冷え切っていた。
ストーブをつけると、ピシピシと家鳴りがし始める。
(最近、妙に家鳴りが気になるんだよな……)
優真はいつも通りノイズキャンセリングのイヤホンを耳に入れた。
音楽を聴きながら、今日美咲が好きだと言っていた漫画をスマホで読み始める。
(結構面白いな、これ)
無料分を読み終わり、優真は課金に踏み切った。
明日美咲と話をしようと、続きを読み始める。
それが終わると、アニメ化情報をチェックし、アニメ1話を軽く見る。
――そして、ふと気が付くと、日付がすでに変わっていた。
家の中は静まり帰っており、ときおり外からざわざわと風の音が聞こえてくる。
優真は軽く伸びをした。
(明日早いし、そろそろ寝ないとな)
ストーブを消すと、イヤホンをしたままベッドにもぐり込む。
そして、明日のことを考えながら、うとうとと目を閉じた――そのとき。
ッガ ガガガガ……
不意に、イヤホンから機械音がした。
ふっと音楽が止まる。
「……え?」
優真は起き上がると、イヤホンを外した。
一旦電源を切って起動しようとするものの、そのまま動かなくなる。
充電しようと試みるが、何をやっても充電ランプが光らない。
「うわ……最悪だ」
優真は、眉をひそめた。
スマホを取り出し、故障したときの対処について調べはじめた――そのとき。
ピシッ……ピシッ……
天井から、大きな家鳴りがした。
続けて廊下の天井や扉から、続けざまに家鳴りが鳴り始める。
「……っ!」
優真はスマホを持ったまま凍りついた。
まるで家にいる何かが蠢き始めたような感覚に襲われ、体が動かない。
そして、しばらく固まった後、優真は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「あー!!! くそっ!!!」
恐怖を振り払うように勢いよくベッドから立ち上がると、拳を握りしめながら叫ぶ。
「わからないから怖いんだ! わかったら怖くない!」
優真はイヤホンを投げ捨てると部屋を飛び出した。
1階を走り回って全ての電気をつける。
そして、2階の階段に通じる扉の前に仁王立ちすると、挑むようにドアノブを睨みつけた。
「調べるぞ!」
こんな得体の知れない不安を抱えたままでは平和に暮らせない。
明日には美咲も来るし、あと半月もすれば大学院が始まる。
ここではっきりして、スッキリとした新生活を送るべきだ。
「まずは洋一おじさんの日記だ!」
優真は勢いよくドアを開けた。
暗い階段の上から古い油の匂いと淀んだ空気が漂ってくる。
「……っ!」
一瞬怯むものの、優真は素早く手を伸ばして電気をつけた。
息を詰めると、勢いよく階段を上っていく。
2階の廊下は、シンと静まり返っていた。
空気は重く淀んでおり、あちこちから家鳴りが聞こえてくる。
優真は息を詰めたまま洋一の部屋に飛び込んだ。
卓上に置いてあった日記帳と手帳を手に取ると、そのまま階段を駆け下りる。
そして、全てのドアを閉めると、肩で息をしながら、リビングのテーブルの上に日記帳を置いた。
波打つ胸に手を当てながら、椅子に座る。
そして大きく息を吐くと、思い切って日記を開いた。




