表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庭には3羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第3章 反転

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/24

2027年3月20日 『参拝』

 

 美咲と約束した当日。

 心地よい春風が吹く、天気の良いお昼前。


 黒いパーカーにボディバッグを斜め掛けした優真が、

 ソワソワしながら駅で待っていた。


 美咲は車を出そうかと申し出てくれたのだが、今日は電車で出かけることになった。

 何となく悪いと思ったのもあるが、電車からだと海が見えるし、一緒に街を歩くのも楽しいのではないかと思ったからだ。


 スマホをちらちら見ながら待っていると、美咲が現れた。



「ごめんなさい、お待たせしました」

「いえ、俺もさっき来たところです」



 そう言いながら、優真は美咲をさりげなく見た。

 髪の毛をゆるく後ろにまとめており、

 アイボリーのカーディガンにワイドジーンズを着て、小さなショルダーバッグを掛けている。



(なんか……大人っぽいけど可愛いな)



 優真はやや緊張しながら美咲と駅のホームに入った。

 すぐに来た電車に乗る。


 電車は休日の昼間ということもあり、そこそこ込み合っていた。

 みんな春の装いをしており、どこか楽しそうだ。


 優真がやや緊張の面持ちで電車の入り口付近に立っていると、

 正面に立っていた美咲が優真を見上げた。



「昨日、お勧めの漫画読みましたよ」

「おお、読んでくれたんですね」

「はい、すごく面白かったです」



 電車の、ガタンゴトン、という音を聞きながら、2人は漫画の話しを始めた。

 話が弾むにつれ、優真の肩の力が抜けてきた。緊張がほぐれてくるのを感じる。


 その後、電車は2つ隣の駅に到着した。

 駅を降りると、思いのほか人が多かった。

 外国人も多く、観光地のような雰囲気だ。



「もしかして、この人たち、あの神社に行くんでしょうか」

「ここの神社の桜は早咲きなので、それを見に来る人が多いんです」



 優真は美咲に歩調を合わせながら、神社に向かって歩き始めた。


 神社への道の左右には店が並んでおり、とても賑やかだった。

 名物なのか、あちこちで煎餅を焼いており、醤油の焦げる良い香りが漂っている。


 優真は周囲をキョロキョロと見回した。



「にぎやかですね」

「ええ、楽しいですね」



 2人は商店街を抜けると、神社の鳥居をくぐった。

 美しく咲く桜をながめながら石畳の上を歩き、授与所に入る。


 神社の独特の香りが漂う授与所には、人がたくさんおり、皆丸いビー玉のようなお守りを買い求めていた。


 優真と美咲は、それぞれ1つずつ買うと、外に出た。

 柵に囲まれた穴に向かう。


 穴の傍で、美咲が尋ねた。



「雨宮さんは、何をお願いするんですか?」

「そうですね……」



 優真は思案に暮れた。

 あまりこういう願掛けは信じていないが、するとすれば……



「4月から始まる大学院生活が上手くいくように……ですかね。――美咲さんは?」



 美咲が微笑んだ。



「私は毎年同じで、“湊が見つかりますように”です」



 優真は切ない気持ちになった。

 美咲はずっと湊を探しているのだと、改めて思う。


 彼はうなずいた。



「……じゃあ、俺も同じにします」

「いいんですか?」

「はい。俺も久しぶりに会いたいなと思っているんで」



 美咲が嬉しそうに「ありがとうございます」と微笑む。


 その後、2人は並んで丸いお守りを穴の中に投げ入れた。

 手を、パンパン、と叩いて願いごとをする。



(湊が見つかりますように)



 目をつぶり、心の中で願い事をつぶやく。


 その後、2人は境内で桜を見た後、商店街に戻った。

 外国人が更に増えており、かなり国際的な雰囲気だ。



「外国の方、多いですね」

「ええ、ここから歩いて海の近くのアニメの聖地を巡礼するのが流行りみたいです」



 そこから、2人は焼きたてのお煎餅を買い食いしたり、甘酒を飲んだり楽しんだ。

 歩き疲れると、レトロな喫茶店に入ってお茶を飲む。


 優真は明るい気持ちになった。

 こんなに楽しいと思ったのは久しぶりだ。


 美咲もずっと笑顔で、どうやら楽しんでくれているようだ。


 お互い好きなものの話を一通りした後、話題は家庭菜園に移った。

 美咲がアイスコーヒーを飲みながら尋ねた。



「そういえば、家庭菜園は上手くいっていますか?」

「いえ……実は全然上手くいかなくて」



 優真がしょげたように言う。

 庭の方は忙しくて手が付けられていないし、植木鉢に植えたベビーリーフもちっとも育たないのだ。



「芽は出るんですけど、すぐに枯れてしまって……」



 優真の話に、美咲は首をかしげた。



「水さえやっておけばいっぱい生えてくるはずなんですけど……、土はどうしていますか?」

「最初は野菜培養土と庭の土を半々くらいにして、次は7:3くらいにしました」

「庭の土って粘土質な感じですか?」

「いえ、普通の土です」



 美咲が難しい顔で考え込んだ。

 どうやら聞いただけでは、うまくいかない理由が分からないらしい。


 しばらく考えた末、美咲が遠慮がちに優真を見た。



「もしよかったら、私、見に行きましょうか?」



 優真のドキッとした。呼吸が一瞬浅くなる。



(これは……うちに来てくれるってことだよな)



 高鳴る胸を押さえながら、優真は平静を装って尋ねた。



「俺は助かりますけど、いいんですか?」

「はい、全然大丈夫です。なんだかとても気になりますし」



 美咲が微笑みながら言う。


 その後、2人は予定について話し合った。

 お互い都合が良いということで、翌日の昼頃に美咲が優真の家に行くことになる。



「じゃあ、私、お昼を持っていきますね」

「ありがとうございます。俺は飲み物を準備しておきます」



 さりげなく返事をしながら、優真はドキドキした。

 明日の午前中は、気合を入れて掃除をしよう、と心に決める。


 しばらくして、優真は美咲と一緒に喫茶店を出た。

 楽しく会話をしながら、足取り軽く駅に向かう。


 そして、駅に入る前に、美咲が口を開いた。




「私、ちょっとお手洗い行ってきますね」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ