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庭には3羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第3章 反転

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19/24

2027年2月5日 『葛藤』

 

 和美おばさんの部屋から記録を見つけてから、約1週間後。

 2027年2月5日。


 雪がちらつくなか、優真は都内の大学を訪れていた。

 今日は卒論の発表会で、全員が集まることになっている。


 優真が会場に足を踏み入れると、皆が一斉に驚いた顔をした。



「どうしたんだよ、すごい痩せてるじゃないか!」

「顔色が悪いぞ」



 優真はごまかすように笑った。



「ああ、うん。病み上がりなんだよ。最近大きな風邪ひいちゃってさ」



 和美の部屋で記録や書類を見て以来、

 優真は眠れない夜を過ごしていた。


 和美が、子どもが欲しくて、おまじない的なことをやっていたのは、分からなくもない。

 きっとあの地域の「子どもができて一人前」という空気に相当追い詰められていたのだろう、と思う。


 でも、優真のことを調べていたのが、どうしても理解できない。



(もしかして、遺産を譲るつもりで調べていた……?)



 そう思ってはみるものの、

 和美おばさんは脳梗塞で亡くなったと聞いている。

 自分の死を知らない人が死後のために準備万端にするとは思えない。



(そもそも、なんで洋一おじさんは俺に遺産を譲ろうと思ったんだ……?)



 いくら考えても答えが出ない。

 加えて、家の中がどうも不気味に感じてしまって、眠りについてもすぐに目が覚めてしまう。


 そんな状態が1週間ほど続き、優真の顔色はこれ以上ないほど悪くなっていた。




 その後、卒論の発表会は滞りなく進んだ。

 ゼミの全員で集まれるのが最後ということで、みんなで大学近くの飲み屋に行く。


 優真が鷺ヶ首の家に住んでいる話をすると、全員が羨ましそうな顔をした。



「いいな、それ最高じゃん!」

「俺も田舎に住んでリモートしながら暮らしたい」



 優真はどこかホッとした気持ちになった。

 客観的に見て、やはり羨ましいほど良い話なんだよな、と思う。

 一方で、果たしてそうなのだろうかという疑問も沸いてくる。



(でもなあ、あの家を出るのもな……)



 この少子化の世の中で、将来年金がもらえるとは限らない。

 このまま世の中の景気が傾いて、突然仕事をクビになることだって考えられる。


 もし鷺ヶ首に住み続けて、遺産の1500万円をNISAに全額投資できれば、60歳で1億だって夢じゃない。

 順調にいけば50代でFIREだってできるかもしれない。


 これくらいのことで引っ越すというのは、あまりに賢くない気がする。



(……よし、一旦離れるか)



 次の予定は、大学の卒業式である3月15日だ。



(よし、それまでは、ちょっと実家に帰るか)



 優真は、翌日から1か月ほど、実家で過ごすことにした。


 実家に帰ると、母が優真を見て驚いた顔をした。

 事前に、忙しくてやつれたと言っておいたのだが、それ以上だったらしい。


 父母は働いていることから、優真は実家でのんびりと過ごした。

 家で本を読んだり、あちこち買い物に行ったりして過ごす。


 しばらくして、よく休んだせいか、気持ちが明るくなってきた。

 片瀬邸についても、あまり気にしない方が良いのではないかと思えてくる。



(それか、徹底的に調べるっていうのもアリかもな)



 分からないから怖いのであって、分かったら怖くなくなる気がする。


 ふと、おじさんの日記を読めば色々分かるかもしれないと思うものの、

 故人の日記を見るのは、やはり気が引ける。



(まあ……あの報告書も5年も前のものだし、今更気にして何になるんだって話だよな……)





 ――そんな風に過ごしていた、3月のある日。

 美咲からLINEがあった。


 美咲とはちょくちょくLINEのやり取りをしており、精神的にずいぶん助けられている。

 最近はお互い好きな漫画を勧めあうようになった。


 美咲によると、3月中旬にある小学校の卒業式が終わると、時間に余裕ができるらしい。


 ――――――――――――

 美咲:

 もしよかったら、前に行った神社に、

 新年度の願掛けしに行きませんか?

 ――――――――――――



 優真は思わず目を見開いた。



(これって、誘ってくれてるってことだよな……?)



 彼は浮かれた気持ちで「行きたいです」とメッセージを返した。


 その後、色々やり取りをして、

 卒業式が終わったその週末に出かける約束をする。


 優真の気持ちが一気に明るくなった。

 鷺ヶ首に戻るのが少し億劫だったのだが、美咲のお陰でだいぶ気が楽になった。




 ――そして、3月14日。

 優真は久々に東京に戻った。

 そのまま大学の卒業式に出て、翌日、鷺ヶ首の片瀬邸に帰る。


 鷺ヶ首はすっかり春めいており、木々が若葉色に染まっていた。

 片瀬邸も明るい雰囲気で、1か月前に感じた嫌な感じはもうなくなっていた。



(良かった……)



 優真はホッとした気持ちになった。



(やっぱ冬で寒かったし、変な気持ちになってたんだな)



 とはいえ、やはり夕方からの家鳴りを聞くのは嫌で。

 その日、優真はノイズキャンセリングのイヤホンをしたまま眠りについた。







戻ってきてしまいました。

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