2027年1月20日 『和美の部屋』②
優真は震える手でノートをまとめた。
元の通りに封筒を上に乗せると、棚の上に戻そうとする。
しかし――
バサバサッ
手が震えていたせいか、封筒が落ちてしまった。
中身が床にばらまかれる。
慌てて拾い集めようとして、
「……っ!」
優真は大きく息を呑んだ。
そこにあったのは、優真の写真だった。
埼玉の中学校の制服を着て、同級生と道路を歩いている。
「な、なんだこれ……」
これ以上ないほど動揺しながら、優真は写真を見つめた。
どう見ても、これは隠し撮りだ。
落ちていた紙に目を移すと、それはWordで作られたような報告書の形式のもので、
こんなことが書かれていた。
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【調査報告書】
案件名:雨宮優真に関する調査
生年月日:2005年10月14日
調査期間:2021年6月3日〜6月10日
ご依頼主:片瀬和美様
提出者:ヒビキ調査事務所
■ 1. 基本情報
対象は現在、埼玉県川越市・A町の集合住宅に居住。
家族構成は父・母・本人の3人暮らし。
両親は共働きの模様、平日朝8:00から19:00頃まで不在
■ 2. 日常行動
● 平日
・08:00前後に自宅を出発。徒歩で川越A中学校へ登校。
・部活動には所属しておらず、授業終了後は寄り道せずまっすぐ帰宅。
・週3回(火・木・土)、自宅から徒歩8分の駅前にある学習塾へ徒歩で通う。
時間帯は19:00〜21:00。終了後は徒歩で帰宅。
・帰宅後は自室で過ごすことが多く、外出はほとんど見られない。
● 休日
・外出は少なく、母親と買い物に出る程度。
・それ以外は自宅で読書やパソコン作業をして過ごす傾向が強い。
・土曜日は朝から市立図書館に向かい、午前〜昼過ぎまで滞在することが多い。
■ 3. 行動傾向
対象は規則正しい生活を送っており、
夜間の外出、不審な人物との接触、学校外でのトラブルなどは確認されなかった。
交友関係は限定的で、放課後に友人と行動する様子はほとんど見られなかった。
■ 4. 総括
学業を中心とした生活を送っており、外部との接触は最小限。
調査期間中、特記すべき異常行動は確認されなかった。
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優真の手がこれ以上ないほど震え始めた。
何度も何度も読み返す。
(……これはつまり、和美おばさんが、俺のことを調べていたってことか……?)
そんなバカなと思う優真の脳裏に、母の話がよみがえった。
『5年くらい前に、埼玉県の駅で会って、ほら、あんた挨拶したじゃない』
『親戚があのあたりにお住まいって話だったわ』
聞いた当時は、ほとんど覚えてなくてスルーしたが、
このレポートを見る限り、それは偶然ではなく、偶然に装って自分に会いにきたということになる。
(なんで、そんな……)
いくら考えても分からず、頭を抱えている優真の耳に、
家鳴りの音が飛び込んできた。
ピシッ……ピシッ……
優真は凍りついた。
聞き慣れているはずの家鳴りが、やけに気持ちが悪く感じる。
まるで優真に対して何か叫んでいるようだ。
「で、出よう」
彼は震える手で乱暴に書類を封筒に入れると、ノートと共に棚の上に置いた。
電気を消してドアを閉めると、夢中で階段を駆け下りる。
バタンッ
階段につながるドアを閉めると、優真は急いで鍵を掛けた。
家鳴りの音から逃れるように、震える手でノイキャンのイヤホンをする。
そして、恐怖のまま部屋に戻ると、鍵をかけた。
部屋中の電気をつけると、ベッドにもぐり込む。
ベッドの中で、優真は頭を抱えた。
頭の中が混乱し過ぎて、まともに働かない。
(なんだあれ!? どういうことだよ!?)
そして、優真は気が付いた。
なぜ自分が遺産をもらったのか、明確な理由がまだ分かっていない。
その日、優真は一睡もできなかった。




