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庭には3羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第3章 反転

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17/24

2027年1月20日 『和美の部屋』①

 

 優真は炬燵を取り出した。

 炬燵布団を探し始めた――そのとき。



 バサバサバサッ



 上から、大量の大学ノートと封筒が降ってきた。

 どうやらクローゼットの棚の上に置いてあったらしい。


 何気なく1冊を開いてみると、それは何かの記録帳のようなものだった。

 おばさんのものらしき丁寧な字が並んでいる。


 ―――――――――――――

 ■2005年9月1日

 ・基礎体温:36.18℃

 ・処置:クロミッド服用5日目。副作用か、少し頭痛がする。


 ―――――――――――――



 優真は首をかしげた。



「クロミッドってなんだ?」



 スマホで検索してみると、それは女性の排卵を促すための薬だった。

 主に不妊治療に使われる薬の名前らしい。



「もしかして、和美おばさん、不妊治療していたのか?」



 優真は続きを読み始めた。



 ―――――――――――――

 ■2005年9月1日

 ・基礎体温:36.18℃

 ・処置:クロミッド服用5日目。副作用か、少し頭痛がする。


 また生理が来てしまった。これで9回目。

 覚悟していたつもりなのに、やっぱり辛い。

 洋一さんは「焦らなくていい」って言うけれど、私はそんなに平気になれない。



 ■2005年10月3日

 ・基礎体温:36.74℃

 ・処置:HCG注射。下腹部が張って痛い。期待しすぎてはいけない。


 町内会の集まりで、また「子どもはまだ?」と聞かれた。

 笑ってごまかしたけれど、心の中はぐしゃぐしゃだ。

 泣きたい。



 ■2005年 11月15日

 ・基礎体温:36.31℃

 ・処置:


 まただめだった。

 年賀状を整理していたら、友達の“子どもが生まれました”の写真がいっぱい出てきた。

 嬉しいはずなのに、置いていかれるような気がした。

 洋一さんはのんびりしてるけど、もう少し分かって欲しいというのは求めすぎなのだろうか。



 ―――――――――――――



 優真は深いため息をついた。



「……なるほど、おばさんは、ずっと不妊治療をしていたんだな」



 脳裏に浮かぶのは、母の言葉だ。



「鷺ヶ首って考え方がすごく古い街なの」

「子どもが2人いて一人前っていう考え方があるみたいで、お母さんもずいぶん言われたわ」



 続けて読むと、そこには和美おばさんの苦悩が書かれていた。

 妊娠を期待してはダメ、の繰り返しで、疲弊していくのが見て取れる。


 優真はやるせない気持ちで息をついた。



「おばさん、辛かっただろうな……」



 洋一おじさんが、和美おばさんが子どもを抱いている絵を描いていたのは、

 この苦悩を見ていたからかもしれないな、と思う。


 そして、何の気なしに、一番新しそうなノートを開いて見て――

 優真は眉をひそめた。



(……なんか、ちょっと雰囲気が変わったぞ)



 文字はボールペンではなく、マジックのようなもので書かれており、

 文字も乱れている。


 ――――――――――

 ■2015年6月30日

 これで10日毎日夜に神社に祈願に行っているが、効果はない。

 もっと夜中に行くべきなのだろうか。



 ■2015年7月2日

 向かいの家に子どもが生まれたというので、土をもらってきた。

 庭に撒いた。効果があればいいけど。



 ■2015年8月10日

 子どものお茶碗をもらってきて埋めた。

 気持ちが楽になった。



 ■2015年9月5日

 生理が遅れた。

 子ども服を埋めたからだ。やはり子供に近いものは違う。



 ――――――――――



「……なんだこれ」



 優真は思わず目を見開いた。


 もう治療の内容はどこにも書いておらず、

 迷信にすがる狂気のようなものが伝わってくる。


 あまりの不気味さに、優真の背筋に冷たいものが走った。

 たまらなくなってノートを閉じる。



「や、やばい、これ」



 優真の呼吸が浅くなった。

 見てはいけないものを見てしまった気がする。



「……も、戻ろう」



 優真は震える手でノートをまとめた。

 急いで棚の上に戻そうとして、誤って上に乗せた封筒を落としてしまう。



 バサバサッ



 封筒の中身が床にばらまかれた。

 慌てて拾い集めようとして、



「……っ!」



 優真は大きく息を呑んだ。







見てしまいましたね。

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