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庭には3羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第2章 片瀬邸

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【閑話②】2026年12月5日 『アトリエ』


本日2話目です。

 

 画廊から電話がかかってきた、その週の土曜日。

 薄曇りの少し肌寒いお昼前。


 スマホを持った優真が、階段につながるドアの前に立っていた。

 ドアノブに手を掛ける。



 キィィ



 ドアが開き、淀んだ空気が漂ってきた。

 古い油の匂いがする



「この匂い、独特だよな」



 優真は電気を付けると、階段を上がり始めた。

 2階に到着すると、廊下の突き当りにある窓を開けて、外の空気を入れる。


 そして、アトリエのドアを開けると、そこには薄暗い部屋が広がっていた。

 カーテンは固く閉じられており、

 壁一面に、和美と顔のない子どもの絵が貼られている。



(相変わらず、この部屋ちょっと怖いよな……)



 黒く塗りつぶされた子どもの顔が目に留まり、優真は思わず身震いした。

 足早に部屋を横切ると、窓に飛びついてカーテンを開けた。



 ガラッ



 窓が重い音を立てて開き、部屋が一気に明るくなった。

 冷たい潮風が、部屋に流れ込んでくる。



「ふう……」



 優真はホッとしながら、窓枠に寄りかかった。

 改めて絵を見て、赤や明るい緑などの明るい彩色に安堵する。



「ちょっと寒いけど、開けとくか」



 そうつぶやきながら、彼は部屋を見回した。

 隅に大きなクローゼットがあるのを見つける。



「……失礼します」



 そう言いながら開くと、そこには白くて大きな段ボールが積まれていた。

 数は10箱以上で、黒のマジックで、


『2021年』、『2018年』、『2012年』



 といった数字が書かれている。



「これ、何だ?」



 優真は、一番取り出しやそうな『2018年』と書かれた箱を引っ張り出した。

 開けると、箱の半分くらいのところまでファイルが詰められている。


 ファイルには、『1月』、『2月』、など月ごとのラベルが貼られており、中には水彩画が丁寧に挟まれていた。



「なるほど……」



 優真は腕を組んだ。

 どうやら、水彩で描かれた習作は、年と月ごとに整理されているらしい。



(おじさん、結構几帳面だったんだな)



 クローゼットの横には大きな木製の棚が置かれており、

 布の掛かった油絵が10枚ほど並べられていた。



(なるほど。絵って、こうやって保管するのか)



 優真は、それらを一枚ずつ取り出して写真を撮り始めた。


 絵は全て風景画で、港、船、水辺など、海を描いたものが多い。

 どれも静かで、美しい絵だ。



(いい絵が多いな)



 優真は撮影を終えると、油絵を丁寧に元の位置へ戻した。


 そして、壁一面の子どもの絵に目を向ける。



「……これ、上村さんが来るなら、片付けた方がいいよな……」



 とりあえず、外して段ボールにしまおうと考えると、

 優真は、壁に貼られた絵を外し始めた。


 四隅に刺さっている画鋲を取り、一枚ずつ剥がしていく。

 最初に外した風景画の裏を見ると、『2016年3月』と書かれていた。



「なるほど、裏に年月が書いてあるんだな」



 優真は次々に画鋲を外していった。

 床には、剥がした絵がどんどん積み上がっていく。


 全てはがし終えると、優真はそれらを年代ごとに分け始めた。

 床に丁寧に並べていく。


 そして、年代別に整理し終わり、優真は首をかしげた。



「……これ、どういうことだ?」



 風景画には2018年や2017年など比較的古いものが多いが、

 和美と子どもの絵は、ほとんどが近年のものだった。



「和美おばさんが亡くなったのって、確か、2022年だったよな……?」



 つまり、その後も洋一は、和美と子どもの絵を描き続けていたということになる。



「……1人で寂しかったのかもな」



 優真はややしんみりしながら、段ボールをクローゼットから出した。


 年代別に整理した絵を収納し始める。

 そして、『2017年』と書かれた箱に、絵をしまおうとして――



「……ん?」



 優真は、ふと手を止めた。

 箱の中からファイルを取り出し、中の絵をパラパラとめくる。



(……これ、ぜんぶ風景画だ)



 この時には、和美と子どもの絵は描いていなかったということだろうか。


 優真は『2018年』、『2019年』と順番に絵を箱にしまっていった。

 その度に箱の中を確認するが、やはり風景画ばかりで、子どもの絵は見当たらない。



「あの絵……いつから描き始めたんだ?」



 そして、2022年の箱を確認して、優真は首をかしげた。



(これも全部、風景画だ)



 確か、和美はこの年に亡くなったはずだ。


 そして、2023年の箱を開けた瞬間、優真は思わず目を見張った。



「うわ、すご……」



 箱の中には、今までの倍以上の量の絵が詰め込まれていた。

 風景画もあるが、それに混じって、和美と顔のない子どもの絵が大量に入っている。


 優真は箱に絵をしまいながら思案に暮れた。



(つまり……おばさんが死んだ後から、描き始めたってことか)



 次の『2024年』の箱を見ると、風景画が一気に減った。

 8割近くが子どもの絵になる。


 そして、『2025年』の箱は、全て和美と顔のない子どもの絵になっていた。



(しかも、すごいな、量)



 箱が閉まらないのではないかと思うほど、パンパンだ。


 もしかして、リビングに飾ってあった、まるで生きているかのような和美と子どもの絵は、洋一の最後の作品かもしれない、と思う。


 和美がいなくなった寂しさを埋めようとして、あの絵を描き上げたのかもしれない。



(ちょっと怖いけど、悲しい感じもするな……)



 優真はため息をつくと、全ての絵を段ボールにしまった。

 箱をクローゼットの中へ戻し始める。


 そして、最後の一箱を押し込み、丁寧に整理してから立ち上がった。

 窓を閉め、部屋を出る。


 そして廊下に出た瞬間、優真は目を瞬かせた。



「あれ?」



 廊下が妙に薄暗い。

 スマホを取り出して時間を見ると、時刻はすでに5時を過ぎていた。



「え、もうそんな時間?」



 夢中になっていたせいか、時間が経つのが異様に早く感じる。


 優真は冷え切った廊下の窓を閉め、鍵を掛けた。

 1階へ続く階段を下りる。


 そして、1階に下りると、階段に通じる扉を、パタン、と閉めた。



「あー……なんか疲れたな」



 優真は肩を回した。

 妙に肩が凝っている。



「さて、夕飯でも食べるか」



 夕飯の支度をするためリビングへ向かう。




 ――そして、その日の夜。

 優真は撮影した油絵の写真を、上村へメールで送った。







ここで第2章終了です。

お読みいただきありがとうございました。


良かったらブクマ・感想などもぜひ。


そして、あらすじにて予告をしておりますが、第3章から空気が変わります。

私の作品を普段から読んでくださっている方は、色がかなり違いますのでご注意ください。



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