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庭には3羽、ニワトリがいる。  作者: 優木凛々
第2章 片瀬邸

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12/24

2026年11月21日 『家庭菜園』②


本日2話目です。

 

 美咲との約束の日まで、優真は忙しく過ごした。

 卒論が大詰めを迎えたことに加え、気温が急に下がったため、冬支度をする必要があったからだ。


 幸い、この家は暖房が整っており、新たに買う必要はなかった。

 しかし、家が広く、暖房費が心配だ。


 考えた末、優真は、夜は1階の自室で過ごすことにした。

 窓ガラスにプチプチした断熱材を張り、防寒に努める。


 暖房を付けるようになったせいか、家鳴りが頻繁になった。

 特に天井からの音が大きく、夜は特に気になる。



(ちょっとうるさいんだよな……)



 隣の生活音よりは100倍マシだが、

 うるさいものはうるさい。

 部屋にいる時は、ノイキャンを付けることで対処することにする。



 美咲とは、何度かメッセージのやり取りをした。


 11月21日、土曜日の10:00、

 ドラッグストアの駐車場で待ち合わせることになる。


 優真は少し浮かれた気分になった。

 別に下心がある訳ではないが、女性と一緒に出掛けると思うと、なんだか楽しい気持ちになる。




 ***




 そして、迎えた11月21日。

 優真は、約束の5分前にドラッグストアの駐車場に到着した。


 キョロキョロしていると、ライトブルーのコンパクトカーから美咲が出てきた。

 優真を見て微笑みながら口を開く。



「こんにちは、時間ぴったりですね」

「はい、今日はよろしくお願いします」



 優真はカクカクと頭を下げた。

 美咲に促されるまま助手席に行儀よく座る。


 車がゆっくりと走り出した。


 優真がやや緊張しながら外をながめた。



(こういう時って、何を話せばいいんだ……?)



 密かに頭を悩ませていると、美咲が何気なく声を掛けてきた。



「雨宮さんって、2丁目のどこのへんにお住まいなんですか?」

「ええっと、端の壁が高い家って分かりますか?」

「……もしかして、片瀬さんの家ですか?」



 どうやら、美咲は片瀬邸を知っているらしい。



「昔、湊がよく言っていたんです。庭が広くて茶色い可愛い犬がいるって」



 そう言われて、優真は思い出した。

 確か、湊と一緒に遊びに行って、和美おばさんにお菓子をもらったな、と。



「よく覚えてますね、俺、言われるまで完全に抜けてました」

「私、そのころ中学生だったんで、結構覚えているんです。画家のおじさんに絵を褒めてもらったって喜んでいました」

「ああ、湊、絵、上手かったですよね」



 共通の話題を探しながら、車は道路を進んだ。

 隣の地区にあるホームセンターに到着する。


 入り口近くの園芸コーナーに行くと、肥料や植物の苗などが並んでいた。

 お年寄り数人が熱心に苗を見ている。


 優真は美咲の勧めで畑用の肥料と、野菜培養土を購入した。

 植木鉢でベビーリーフを育てるなら、土と培養土を混ぜた方がいいらしい。



「美咲さん、詳しいんですね」

「ええ、仕事で勉強したんです」



 美咲は近くの小学校の先生で、園芸部の顧問をしているらしい。


 優真は納得の目で美咲を見た。

 面倒見が良い人だと思ったら、先生だった。


 2人は、それぞれ肥料や腐葉土の大袋を購入すると、台車で車に運んだ。

 優真が車の荷台にそれらを積み込む。


 そして、最後の1袋を積み終わり、

 やれやれと思って顔を上げると、優真の目に道路の先に鳥居が映った。



「ずいぶん大きな鳥居ですね」

「このあたりで一番大きい神社ですね。せっかくですから、行ってみましょうか」



 2人は歩いて神社に向かった。

 神社はかなり大きく、広々としている。


 境内を歩きながら、美咲が口を開いた。



「ここの神社って、ちょっと面白いんですよ」

「そうなんですか?」

「はい、ビー玉みたいなお守りがあるんです」



 社殿の前に到着すると、あちこちに竹の柵で囲まれている場所があった。

 柵の中には、地面に埋まった賽銭箱のようなものがあり、中がキラキラと光っている。


 傍の立札には、こんなことが書いてあった。


 ―――――――

<埋納祈願の由来>


 当社に伝わる「埋納まいのう」は、

 願いを込めた供物を地中に納めることで成就を祈る、古くからの信仰に基づく祈願です。


 その始まりは平安末期、

 源頼朝公が石橋山の戦いに敗れ、追手に囲まれた際の出来事と伝えられています。

 頼朝公が身に帯びていた玉を地に埋めたところ、不思議と道が開け、難を逃れたと語り継がれています。

 ―――――――



 優真は顎に指を当てて考え込んだ。



(そういえば、このあたりで源頼朝が逃げ回ったって、日本史でやったな)



 美咲によると、神社ではビー玉のようなお守りを受けることができ、

 それに願いを込めて穴の中に投げ込むらしい。



「新年に勘掛けすると、願いが叶うって有名なんですよ」



 優真は穴の中をまじまじと見た。

 確かに、ものすごい数の玉が入っている。



(1個500円としても、この穴だけで100万円くらいありそうだ)



 雨が降った時どうするんだろうな、と何となく考える。




 ――その後、2人はお昼を食べようと、近くのファミレスに入った。

 とりとめない話に花を咲かせる。


 話をしながら、優真は居心地の良さを覚えていた。



(話しやすいし、大人だし、なんか良い感じの人だな)



 ファミレスに2時間ほどいた後、優真は美咲と共に鷺ヶ首に戻った。

 まず、美咲の家に腐葉土を降ろし、次に優真の家に肥料と培養土を降ろす。


 美咲がにっこり笑った。



「野菜を植えるとき、何か分からないことがあったら、遠慮なく聞いてください」

「ありがとうございます」



 優真はお礼を言うと、思い切って言った。



「あの、LINE、交換しませんか?」

「はい、いいですよ」



 優真は美咲をLINEを交換すると、手を振って見送った。

 車が見えなくなると、ふう、と息をつく。


 気持ちが高揚して、今すぐ畑を作りたい気分だ。



「よし、まだ明るいし、やるか」



 優真は張り切って、肥料培養土を物置に運んだ。

 ジャージに着替えると、ついでに買ってきた軍手をする。


 そして庭に出ると、周囲は少し暗くなり始めていた。


 優真はスコップと鋤を手に取ると、庭を見回した。

 おばさんが家庭菜園を作っていた場所がいいだろうと考えて、

 その場所の土をスコップで掘り始めた。



 ザクッザクッ



 土は思いのほか柔らかく、苦労せずに掘り進められた。


 畑の真横に植えられた金木犀が、盛りが過ぎた甘い香りを漂わせている。

 そして―――



「……ん? なんだこれ?」 



 優真は首をかしげた。

 よく見ようと、しゃがみ込む。







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