2026年11月14日 『家庭菜園』①
本日は土曜日ということで、3話いきます。
片瀬邸を相続してから約2か月後、11月14日。
紅葉が美しく色づいた前庭で、
優真は片隅に置かれた大きな物置の扉を開け、中を物色していた。
探しているのは、家庭菜園を作るための道具だ。
優真の家から鷺ヶ首まで、交通費が往復2000円ほどかかる。
頻繁に行き来していたため、お金がピンチになってきたのだ。
遺産1500万円は一応あるが、できれば全額NISAに投資したいと思っている。
ちなみに、NISAに200万円ほど投資をしてみたところ、210万円に増えた。
+10万円なんて、2か月分のバイト代並みだ。
(すごいな、金持ちがますます金持ちになるわけだ)
という訳で、1500万円を極力減らさない方法を考えた結果、
家庭菜園を作って食費を浮かせる――という考えに至った、という次第だ。
優真は物置の扉を開け放つと、懐中電灯で照らしながら中を見回した。
古い植木鉢や、鍬やスコップ数本、シャベル、ドラム缶などがある。
肥料らしき袋が幾つか残っており、空袋が端にまとめられている。
優真はスコップを手にとった。
錆びてはいるが、まだまだ使えそうだ。
そして、しゃがみ込んで肥料を調べて、優真は首をかしげた。
「くん炭……?」
袋は全部同じで「くん炭」と書かれていた。
その横にまとめて積んである空袋も、全て「くん炭」と書かれていた。
枚数をざっと数えてみると、20枚以上ある。
「15kg入りが20だから――300kg……?」
優真は首をかしげた。
こんな大量の炭を一体何に使ったのだろうか、と疑問になる。
スマホで調べると、こんなことが書いてあった。
――――――――――――
「くん炭」とは
もみがらから作られる炭のこと。
土壌改良剤として使われる。
アルカリ性のため、酸性の強い土地では、ph調整にも使われる。
用土の1~2割程度を目安に混ぜるか、たい肥と一緒にすき込むのが一般的。
――――――――――――
優真は合点がいった。
「なるほど、土壌改良剤か。――でも、300kgはさすがに多すぎないか……?」
大きな畑でも作ったのだろうか、などと考える。
そして、物置をあらかた探し終わると、優真は思案に暮れた。
調べたところによると、11月に植えられる野菜は、
玉ねぎやソラマメ、ほうれん草などらしい。
すぐに食べられるものではなさそうだが、春になれば収穫できる。
特に、玉ねぎは保存も効く。
ちなみに、すぐに育つものだとベビーリーフなどらしく、
植木鉢で育てられる上に、20日くらいで食べられるようになるらしい。
考えた末、優真は決めた。
「よし、畑を作って、玉ねぎをガンガン植えよう」
それまでは、植木鉢にベビーリーフを育てて食費を浮かせつつ、
春に一気に回収しよう。
「なんか、短期トレードと長期保有っぽいな」
優真はリビングに戻ると、玉ねぎの植え方を調べた。
玉ねぎは、どうやら植える前に土を作るのが基本らしく、土壌改良のための肥料が必要らしい。
「確か……スーパーに売ってた気がする」
優真はさっそく買いに行くことにした。
家を出ると、スーパーに向かう。
スーパーに到着すると、入り口の横に園芸コーナーがあった。
棚に、肥料の袋が並んでいる。
どれも大体2kg入りで600円くらいだ。
「どれがいいんだ……?」
優真は眉をひそめた。
野菜用や畑用、根菜用など色々な種類がある。
(玉ねぎだから、野菜用か? でもあれ、たぶん根菜だよな……?)
「雨宮さん……?」
横から声を掛けられた。
見ると、そこには先日会った新倉湊の姉、美咲が立っていた。
今日は黒髪をおしゃれにまとめており、腕には買い物袋を提げている。
(なんか、社会人って感じだな)
そんなことを思いながら、優真は頭を下げた。
「こんにちは、お久し振りです」
「こんにちは、先日はありがとうございます」
そう言うと、美咲は少し離れた横に立った。
「園芸されるんですか?」
「はい、家庭菜園を始めようと思ったんですけど、種類がいっぱいあってよく分からなくて」
「そうなんですね。何を植えるんですか?」
「玉ねぎです」
どうやら美咲は園芸に詳しいようで、クセがないからと『畑用』と書かれたものを勧めてくれた。
「でも、ここで買ったら高いですよ」
美咲によると、優真が考えているサイズの畑の場合、
20~30kgくらいの量が必要らしい。
優真は考え込んだ。
(確かに、20kg買ったら6000円くらいするな……)
悩んでいると、美咲が控えめに口を開いた。
「ホームセンターに行けば、たぶん1000円くらいで買えますよ」
優真は目を見開いた。
「え! そんなに安いんですか!?」
「はい、隣町にあるんです。……雨宮さんって、車、ありますか?」
「……ないです」
優真は肩を落とした。
隣町から20kgを運んでくるのはさすがに厳しい。
そんな優真を見て、美咲が考え込むような顔をした。
しばらくして、顔を上げた。
「来週の土曜日で良ければ、私行く予定ありますけど、一緒に行きますか?」
「……いいんですか?」
「はい、私は腐葉土買いたいと思っていたので、それも運んでもらえると助かります」
優真はうなずいた。
ただ連れてってもらうより、労働との対価として行くなら気が楽だ。
「わかりました。運びます」
「じゃあ、ええっと……インスタやってます?」
「はい、やってます」
優真は美咲とインスタの交換をした。
美咲が「じゃあ、連絡します」と言って去っていく。
優真はぼんやりとその後姿を見送った。
美咲のインスタを見ると、花や空の写真が並んでいる。
(なんか、いい感じの人だよな)
親切で、清潔感がある綺麗な人だよな、と思う。
周囲にいないタイプだ。
(……とりあえず、失礼がないようにしないとな)
そんなことを思いながら、優真はついでに夕飯の買い物をしようと、スーパーの中へと入っていった。




